脱・温暖化その手法 第48回 —自動運転レベル4を実現するためにー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

電気自動車ならではの価値「自動運転」の実現に向けて

自動運転が現実に社会を変える程人間に役に立つものになるには、条件付きのレベル4(走行領域限定の完全自動化=ブレインオフの水準)まで発展する必要がある。そのためには道路インフラが今のままでは道路への人や自転車の飛び出しがあるために、歩道と車道を完全に分離する必要がある。現実に自動車事故の死者のうち約35%が歩行者で13%が自転車であり、約半分の人々が亡くなっている。

具体的に歩車道分離を行なう方法について考えたい。

現在、全国の道路で多いのは幅が5.5m以上で13mまでの片側1車線で、センターラインがあり歩道がない道路である。また国道のような幹線道路でも片側1車線が多く、かつ歩道が付いているところがほとんどである。ガードレールが付いた道もある。

より広い片側2車線以上の道路では歩道が付いているところが通常でかつ、ガードレールがある道路も多い。さらに狭い道で5.5m以下の幅で車がすれ違えない道路もある。いずれの道路でも、たとえガードレールがあったとしても、ガードレールの目的が車から歩行者を守るためのもので、その切れ目から人が飛び出すことはある。

自動運転でも人の不意の飛び出しには対応できない

このような現在の道路に対して歩車道分離するために、道路の幅や種類ごとに考える必要がある。

幅5.5m以上13mまでの片側1車線で歩道がないところについて、もし、その道路が田んぼの中の道路のようなところであれば、歩道の広さ分だけ拡張し、かつガードレールを付ける。しかし、多くの場合、周りには建物が建っている。拡張は容易ではない。このような道路は左右に幅約1.5mの歩道を設けた上でガードレールを取り付け、車道は1車線のみの一方通行とする。すると、多くの車が遠回りをしなくてはならなくなるということになるが、自動運転ということになれば、その煩わしさはなくなる。

これまで、5.5m以下の幅で1車線だった道路については、時速が6kmないし10kmに自動的に制限を加えることとする。これは最近のナビでは走っている道路の最高速度が表示されるようになっているが、その情報をもとに速度が制限されるようにすることは難しくない。

次は交差点での事故をなくす方法であるが、すべての交差点上にゲートを取り付け、青の時はこれが開き、赤の時は閉じるようにする。そのゲートの1つのイメージとしては鉄道での普及が始まったホームドアであるが、これは設置に多くの費用が掛かり過ぎる。現実的な方法としては横断歩道にポールを人が通れる幅より大きな間隔を置いて取り付け、これに小さな扉を付けて信号に合わせて開閉させるようにすることなどで十分である。

日本全体で歩車道分離をするには、どれだけの費用が掛かるか。それを見積もるためにまず、道路延長の値が必要である。幅5.5m以下の歩車道分離をしない道路の延長は43万kmある。新たに歩車道分離が必要な5.5mから13mの幅の道路は32万kmである。これより広い19.5mまでの道路およびそれ以上の幅の道路は、それぞれ2.2万kmと3,900kmでこれらは既に歩道が付いている。

道路の上を動くもので歩道を使うものは、自転車が1m、車いすも1m、歩行者が75cmの幅が必要であるから、1.5mの幅の歩道があれば一応の広さはある。

かかる費用の想定をしていけば可能性が見えてくる

この前提で、ガードレールの価格は1m当り約1万円で、延長32万kmの両側に設置すると全国で6.4兆円になる。交差点のゲートについては、自動扉の価格を例に取ると15万円からとなっている。先に挙げたより簡便な技術もあるが、ここではこの価格をもとに考えたい。交差点は100mに1ヶ所と仮定する。幅5.5m以上の道路は34.2万kmで、1ヶ所の交差点当り8つのゲートが必要なので、総額4.2兆円となる。

もう1つは歩道の幅を確保しようとすると、電柱が邪魔になるので、電線の地下化が必要である。このために幅30cm、高さも30cmのU字溝を埋めるとすると、設置費用は1m当り7,000円となる。全国32万kmの道路で4.5兆円となる。

これらの金額を合わせると総額15兆円となる。かつて道路への投資は年間10兆円という時代があったが、今はこれが大きく減っている。しかし、少し時間を掛けながらでも投資をして行けば、国家予算の中で賄える金額である。

一方でレベル4の自動運転が実現することは交通弱者にとっての大きな利便性の提供が可能で、生活の質を高める効果が絶大である。これに加えて事故による損害が大きく減らせる。さらには年間12兆円とも計算されている渋滞による時間の損失もなくなる。これらにより道路への投資は大きなものではない。

車歩分離の提案。

実際にこれらを実現しようとすると、どこかの町で実際にこのような道路インフラを作り、効果を見るとともにインフラ作りの難しさも確認することが必要である。折しも2023年4月に山形県飯豊町に電動モビリティシステム専門職大学(略称モビリティ大学)が開学する。飯豊町は人口7,000人であり、このような実証実験をするにはちょうど良い大きさの町である。

こうしてレベル4の自動運転が完成した後、自動車はもっと大きな変化をすることになると考えている。

次回はこのことを述べたい。

Eliicaの風洞実験用CGモデル
Eliicaの車体開発において風洞実験をするためのモデルをCGでまず作り、
これを基にクレイで5分の1モデルを作った。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…