「アクティブトルクスプリット4WD」や「X-MODE」が裏方として存在する安心感 【スバル アウトバック雪上試乗記】

スバル車が得意とする雪上路で、アウトバックの雪道パフォーマンスを試す機会を得た。実際の降雪は思いのほか少なく、アウトバックには朝メシ前のような路面ではあったのだが、金沢往復950kmの弾丸ツアーは同時に、非常に疲労の少ない旅でもあった。アウトバックのツーリング性能の高さは明らかだった。
REPORT:佐野弘宗(SANO Hiromune) PHOTO:中野幸次(NAKANO Koji)

スバルが提唱する『総合雪国性能』とは?

雪上試乗のパートナーは、アウトバック Limited EX。国内スバルのフラッグシップという位置付けだ。

先日、スバルから「スバル車の総合雪国性能をリアルに味わってみませんか?」とのお誘いを受けた。聞けば、最新のスバル車を貸していただいて、お好みのルートで1泊2日の雪道ドライブ……という趣向だ。

スバルといえば、4WD性能ではちょっとしたカリスマ的なブランドといえる。かつての世界ラリー選手権での活躍を引き合いに出すまでもなく、積雪地域のドライバーやウィンタースポーツ愛好家の多くが、スバルの4WDに絶大な信頼を置いている。

長野県大町市の旧中村家は、元禄11年(1698)に建築された寄棟造り茅葺きの民家。長野県内で建築年代が確認できるものとしては最古のものだそうだ。

スバルが提案する『総合雪国性能』とは、単純な雪道の走破性にとどまらない。雪はないけど凍結した道路、つるつるに磨かれて滑りやすくなっている歩道段差の乗り越え(=ガソリンスタンドやコンビニの出入り)、寒暖差で荒れた道路、さらには寒い日のヒーターやエアコンの使い勝手……にいたるまで、寒い地域での安心・安全に徹底的にこだわったクルマづくり全般を指すらしい。

というわけで、スバルからの提案を二つ返事で受け入れたわれわれ取材班は、東京は恵比寿にあるスバル本社を起点に、北陸は金沢を往復するルートを選んだ、往路は関越自動車道と上信越自動車道で長野まで走り、そこから長野オリンピックの舞台となった白馬を通過。その後は再び北陸時自動車道に乗って金沢を目指した。復路は世界遺産の白川郷に立ち寄った後、飛騨高山から、長野県に戻り、あとは長野自動車道と中央自動車道で東京に戻るルートである。

1998年長野冬季オリンピックで感動をもたらしたジャンプ台。長野県北安曇郡白馬村にある。正式名称は、ノーマルヒルが白馬村ジャンプ競技場、ラージヒルが長野県白馬ジャンプ競技場という。

今回のおともは、スバルの国内フラッグシップでもなる「アウトバック」である。まずは高速で一気に長野まで走るが、今回の取材時は、残念ながら(?)高速道にはいっさい雪はなかった。ヨコハマの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード7」を履かせたアウトバックは、当然ながら、ドライの高速をすこぶる快調に走る。

往復の道中で給油は一度行った。参考までに、金沢までの往路は485.2km走行し、車載燃費計で12.7km/lの燃費。復路は470.0km走行し、往復での走行距離は955.2km、燃費は12.2km/lだった。カタログ燃費は13.0km/lだからそれほど掛け離れた数字ではない。大人3名が乗車し、特別な省燃費運転は行わなかった。

正真正銘のフルタイム4WD

現在のスバル4WDシステムの主力となっているのは「アクティブトルクスプリットAWD」である。そのセンター油圧多板クラッチを電子制御するハードウェア自体は、一般にスタンバイ式とか、オンデマンド型などと呼ばれる他社のそれと変わりない。ただ、他社ではフルグリップ時にクラッチを開放して、燃費に有利な前輪駆動になるケースも多いのだが、スバルのそれは60:40という駆動配分(これはクルマの大まかな重量配分に合わせたもの)を基本として、滑りやすい路面ではさらに後輪へのトルク配分を増す。……つまり、正真正銘のフルタイム4WDとして作動するのが大きな特徴だ。

それもあって、アウトバックも雪道に強いだけでなく、ドライの高速での安定性も高い。その路面のうねりや強い横風への強さ、安心感はやはりフルタイム4WDならでは。そのぶん、少しばかり燃費に不利なのも事実。スバルに「燃費はあまりよくない」というイメージをお持ちの向きもおられるだろうが、そこにはこうした真面目な4WDの影響も少しある。

高速道路での安定感の高さもアウトバックの利点のひとつだ(写真は一般道)。長距離移動でこれほど疲れないクルマも珍しい。

長野インターで高速を降りると、周囲にスバル車が目に見えて増えるのが面白い。スバルの地元である群馬県にかぎらず、降雪地域になると、街中のスバル比率が明らかに確実に高まるのはクルマ業界の「あるある」といってもいい。

今年の2月上旬の長野や北陸は一時の大雪からひと段落……といった感じで、白馬や白川郷周辺も、ところどころに踏み固められた積雪路やシャーベットが入り混じった凍結路、そして硬く凍ったワダチが見られる程度だった。

復路は世界遺産の岐阜県白川郷へ。豪雪の風景を期待したものの、残念ながら路面はドライだった!

