驚きの価格で2022年を席巻した軽EV「日産 サクラ」【最新国産新型車 車種別解説 NISSAN SAKURA】

22年の新型車の中でも大きな話題となり、各賞を総なめにした「日産 サクラ」。性能、装備、デザインとも軽自動車とBEVのイメージを覆した。価格についても手厚い補助金や優遇措置の組み合わせで同程度の軽自動車と大きく変わらないのもポイントだ。ホイールやインテリアに施された日本ならではの意匠は、「サクラ」というその名らしく軽やかで、華やかなシティコミューターとして日々の生活に寄り添ってくれるだろう。
REPORT:佐野弘宗(本文)/小林秀雄/塚田勝弘(写真解説) PHOTO:宮門秀行/中野孝次 MODEL:花乃衣美優

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日産の「フラッグシップ軽」と呼ぶに相応しい質感と走り

2022年発売の国産新型車で最も話題をさらったクルマといえば、やはり日産サクラだろう。三菱i-MiEV以来2例目となる軽乗用登録の電気自動車(BEV)で、同年のクルマ関連賞典もほぼ総ナメした。

エクステリア

軽初となるプロジェクタータイプの三眼ヘッドランプを採用した、アリアにも通じる先進的なフロントフェイス。グリルには平面パネルを用いたフロントシールドを採用。リヤは格子をヒントにしたLEDテールランプが特徴的。最小回転半径は4.8m。

世界中で〝BEVシフト〞が叫ばれながらも、行政当局が望むほど普及スピードが上がらないのも世界共通の課題であり、それはわが日本も例外ではない。ただ、サクラの売れっぷりを見るに、少なくともわが国でのBEV普及は軽が起爆剤となるはず……と思わずにはいられない。

22年5月に正式発表されたサクラは、途中で約2ヵ月の受注停止をはさみつつも、年末までに累計4万台以上を受注したという。ちなみにその前年の21年に国内販売された新車BEVは全部で2.2万台弱。つまり、サクラは実質半年足らずの販売期間で、日本の年間BEV販売の約2倍の台数を売り上げたのだ。

乗降性

人気の最大の理由はやはり価格だろう。中間グレード「X」の発売当初の本体価格は240万円弱。国からのCEV補助金だけでも実質180万円台となる計算で、スーパーハイト軽のターボとほぼ同価格で買える。さらに各自治体からの補助金も上乗せすれば、実質150万円を下回ることも可能だろう。

現在は少し値上げされているものの、それでも本体価格は255万円弱。補助金や税優遇を組み合わせれば、実質200万円を切るのは難しくない。最上級の「G」でも、賢く立ち回れば実質250万円前後で手に入る。

インストルメントパネル

7インチのアドバンスドドライブアシストディスプレイ(メーター)と、9インチナビを水平方向に配置。インパネにはファブリックを、中央部にカッパーのフィニッシャーをあしらい、上質感を演出。

サクラはご覧のようにデイズによく似たハイトワゴンスタイル。実はデイズはEV化を見込んだ設計となっているそうで、BEVだからと室内高や荷室が犠牲になっているような様子もない。また、リヤにデイズの4WD車と同形式の3リンク式リジッドサスペンションを採用して、バッテリー搭載スペースをぎりぎりまで確保しているアイデアは秀逸だ。

居住性

各部の質感や走りもいい。内装などはデイズやルークスより高品質でまさに「日産のフラッグシップ軽」と呼びたくなるレベル。アクセルを乱暴にオンオフしても衝撃を出さない電動パワートレインの躾は、お世辞抜きに日産は世界屈指にうまい。操縦性や静粛性も軽とは思えない。サクラは床下に20kWhの電池を積んで、航続距離はWLTCモードで180㎞を謳う。

真夏や真冬にエアコンやヒーターを遠慮なく使うと、実質航続距離は100㎞程度か。急速充電も可能だが最大30kWの対応なので、市中の急速充電インフラを日常的に使うのはコストに合わない。つまり、サクラはあくまで普段の保管場所で普通充電して、その範囲内で行動するシティコミューターだと割り切ることが前提だ。

うれしい装備

後席リクライニングは、左右席にある背もたれ肩口のレバーを使う。荷物が大きい際など、起こし気味にすると荷室の奥行きを稼げる。
新規デビュー発表       22年5月20日
月間販売台数               3333台(22年7月〜12月平均値)
WLTCモード充電走行距離    180km  

ラゲッジルーム

ただ、サクラは「BEVはそういう使い方をするのがいちばん便利で、心地いい」という真実を素直に、そして魅力的に体現している。だから、サクラを見て乗ると、人間の側からクルマの使い方そのものを積極的に変えたくなる。

公共交通の衰退やガソリンスタンド不足が深刻化するであろう近未来の日本で、最初に切実なニーズが生まれるのはサクラのようなクルマだろう。サクラをきっかけに軽BEVが普通の存在になり、そこからBEVの本当の長所が実感できるようになれば、おのずとBEVは社会全体に普及するはずだ。

※本稿は、モーターファン別冊 ニューモデル速報 統括シリーズ Vol.147「2023 国産新型車のすべて」の再構成です。

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