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GT4RSはどこから見てもサーキットスペック
1960年代生まれの僕にとって、ポルシェといえば911。いつかは所有したいと憧れ続けていたのだが、世代を重ねるごとに高級化してしまい、996型以降は「ちょっと違うかもなぁ」と思うようになっていた。
そんなところに現れたのがケイマン。エンジン搭載位置こそリヤからミドシップに変えられていたが、そのおかげでむしろ旋回時の安定性やヨー応答は向上。車重は993型同等に抑えられており、軽快な運動性能は、僕が憧れていた911そのものだった。
今回はそのケイマンの最新型に乗せてもらえるというので、期待に胸を膨らませていたのだが、待っていたのはトップパフォーマンスモデルの718ケイマンGT4RS! 公道で合法的に走らせたところで、その真髄はまったくわからない。そもそもサーキットが用意されていたとしても、その性能は僕の評価能力を完全に超えているから、満足なインプレッションをお届けできる自信がない。というわけで、今回は「日常的に使えるのかどうか」に絞ってレポートしたい。
まずはクルマの概要を紹介しておこう。車検証上のスリーサイズは、全長4460mm×全幅1820mm×全高1260mmとコンパクト。ホイールベースは2484mmと、軽自動車とほとんど変わらない。ちなみに軽最長のホイールベースはホンダNシリーズの2520mmだ。
車両重量は1490kgと意外と重く、前後重量配分は42:58(630kg:860kg)。エンジンは911GT3と同じ4.0L水平対向6気筒を搭載しており、最高出力は368kW(500ps)@8400rpm、最大トルクは450Nm@6750rpmを発生。最高速度は315km/h、0-100km/h加速は3.4秒を公称している。
トランスミッションは7速のPDK(Porsche Doppel Kupplung)。いわゆるポルシェ式デュアルクラッチトランスミッション(DCT)、というより、DCTの元祖家元。2ペダルで自動変速モードがデフォルトなので、AT限定免許でも運転できてしまう。GT“4”といっても4WDではなく、駆動輪はリヤのみ。FIAの“グループGT4”カテゴリーを見据えて開発されたことに由来するネーミングだ。ちなみに“RS”はRennsport(Racing Sport)を意味する。
そんな718ケイマンGT4RSの外観を眺めてみよう。試乗車はヴァイザッハパッケージや20インチマグネシウム鍛造ホイール、セラミックコンポジットブレーキディスクなど、オプションだけで843万円の追加装備が付いており、車両価格は2680万円に達する。
CFRP製のエアダクトにダミーはひとつもなく、ボンネットの左右につけられたNACAダクトはブレーキ冷却用。フェンダー上部のルーバーはホイールハウス内の空気を抜くもので、ダウンフォースの発生と熱気の排出を目的としている。Cピラー前のエアインテークはエンジンへの空気導入を促すためのものだ。
チンスポイラーやリヤウィングは角度の調整が可能で、前後のリフトバランスが調整できる。これだけ見ても、このクルマの本籍地がサーキットであることがわかる。
トランクスペースは前後フード下にあり、それぞれ機内持ち込みサイズのキャリーバッグでほぼいっぱいになる。
「本当に良いクルマは乗り心地が良い」のお手本
では、乗り込んでみよう。シートの高さは地面から200mmぐらいしかなく、シートはCFRPのフルバケット式であるため、一般的な乗用車のようには乗り降りできない。とはいえコツを覚えてしまえば、レーシングカーにしては乗降性は悪くはない。
エンジンキーをひねると、ただならぬ咆哮でエンジンが目覚める。と言っても、意図的に炸裂音を出すような過剰演出はないので、近所迷惑になることはないだろう。シフトセレクタをDに入れてそっとアクセルを踏むと、思いのほか滑らかに走り出した。
