男気溢れるクリスマスプレゼント! 工具メーカーが贈る「アドベンドカレンダー」……そのセット内容とは? 【DIY派はこれを揃えてお工具! 第6回】

都内の大手工具店で購入したWeraアドベンドカレンダー2022年度版。購入にあたって筆者が支払った金額は1万1200円(税込)。
子どもたちがサンタクロースという設定による両親から買い与えられたプレゼントに心を踊らせ、恋人たちが愛を確かめあった事後のこの日、筆者の身には修羅場が訪れていた。なぜそんなことになったのか? その原因は筆者が彼女へのクリスマスプレゼントに選んだWeraアドベンドカレンダー2022年度版にあった。今回はことの顛末を語るとともに、製品についても解説することににしよう。

クリスマスの日に起きた悲劇! それは、工具にまつわるものだった……!?

事件は昨年の12月25日のクリスマスに起こった。この日は彼女と一日遅れの聖夜をともにすることになっていた。所要で留守にしている彼女のアパートに合鍵を使って上がり込み、筆者は得意な料理に腕を振るうべく、いそいそとディナーの準備を進めて行く。メインディッシュの下ごしらえが終わったところで一度手を休め、愛車のカブにまたがり出かけることにした。
向かうは原宿。女子に人気のかわいいケーキを売る店へと向かったのだ。道路は混雑していたが、下道を使って50分ほどで到着。無事ケーキを手にしたところでハタとプレゼントを用意していない事に気がついた。

原宿のマリーンハウスでクリスマスケーキを購入。チョコ菓子のクマちゃんがなんともカワイイ。女子ウケが良いケーキとのことだが、彼女よりも筆者の方が喜んでしまう。ケーキを購入した帰りに工具店にプレゼントを買いに行くのだが……。

一瞬逡巡したあとでバイクのハンドルを切って、都内でも指折りの大手工具店へ向かうことにしたのだ。
女子へのプレゼントに工具。さすがに筆者もミスマッチは重々承知している。だが、彼女の場合はちょっと事情が違う。彼女の職業はプロの整備士なのだ。それなら工具のプレゼントも喜んでくれるのではないか、との判断からだった。

Weraアドベンドカレンダーはクリスマス限定発売

たくさんの工具が並ぶ店内で筆者が選んだのは、Wera(ヴェラ)アドベンドカレンダー2022年度だ。この商品は2010年から毎年クリスマスシーズンに発売される同社の工具を詰め合わせたギフトセットで、外箱を開けると小窓が24個用意されており、12月1日からの待降節の期間(イエス・キリストの降誕を待ち望む期間)にひとつずつ開けてゆくと、イブの日にはすべての窓が開いて製品が揃い、クリスマスを迎えたことになるというわけだ。当然、24日以降に購入すると、すべての窓を1度に開けることになる。同様の製品はWera以外だとHAZET(ハゼット)からも毎年販売されている。

Weraアドベンドカレンダー2022年度版の裏箱。セット内容と過去に発売した製品のパッケージが描かれている。

アドベンドカレンダーの内容は毎年変わるのだが、レギュラーシリーズの製品とは異なり、その中にはひと足早く新製品が入っていたり、単品販売のない特別のセットになっていたり、アドベンドカレンダーでなければ手に入れられない特別仕様となっていたりする。
今年のセットはグリーン&レッドのクリスマスカラーの特製ビットラチェットドライバー、ビット&ホルダーセット、JOKERのスパナセット、そしてWera製ドライバーと同じ柄のデザインした特製ボトルオープナーだった。

Weraアドベンドカレンダー2022年版のセットを並べてみた。毎年内容は変わるが、2022年はクリスマスカラーの特製ビットラチェットドライバー、ビット&ホルダーセット、JOKERのスパナセット、特製のボトルオープナーとなる。

この製品をプレゼントに選んだのは、品質の高いWeraの製品であることと、タテ57.3cm×ヨコ46.4cm×高さ5.3cmの大きな箱に、クリスマスらしくWeraのサイクロップ(ロック機構付きスイベル)ラチェットハンドルを手にしたサンタクロースのイラストが大きく描かれており、見栄えが良く、なんともエモかったからだ。

プレゼントに彼女は涙……しかしその理由は!?