アイスガードを履いたアウトバックは、こうした様々な道をまるで苦もなく走っていく。ロードクリアランスは本格SUVそのままの210mm超なので、多少のワダチでもフロアをこするようなストレスもほとんどない。あまりに普通に走ってしまうので、スキを見て乱暴にアクセルをあつかっても、タイヤが空転しかけることも安定性を失いかけることもほとんどない。

より深い降雪路でも真価を発揮する「X-MODE」

アウトバックのシートは大きく、たとえばレヴォーグなどと比べても、左右席間、前後席間の間隔が広いから、大人数での長距離ドライブもストレスが少ない。

スバルのSUVといえば、スイッチひとつで雪道や凍結路、悪路に最適化される「X-MODE」の存在も忘れてはならない。この種の技術も、存在自体はさほどめずらしいものではないが、X-MODEはさすがスバルらしく、とても凝ったものだ。

X-MODEを起動させると、センター油圧多板クラッチの締結力を上げることで、四輪全体のトラクションを引き上げるとともに、ブレーキLSDも介入しやくすることでトラクション性能を最大限まで引き出せるようになる。さらには、変速やスロットル特性も低グリップ向けになるほか、トルクコンバーターもロックアップせず開放状態を保つことでエンジントルクの増幅効果も引き出すという。すべての制御をここまで細かく変えるのは、やはりスバルならでは……といっていい。

アウトバックの場合、グレードによってX-MODEも少しちがう。今回試乗した「リミテッドEX」のX-MODEがオンオフのみの制御となるのに対して、よりタフなキャラクターを強調した「X-BREAK EX」のそれは“スノー/ダート”と“ディープスノー/マッド”という2モード式となる。

Limited EXのX-MODEは、オンオフのみの制御。
装着タイヤはヨコハマのアイスガード7だ。

X-BREAKの2モードX-MODEでは、前者のスノー/ダートが普通のX-MODEのオンに相当する。そしてタイヤが半分以上埋まるような状況を想定したディープスノー/マッドは、トラクションコントロールを解除することで、タイヤの空転を許容しながら、より強力な脱出能力を引き出すモードである。

開発担当者によると、今回のリミテッドEXでも「まずX-MODEをオンにして、別のスイッチでVDC(いわゆる横滑り防止機能)もオフにすれば、2モードのディープスノー/マッドとほぼ同様の効果が得られます」とのことだ。

お借りした車両にはスコップやら長靴も装備済みだったが、残念ながら、今回出番はなかった。

いずれにせよ、今回遭遇できた程度の雪道では、X-MODEを作動させるだけでなんのストレスもなく走破できた。もっといえば、アクセル操作に少し注意を払えばX-MODEも不要なくらいだが、X-MODEを作動さると、アクセル反応が圧倒的に穏やかになるので、雪道でアクセルをテキトーにあつかってもスルスルと上品に走っていくだけで、細かいコツや神経を使うストレスとは無縁となる。

結局のところ、今回のような普通に出かけられるような雪道では、アウトバックは拍子抜けするほど普通だった。誤解を恐れずにいえば、とくに感動もなかった(笑)。ただ、いかに高度な制御を使っていても、乗り手にそうと感じさせないアクティブスプリットAWDやX-MODEも含めて、スバルの総合雪国性能とは、そういうものなのだろう。

雪道をドライブすると、降雪地のドライバーがスバルを選びたくなる理由が理解できる。
スバル アウトバック Limited EX


全長×全幅×全高 4870mm×1875mm×1675mm
ホイールベース 2745mm
最小回転半径 5.5m
車両重量 1690kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:ストラット式 R:ダブルウィッシュボーン式
タイヤ 前後:225/60R18 

エンジン種類 水平対向4気筒
エンジン型式 CB18
総排気量 1795cc
内径×行程 80.6mm×88.0mm
最高出力 130kW(177ps)/5200-5600rpm
最大トルク 300Nm(30.6kgm)/1600-3600rpm
トランスミッション CVT(リニアトロニック)

燃費消費率(WLTC) 13.0km/l

価格 4,290,000円

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佐野弘宗