ただし、2速にシフトアップする時や、低速で走りながらアクセルで速度を微調整すると、駆動系のバックラッシュがダイレクトに伝わってくる。エンジンマウントは堅そうだし、サスペンションの前後コンプライアンスもほとんどない。路面から巻き上げた砂がフェンダーに当たってパチパチと音を立てるのは、ミシュランのパイロットスポーツCup2のコンパウンドが柔らかいから。なにしろメーカーが公式に「公道も走れるサーキットタイヤ」と謳うようなシロモノ。これだけでも「すごいクルマに乗っている」感が味わえる。
そんなタイヤの高荷重を受け止めるサスペンションは、当然ながら硬い。しかし、電子制御ダンパーがエネルギーを二次関数的に吸収してくれるので、息が詰まるような上下Gは発生しない。しかも車体が揺れている割には視線のブレが少ないため、不快感はほとんどない。20世紀のラリー車のほうが、よっぽど忍耐を強いられた。
実は、本当に速いクルマは乗り心地が良い。速く走るには、タイヤを路面から離さずにトラクションをかけ続け、接地荷重を安定させて姿勢が崩れないようにすることが重要。すなわちタイヤの路面追従性が良くなければならないから、バネ上に伝達されるエネルギーが小さく、結果的に乗り心地が良くなる。
といっても、ロードノイズの伝達は盛大。サスペンションの関節はすべてピロボールだそうで、振動を遮断する要素がないからなのだが、こればかりは仕方がない。むしろ余計な身震いがないことを歓迎すべきだ。
では、ドライバビリティはどうか。かつての大排気量エンジン車は、微低速時のトルク応答が良すぎてナーバスなものが多かった。というのも、スロットルバルブは閉じ状態に近いほど、角度変化あたりの面積変化が大きいからだ。しかも718ケイマンGT4RSはトルコンを使っていない。なので「さぞや」と思って走り始めたのだが、拍子抜けするほど扱いやすい。2速に上げる時にバックラッシュでガシャガシャする以外は、神経を遣うことなく走らせることができる。
ブレーキもファーストバイトが強すぎるようなことはない。というより、ローターとキャリパーの迫力からすると、利きは拍子抜けするほどマイルドだ。パッド温度が高くならないと真価は発揮されないのかもしれないが、むしろ街乗りで気を遣わずに済む利き味は好ましい。
パワーステアリングは付いているものの、操舵アシストは最小限で、操舵力は大きめ。操舵応答に過敏感はなく、切った分だけ応答するので扱いやすい。総じて、市街地でもまったく神経を遣うことなく走れる。
Dレンジで走っていると、PDKがポンポンとアップシフトしてしまうため、エンジンのパフォーマンスは味わうべくもない。巡航中のエンジン回転数は1500rpmぐらいにしかならず、そこから踏み増してもダウンシフトせずに十分な加速が得られてしまう。
そこでMレンジに切り替え、2速で6000rpmぐらいまで引っ張ってみると、乾いた吸気音を響かせながら、極めてスムーズに加速する。もっと暴力的かと予想したのだが、意外なほど紳士的だった。
といっても、たぶんアクセル開度は半分程度だろう。それでも西湘バイパスの制限速度(70km/h)はあっという間に越えてしまうから、慌ててアクセルを戻さざるを得ない。最大トルク発生回転数から考えても、真の実力は「そこから上」なのだろうが、公道でそこまで回すのは現実的ではない。
そもそもこういうクルマは、公道では模範的な運転をしたほうが格好良く思える。能力を解放したければ、サーキットに行くべきだ。
そんなわけで、意外なほど良好な市街地適性を見せた718ケイマンGT4RS。なのだが、サーキットに行かない人なら素の718ケイマンでも満足できるだろう。でも6気筒のほうがいいからGTS4.0、と行きたいところだが、正直これでもオーバースペック。992型911カレラに搭載されている3LターボをNA化して300psぐらいにして載せたら、ものすごく魅力的になると思うのだけれど。
ポルシェ 718ケイマン GT4RS 全長×全幅×全高 4456mm×1801mm×----mm ホイールベース 2484mm 車両重量 1490kg 駆動方式 後輪駆動 サスペンション FR:ストラット タイヤサイズ F:245/35ZR20 R:295/30ZR20 エンジン 水冷対向6気筒 総排気量 3996cc ボア×ストローク 102.0mm×81.5mm トランスミッション 7速PDK 最高出力 368kW(500ps)/8400rpm 最大トルク 450Nm/6750rpm 価格 18,780,000円