プレゼントを抱えて意気揚々とアパートへ戻る筆者。彼女はすでに用事を済ませて戻っており、さっそく買ってきたプレゼントを渡す。すると、彼女は「わぁ~、すごい」と言って笑顔で受け取り、さっそくサンタクロースの描かれた外箱を開ける。24個の工具をひとつひとつ取り出す作業に一瞬めんどくさそうな表情を浮かべたが、それでも楽しそうに笑顔で小窓を開けて行く。だが、窓が開くたびに表情が曇って行き、全部の窓が開いたときに「わぁ~」と泣き出してしまった。

外箱を開けると内箱が現れる。内箱はミシン線が入った小窓が24個用意されており、12月1日からの待降節の期間に毎日ひとつずつ開けて行くと、クリスマスイブの日にはセットが完成するというもの。アドベンドカレンダーはキリスト教圏ではメジャーな商品で、工具以外にもお菓子やおもちゃなどが販売されている。

一瞬、何が起こったかわからず、おろおろする筆者。「どうしたの?」と聞いても「こんなんよう使わん!」と顔を突っ伏したままで泣き叫ぶ彼女。そこからが大変だった。
「早回しのスパナは好きじゃないからいらない」「ビットソケットの入り組がヘン」「栓抜きなんか欲しくない!」「ほかに欲しいものがあったのにこんなムダなものに散財した」「なんで私に聞かずにいらんモンを買ってきた」「過去いちばんのガッカリなクリスマスプレゼント」と、泣きながらプレゼントに対する恨み節が出るわ出るわ……。

キャプション欄・画像筆者手作りによるクリスマスディナー。メインディッシュはコック・オーヴァン(ブルゴーニュ風チキンのワイン煮)。それにミートドリア、フィンランド風ビーツのクリスマスサラダ、ほうれん草のフラン、ビーツのポタージュスープ、カクテルシュリンプを作った。前述の通り、ケーキはマリーンハウスのもの。おいしい料理で彼女の機嫌が直り、ほっと一安心(ちょっと作りすぎた)。

1時間ほどかけてなんとか彼女を宥め、その晩は自慢の手料理を振る舞い、さらにはプレゼントを買い直すことを約束したことで彼女はようやく機嫌を直してくれ、クリスマスの日に起きたカップルの危機はなんとか回避できた。だが、渡したプレゼントは元の箱に再び梱包し直され、そのまま戸棚の奥にしまわれることになった……。

Weraアドベンドカレンダーはプロが評した通りのダメ工具セットだったのか?

さて、彼女にすっかりダメ出しされたWeraアドベンドカレンダー2022年版は、本当に使えない工具ばかりだったのか? そんな疑問を抱いた筆者は、彼女の機嫌がすっかり落ち着いた正月にギフトセットの工具を箱から取り出し、あらためて工具としての性能を検証することにした。

JOKERダブルオープンレンチのセット。セットに入っていたのは6×7mm・8×9mm・10× 11mm・12×13mmの4本となる。レギュラー商品にはないアドベンドカレンダーオリジナルの製品。

■JOKERダブルオープンレンチ
Weraアドベンドカレンダー2022年版の目玉のひとつ。レギュラー製品のラインナップでは、JOKERにはコンビネーションレンチしか用意がないため、スパナ(ダブルオープンレンチ)としての製品化はこのセットが初めてとなる。
彼女は一瞥して「早回しレンチ」と判断したようだが、じつは早回し機能はなく、スパナ部分に工夫を凝らすことで小さな振り角でボルト&ナットが回せるという製品だった。

実際にJOKERダブルオープンレンチを使ってみると、Weraらしいアイデアによる優れたスパナということを実感した。

多くのスパナは中心線に対して15度オフセットしており、ひっくり返して使用することで振り角は30度となる。ところが、JOKERは15度のオフセットに変わりがないが、スパナ部がメガネレンチのような細かい溝が刻まれており、これを利用すると半分の15度でボルト&ナットが回せるというなかなかの優れもの。しかも、一般的なスパナとは違い4カ所でボルト&ナットをホールドする。これによりトルクを効率的にかけられるのでボルト&ナットの角が舐めにくくなる。

メガネレンチのような細かい溝によりレンチをひっくり返して使用すると、わずか15度の振り角でボルト&ナットを回すことができる(写真はWeraの公式HPより)。
エンジン整備などで奥まった場所にスパナでなければアクセスできないボルト&ナットがあり、かつ周辺機器が邪魔して振り角がほとんど取れない場所では重宝するかもしれない。まあ、そうしたシュチュエーションもなかなかないだろうが……(写真はWeraの公式HPより)。
JOKERダブルオープンレンチは4カ所でホールドし、レンチ自体の剛性も高いことから、ボルト&ナットを舐めることなく安定してトルクをかけることができる。6角ボルトだけでなく12角ボルトも回すことができる。その場合はアクセスはメガネと同じく上からになるだろう(写真はWeraの公式HPより)。

