旧型カングーオーナーが“重箱の隅視点”で新型カングーをレポート!

写真はカングー クレアティフ ディーゼルで、価格は4,190,000円。スリーサイズは全長4490mm×全幅1860mm×全高1810mm。先代にあたる二代目カングーは4280mm×1830mm×1810mmだから、210mm長く、30mm幅広になった。全高は先代と同じ。

スペアタイヤがなくなり、後席床下収納も無くなった

ルノー・ジャポン主催の公道試乗会でのインプレッションでは、ディーゼルモデルとガソリンモデルの比較がメインで、走行環境もほぼ高速道路が占めていた。そこで今回は、ガソリンモデルだけ個別にお借りし、街中のインプレッションを、旧型オーナーならではの“重箱の隅”視点でお届けしたい。

全幅が広がり、サイドシルも太く、高くなり、シートフレームもしっかりしたので、最初は「乗り降りしにくくなったな」と思ったのだけれど、すぐに慣れてしまった。もとより、旧型が僕の体格(身長181cm)にドンピシャだったから「悪くなった」と思っただけで、僕より小柄な人なら「たいして変わっていない」と思うのではないか。

写真の90度開の手前に、2段階の停止位置ができるなど、細かい改良が施されている。

ただし後席になると話は別。サイドシル高は実測470mmとSUV並みに高くなった。上面にステップ状のトリムが付いて「踏んでもOK仕様」になったが、小柄な高齢者を乗せる際には、介助についたほうが良いだろう。

後席ドアは建て付け精度も剛性も高くなり、開閉操作力は軽くなり、スライド中の滑らかさも格段に上がった。特に、全開した状態から閉める際の、ロック機構を外す力が小さくなっている。カングー2は、このときにけっこう力が必要だったのだ。

相変わらずスクエアで非常に“載せやすい”荷室。

のだが、この機会に旧型オーナーに裏技を伝授しておこう。閉める際に、一瞬だけ開く方向にドアを押し込み、跳ね返ってくる反動を利用すれば、手首のスナップだけでロックが外せるようになるぞ。

後席のダイブダウン式折りたたみ機構は健在で、僕のシートスライド位置(最後端から9ノッチ)より後ろに下げると、干渉してたためないのも旧型と同じ。折りたたんだ際に少し傾斜が残るのも変わっていないが、車中泊を不快にさせるほどではない。

後席ダイブダウンにより、スクエアなまま荷室は一気に拡大する。

残念なのは、後席の床下収納が無くなってしまったこと。僕はここに、ジャンプケーブルと牽引ロープ、ルーフキャリヤ用のロングストラップを入れているのだが、買い替えたら引越し先を探さなければならない。

スペアタイヤが無くなり、運転席の床下収納にパンク修理キットが搭載されるようになったのも残念な点。現代のパンク頻度を考えれば止むを得ないかもしれないが、買い替えて2ヶ月目にパンクした身としては、オプションで選べるようにしてほしい(本国にはある)。そうすれば、前席床下収納も空くし。

サイドからダイブダウンを見るとこんな感じ。低い位置に沈み込み、ほぼフラットな空間が出来上がる。

バックドアが観音開きなのは同じだが、ここにも細かい改良点が。従来型は90度でしか止まらなかったが、新型はサイドドアのように中間に2段階の停止位置ができた。左ドアにはインサイドハンドルが復活し、内側からも開けられるようになった。ラゲッジを更衣室に使った際や、車中泊の際に、操作力の大きなサイドドアから出入りしなくて良くなったのは朗報だ。

ドアストッパーを解除すれば180度まで開くのも変わっていないが、樹脂製だった解除レバーが鉄むき出しになったのは少し残念。でもカングーオーナーなら「らしくて良い♡」で済んじゃうかも。

ダイブダウンしたシートバックにピローを逆向きに差し込むと、車中泊時に枕になるという裏ワザ。

乗り込んで最初に気づくのは、Aピラーまわりの死角が改善されたこと。旧型はドアミラーが窓枠付だったうえピラーの根元が太く、両者の作る死角がものすごく大きかった。僕は従来型に乗り初めて9年目になるが、左折する際には未だに見落とし確認を慎重に行う。しかし新型は、Aピラーの根元が細くなり、ドアミラーとの間に三角窓も付いたため、左折時の安心感は普通のクルマ並になった。

しかもドアミラー位置は旧型より後方かつ低くなったため、後退駐車時に駐車枠の白線が見やすくなり、後退駐車が楽になった(進路予測付きバックモニターも標準装備だ)。

乗り心地は一段と良く、DCTは滑らかになった

では、走り出そう。発進は非常に滑らか。DCTだけど、トルコンと区別がつかない。というより、わずかなターボラグの後にトルクが盛り上がってくる感じは、トルコンが食いついて増幅が始まるフィーリングとよく似ている。

