東京オートサロンの会場に、毎年数台の国産旧車を展示するのが恒例となったエンドレスのブース。同社代表の趣味であり、ENDLESS 130 COLLECTIONとして旧車やレーシングカーを展示するカフェ併設の施設までオープンしている。エンドレスのレストアは一貫して「車は動くからこそ価値がある」をモットーとしているため、単に見栄えだけ良くしたものではなくしっかり走らせることができる。なおかつ同社の技術を盛り込んで、足回りを現代の道路事情に適したものへアップデートしていることも特徴だろう。
2023年のブースではホンダZやホンダN360など360cc時代の軽自動車が並んでいた。と、その先に水色の珍しいクルマがある。これこそマツダが初めて軽自動車ではない4輪小型乗用車市場へ進出することとなった初代ファミリアだ。残存数が極めて少なくただでさえ珍しい初代ファミリアだが、展示されていたのはさらにレアなクーペ。ファミリアは1964年にバンとワゴンが先行発売され、4ドアセダンが遅れて追加された。
当初は782cc直列4気筒OHVエンジンを搭載していたが、1965年には2ドアクーペが追加された。クーペには排気量を985ccまで拡大した4気筒エンジンが搭載され、ツインキャブレターにより68psの最高出力を発生。当時発表された最高速度は145km/hであり、非常に高性能なモデルだった。そのため前後ドラムだったブレーキが、クーペではフロントディスクへ進化していた。
ファミリアクーペというと、次の世代である2代目に存在したロータリークーペが有名だし、残存している個体も少なくない。ところが初代のクーペは旧車イベントなどで見かける機会すら稀。路上を走っている姿など、ほとんど見ることはないだろう。そんな希少車だからこそ、エンドレスはフルレストアして残すこととされたようだ。
しかもフロントディスクブレーキを装備するクーペだから、ワンオフによりSupermicro6ライト+φ254×12/MXPLブレーキシステムがフロントにインストールされている。さらにサスペンションはフロントにフルオーダーファンクションによる専用スプリングを、リヤにも純正仕様のリーフスプリングとオリジナルのダンパーを装備している。
おそらく補修部品を確保するのに大変な労力が必要だったと想像できるが、エンジンやトランスミッションも完全にオーバーホールされた。純正でツインキャブレターを装備するのが特徴のクーペなので吸気系はオーバーホールのみだが、排気系にはFUJITSUBOによりオリジナル製作されたステンレスエキゾースト・マフラーを装備している。またブレーキマスターシリンダーもオーバーホールされているが、ブレーキパイプなどは作り直されていることがわかる。
インテリアに目を向けても一部の隙もないことがわかる。元の状態が悪くなかったそうだが、欠品部品がなくすべての表皮が張り替えられたことで新車のような佇まいを取り戻しているのだ。ダッシュボードの運転席側には3連メーターが並び、中央にタコメーターが配置される。
メーターの文字盤の状態は抜群だが、メーターパネルやメッキリングなどまで美しく仕立て直されている。シートやドア内張が張り替えられたのはもちろんだが、注目すべきはドアのプレート。元のものは割れていたため、採寸するだけにとどめてアルミ材からマシニングにより作り直してあるのだ。
ここまで完全に再生してあると乗るのが勿体無く感じられそうだが、エンドレスのモットーにあるようクルマは走ってこそ価値がある。どのような走りを披露してくれるのか、想像するだけでも楽しめる1台だった。