Weraらしいアイデアに溢れたスパナなのだが、セットに入っていたのは6×7mm・8×9mm・10× 11mm・12×13mmの4本で、欧州製レンチでよくある1mm刻みのサイズ展開の上、日本車の整備でよく使う14mmがない。
そもそも整備の現場ではスパナの出番は少なく、ましてや振り角がほとんど取れないシチュエーションというのもそう多くはない。しかも、国産メーカー系の整備工場に勤め、KTCやTONEなどを日頃愛用している彼女にとっては馴染みが薄いメーカーの上、変わった形をしたスパナということで、使いどころがない工具に見えたのは仕方がないかもしれない。

■ビットドライバー&ビットセット
赤と緑のクリスマスカラーのビットドライバー&ビットセット。Weraが好きな筆者はこれだけでもテンションが上がるが、工具マニアではなく、必要性から工具を買っている彼女にはまるで刺さらなかった。
ビットドライバーはWera独自の人間工具に優れたグリップ形状をしているのだが、Weraの製品と縁遠かった彼女には毒キノコに見えるようで「生理的に受け付けないデザイン」とのちに語っていた。

Weraアドベンドカレンダー2022年版でしか手に入らない限定カラーのビットドライバー。筆者はオシャレな製品に見えたのだが、彼女はどうやらそうではないらしい……(写真はWeraの公式HPより)。

ビットのセットは、フィリップスのPH1とPH2、ポジドライブのPZ1とPZ2×2、トルクスがTX10・TX15・TX20・TX25、六角が3・4・5・6mm、それにマイナスが0.8×5.5・1.2×6.5mmとなる。
ビットの入り組に彼女は激怒していた。曰く「なんで+3がないん !? わけわからんプラス(ポジドライブのこと)がふたつもある! 意味がわからん!!」とのこと。筆者はポジドライブの説明をして「IKEAの家具の組み立てやクラシック・ミニなんかの整備に使うことがあるから……」と弁明したのだが、「IKEAの家具は買わないし、ウチの工場に古いミニなんて入ってこん!」と余計に火に油を注いでしまった。

Weraアドベンドカレンダー2022年版に入っていたホルダー付きビットセット。日本車のメンテにはあまり使用しないビットもあり、人によっては評価が分かれるセット内容となる(写真はWeraの公式HPより)。

筆者はDIYで欧州車をいじることが多く、店が家の近くにあることもあってIKEAの家具を買う機会もあるので、さほど使えないセットだとは思っていない。不要なビットは入れ替えれば良いとも考えていたので、購入するまでさして気にしていなかったが、実用性と経済性を重んじる彼女にとっては、すぐに使えるセットになっていないことが許せなかったようだ。

人間工学的に優れたWeraのドライバーグリップは手馴染みが良く、ネジを回したときに力を入れやすい。ビットを嵌めたときのガタも少なくビットドライバーとしては優秀。

後日、自分のクルマで試しに使ってみたのだが、Weraのビットドライバーは手馴染みが良く使い勝手はあいかわらず素晴らしい。ビットは国産車を中心にイジる人には不満を感じる入り組みかもしれないが、品質自体に問題はなく、使用環境や好みに応じてビットの入り組を換えれば、便利に使える素晴らしい工具だと今でも考えている。だが、彼女に嫌われてしまったことから、おそらく今後も使われることがないまま、棚の奥で静かに眠り続けることになるのだろう。

■ボトルオープナー
Weraに限らず、HAZETのギフトセットにも入っていることが多いボトルオープナー。なぜ工具セットに入っているかは筆者にもよくわからないが、なかなかオシャレで可愛いアイテムだと思っている。

Weraのドライバーと同じグリップを用いたボトルオープナー(写真はWeraの公式HPより)。

ただ、日本では栓抜きは使うことが少なくなった。コーラやビールなどはペットボトルや缶に詰められたものばかりで、栓抜きを使って飲み物のフタを開ける機会は稀だ。ひょっとするとドイツではいまだにビン入りの飲み物が多いのだろうか?

製品としては素晴らしい内容だったが……

というわけで、すっかり彼女からの不評を買ってしまったWeraのアドベンドカレンダー2022年版だが、国産車を中心にイジる人にはややクセがあるセットながらも製品としてはじつに素晴らしいものであると思っている。クリスマス期間限定の商品ということもあり、Amazonではすでに完売しているが、年頭なら工具店の店頭で手に入れることができるかもしれない。
もっとも、このギフトセットのせいでクリスマスに彼女を激怒させてしまった筆者は来年買うことはないだろう……。得られた教訓としては、職業の如何に関わらず女子へのプレゼントに工具は避けたほうが無難ということであった。

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著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…