変速もほぼショックレス。以前、同じパワートレーンを搭載するキャプチャーに試乗した際には、アイドルストップやブレーキホールドからの再発進で、遅れやショックを感じたことがあったが、そのあたりはすっかり改善されている。

ディーゼルエンジンは、1.5Lターボ。DCTは、発進から滑らかだ。

アイドルストップはブレーキペダルの踏みかたが浅いと作動しないが、むしろブレーキ踏力でアイドルストップさせるか否かをコントロールできるのは良い。

過給の遅れは極小で、トルクが立ち上がれば非常に力強い。ブレーキもファーストバイトから制動力が立ち上がり、奥でもしっかり利くし、抜き側のコントロール性も良い。そういえば旧型も、100km/hからの制動距離は39mと、当時のケイマンの35mに肉薄していた。新型はフロントキャリパーを新設計しており、リヤのディスクもベンチレーテッド化されるなど、さらに高性能化されている。

そもそもカングーの商用車版は最大積載量1トン仕様まであり、それを見込んだ設計なのだから、2〜3人乗車ならトルクが太いのもブレーキがよく利くのも当たり前なのだ。

乗用車としての質感は旧型よりもだいぶ向上している。

乗り心地は一段と良くなり、うねった路面でもサスがよく追従する。タイヤはコンチネンタル“エココンタクト6”のエクストラロード仕様を前290kPa/後300kPaという高い空気圧で使う。試乗車も温間実測値で+10%ぐらい入っていたが、硬さが意識されるのは、大きめのジョイントを踏んだ時ぐらい。

サイズが205/60R16と、エアボリュームがたっぷりあるのが奏功しているのだろう。リプレイスタイヤが旧型より3000円/本ぐらい高くなったのと、ホイールボルトのPCDが114.3mmになったので、旧型のホイールが使えなくなったのは残念だけれど。

60扁平の16インチタイヤが乗り心地の良さを支える。クレアティフは、スチールホイールが標準だ。

ボディの剛性感は高まっているようだが、これだけドンガラが大きければ、走行中に多少のユルさを感じるのはやむを得ないところ。うねった路面を通過すると、トノボード周辺から低級音が出た。マウント部に樹脂保護剤を塗るぐらいで、止まるんじゃないかと思うけど。

旧型オーナーが試乗してすぐ気づくとすれば、操舵フィールが自然になったことだろう。旧型は電動パワーステアリングがコラムアシスト式だったため、微小操舵からアシストがかかる瞬間に操舵力が抜ける感じがあったが、デュアルピニオン式になった新型は、まったくそんなことはない。

3座独立式の後席シートは、頭上も足元も広々している。
シートは肩まわりも拡大し、しっかりした作り。

ステアリングギヤレシオも17から15へとクイック化されているが、それだけに残念なのが、最小回転半径が5.4mから5.6mに増えたこと。旧型から乗り換えると、Uターン時などで「あれ、もう切れないの?」と思うことがある。ちなみに同じCMF-CDプラットフォームを使う日産エクストレイルは、ホイールベースが10mm短いとはいえ235/60R18タイヤが付いて5.4mで回るのだから、カングーは切れ角を制限しすぎじゃないか。

いつものように、最後に燃費もご報告。比較的空いている郊外の市街地を約9.7km走って、7.2L/100km。日本流に直すと13.9km/Lだ。うちのカングーの燃費計が7.0L/kmを表示しているから(1.2ターボ+6MTで6500kmぐらいの累積データ)、トランスミッションがEDCで車重が130kg増えたにしては上出来である。

ACCの出来が非常に良く、滑らかに作動することは前回の高速試乗で確認済みだ。

あらゆる部分で“現代的”になった新型カングーなのだが、旧型オーナーにしてみると「失われた部分」があるのも事実。今すぐ買い換えるかと聞かれれば、「とりあえず変わった色の限定車が出るまで様子見」というのが、僕の結論だ。

ルノー カングー クレアティフ(ディーゼル)



全長×全幅×全高 4490mm×1860mm×1810mm
ホイールベース 2715mm
最小回転半径 5.6m
車両重量 1650kg
駆動方式 前輪駆動
サスペンション F:マクファーソン R:トーションビーム
タイヤ 前後:205/60R16
ホイール 6J×16 

エンジン 直列4気筒SOHC 8バルブターボ
総排気量 1460cc
最高出力 85kW(116ps)/3750rpm
最大トルク 270Nm(27.5kgm)/1750rpm
トランスミッション 7速AT(7EDC)

燃費消費率(WLTC) 17.3km/l

価格 4,190,000円

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…