オリジナルの姿へ戻す作業もプロに頼らず仲間と一緒に
群馬県太田市に不思議なガレージがある。日時を問わず国内外の古いクルマたちが集い、クルマ談義に花を咲かせているのがBibari-AUTO。でもここ、看板にあるような車両販売を行うプロショップではなく、オーナーである今井義正さんの個人的なガレージだという。
ガレージ内には古いハーレー・ダビッドソンやモトコンポなどのバイクも多数展示されているが、基本的にはすべて今井さんの個人所有車。このようなガレージを所有している今井さんとはどのような人物なのだろう?
今井さんは今年で70歳になられる。以前はお仕事をされていたが、今では悠々自適の日々を過ごす。だからだろうか、趣味のクルマやバイクを思う存分楽しみたいからガレージを所有されている。
とはいえ、これはどう見てもプロショップ。ここまでの規模は必要ないようにも思える。だが、地元では知られた存在であり、複数のクラシックカークラブに友人知人がいる。彼らがフラッと遊びに来られる場所が欲しいということも、このガレージの存続理由のようだ。
ガレージ中央にある1938年式MG-TAは今井さんが長年連れ添った愛車。第二次大戦前のモデルを日常的に乗り回しているというから恐れ入るが、さらに最近手に入れたクルマがある。それが今回紹介するカルマンギアなのだ。
ご存知ない方へ簡単に説明すると、このクルマはイタリアのギア社がデザインを担当し、ドイツのカルマン社がフォルクスワーゲン・タイプ1をベースにギア社のデザインを架装したクーペとカブリオレなのだ。1950年代に生まれた名車ながら、人気のあまり1973年まで作り続けられた。
今井さんが手に入れたのは今年のことで、知り合いの紹介による個人売買。手に入れた当初はキャルルックと呼ばれるアメリカ風カスタムが施された状態だった。
オリジナル志向の今井さんだから、ひとまずナンバーを取得する前にオリジナルへ戻すことから作業を始める。自らメンテや修理をする今井さんには友人知人に数多くの手練れがいる。そのためプロショップに頼ることなく、自力で作業が進められた。
スタイルをオリジナルへ戻すのと同時にエンジンなどのメンテナンスも実施。特に調子を崩していたキャブレターにはてこずり、新品部品を調達する。新品と言ってもビートル用の部品は安価に流通しているため、お財布に優しい金額で修理が可能。このキャブも数千円で買えたが、装着しても調子が出ない。結果的に分解して調整する必要があったそうだ。
内装もキャルルックにされていたので純正ステアリングホイールやシフトレバー、当時モノのラジオなどを使ってオリジナルへ戻している。電気系の配線や燃料計など、不調だった個所を修理してナンバーを取得することに成功した。
ここまで苦労してでもカルマンギアに乗りたかったのは、今井さんが18歳の時に同車を所有していたからだった。お話を聞けば今井さんの叔父さんが当時所有されていたクルマだったのだが、叔父さんが別のクルマへ乗り換えたくなる。でも2台所有は奥様がお許しにならず、それならということで18歳の今井さんへ譲ってくれたのだという。
思い出のクルマがたまたま近所で売りに出たと聞き、知り合いを通じて交渉することになったそうだ。なんともロマンあるお話で、これから新たな物語を綴られていくことだろう。