CVTのS4しかラインナップされていない「スバル WRX」にMTモデルは追加されるのか!? 【スバルマニア”いもっち”が斬る!! 期待のニューモデル2023】

WRX S4 STI Sport R EX
かつてはスポーツモデルとして一世を風靡した4WDターボのマニュアルトランスミッション(MT)車だが、今やそのラインナップは非常に限られるものになってしまった。スバルのトップオブスポーツに君臨していたWRXも、現行モデルではCVTのS4のみのラインナップになっている。しかし、北米仕様にはMT車も用意されており、日本でのMT車発売を心待ちにするユーザーも少なくない。一方で、先代までのMT車であるWRX STIが担っていたニュルブルクリンクチャレンジや全日本ラリーのベース車も2023年からはS4ベースで開発されているのもまた事実。果たしてWRXのMT車、WRX STIは発売されるのか? 業界きってのスバルマニアである"いもっち"こと、井元貴幸が斬る!

先代モデルはMTのWRX STIとCVTのWRX S4をラインナップ

2021年にVA型からVB型へとフルモデルチェンジを敢行したWRX。
VA型ではEJ20ターボに6速MTを組み合わせた「WRX STI」と、FA20ターボにリニアトロニックCVTを組み合わせた「WRX S4」の2車種が存在した。

先代モデルであるVA型のWRX STI。
EJ20ターボと6速MTの組み合わせ。
スバル伝統のEJ20ターボ。
CVT搭載モデルがWRX S4。
FA20ターボにリニアトロニックCVTを組み合わせる。
FA20ターボは直噴エンジン。

VB型へとフルモデルチェンジされたWRXは、排気量を2.4Lに拡大したFA24ターボを搭載するCVTモデルのS4のみとなり、MT車は登場していないのが現状だ。

FA20からボアを拡大した(86mm→92mm)FA24。

国内ではMTモデルの登場を期待する声が大きいものの、現時点では今後の登場も予定されていない。しかし、海外仕様車に目を向ければ、国内のVB型S4にあたるWRXには6速MT搭載モデルが存在し、技術的には製造は可能と予想できる。

なぜ国内にはMT仕様がないのか? 北米にはあるのに……

なぜ、国内にMTモデルが追加されないのか?
その理由のひとつに新型車の自動ブレーキ(AEBS=Advanced Emergency Braking System)の装着義務化が考えられる。国土交通省は2021年11月以降に発売する国産新型車には自動ブレーキの装着を義務付けている。つまり、これをクリアするには自動ブレーキが付いていないとMT車でも新型車として登録ができないのである。
CVT車については、アイサイトX(EXグレード)やアイサイトツーリングアシストが標準装備されており、この問題はクリアされている。
ちなみにBRZはこの規制が施行される直前の2021年7月に発売されているので、対象外となりMT車が存在するのだ。

WRX S4に採用されるアイサイトの自動ブレーキ。
WRX S4に採用されるアイサイトの自動ブレーキ。
2021年7月に発売されたBRZにはMT車がラインナップ(写真は「S」)。

しかし、MT車に関しては、現時点でスバルではアイサイトと組み合わされるモデルが存在しない。
技術的には他メーカーと同じくMT車に搭載可能ではあるそうだが、MT車の場合自動ブレーキ作動時にドライバーがクラッチ操作を行わなければエンストしてしまう。

エンジンが停止した場合ブレーキのバキュームやパワーステアリングなどのアシストも停止するため、安全を最優先するスバル車であれば、“万が一”のことも考えてこうした場合のことも考慮するはずだ。メカニズム的には、エンジンが停止してもそれらをバッテリーなどで動かすか、自動ブレーキ作動時にクラッチを切る動作も自動で行うなど、可能ではある。

現行WRXの価格は「GT-H」の400万4000円から「STI Sport R EX」の482万9000円。なお、北米のMTモデルは約3万ドル=396万円※(「Base」)から約3万7000ドル=488万円※(「Limited」)となっている。
※1ドル=132円(2023年4月14日調べ)

しかし、そうしたメカニズムがコスト面に跳ね返ってくることで車両本体価格が向上した場合、どれだけのユーザーがそれでも欲しい!と思うかに疑問が残る。
VB型WRX S4は400万4000円~482万9000円という価格を考えると、こうした機構の分だけ価格が上乗せされ、容易に手が届かないモデルになるのではないかという危惧もある。

全日本ラリーに投入されるWRX S4のトランスミッションは……

今年の東京オートサロンではVB型WRX S4ベースのラリーカーが発表されたが、内装はまだ非公開となっていた。ラリーマシンともなればMTの搭載が考えられるが、プロドライバーのみがステアリングを握る、ほぼワンオフのようなモデルであれば“万が一”のケースにも対応できるため、即座に市販車にMTが追加されるとは考えにくい。

東京オートサロン2023のスバルブースに展示されたWRX S4ベースの全日本ラリー仕様車。
オートサロンの時点では窓がブラックアウトされており、インテリは窺い知れない。北米仕様車のMTモデルがベースとの説も?
2023年シーズン中の投入に向けて開発されているが、第2戦まではまだ先代モデルで参戦している。
アライモータースポーツでは、現在参戦中の先代モデルにシーケンシャルトランスミッションを搭載した。
今シーズン投入予定の新型にも搭載されるのだろうか?

かつてとは違う! “CVT”と侮るなかれ!

ちなみにVB型WRX S4やVN型レヴォーグの2.4Lモデルに搭載されているCVTはSPT(スバル パフォーマンス トランスミッション)と呼ばれる大容量スポーツCVTが搭載されている。
このSPTはVTD(不等可変トルク電子制御式センターデフ)と組み合わされ、刷新したトランスミッションコントロールユニットの制御により、その動作は驚くほどの進化を遂げている。マニュアルモード時の変速スピードはもちろん、Dレンジでもフットブレーキだけでダウンシフトブリッピングなどを行い、チェーン式CVTならではのダイレクト感は圧巻!試乗したMT派のオーナーからも評価は高く、CVT食わず嫌いのユーザーにも是非試してほしいトランスミッションだ。

スバル パフォーマンス トランスミッション

ファンとしてはMTの追加を熱望する気持ちは非常に理解できる部分ではあるが、メーカー側も法規制による苦労を強いられていることを、むしろ理解してあげたい。スバル側でもきっとそうしたユーザーの声は届いているはずなので、開発をしていないとは考えにくい。すべては筆者の想像の領域を出ていないが、是非とも魅力的なMT車に期待しつつ登場を待ちたい。その間にSPT搭載のWRX S4で「CVTって意外とアリかも!」と先進技術を体感するのもおススメだ。

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著者プロフィール

井元 貴幸 近影

井元 貴幸

母親いわくママと発した次の言葉はパパではなくブーブだったという生まれながらのクルマ好き。中学生の時…