技術満載の日産エクストレイル 可変圧縮比ターボ、e-4ORCE、e-POWERの凄さは感じられる?

日産エクストレイル G e-4ORCE 車両本体価格:449万9000円
日産の主力SUVであるエクストレイルは、世界戦略モデルである。当然、ライバルも多い。激戦区を勝ち抜くポテンシャルはあるのか? e-POWERでe-4ORCEのエクストレイルにあらためて乗って確かめた。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

e-POWERも4WDシステムも新世代

先代エクストレイル(2013〜22年)は2.0L直列4気筒自然吸気ガソリンエンジンを積んだエンジン車と、このエンジンをベースにモーターを加えたハイブリッド車の二本立てだった。どちらもパワートレーンは横置きで、電子制御カップリングユニットによって後輪にも駆動力を配分するオールモード4X4を組み合わせていた。

新型エクストレイルはe-POWERのみの設定とされた。思い切った判断である。e-POWER(イーパワー)はノートやキックス、セレナにも設定される電動パワートレーンで、エンジンが発電した電気でモーターを駆動して走る。つまり、100%モーター駆動車だ。

全長×全幅×全高:4660mm×1840mm×1720mm ホイールベース:2705mm 車重:1880kg(前軸軸重1070kg 後軸軸重830kg)

しかも、エクストレイルが積むe-POWERは新世代である。ノートシリーズやキックスが搭載するe-POWERの発電用エンジンは1.2L直列3気筒自然吸気なのに対し、エクストレイルのe-POWERは、日産が世界で初めて量産化した可変圧縮比エンジンの1.5L直列3気筒ターボを発電専用に用いる。

4WDシステムも進化している。前後2基の高出力モーターとブレーキを統合制御することにより、駆動力を自在にコントロールするe-4ORCE(イーフォース)を適用した。前型のオールモード4X4はプロペラシャフトでフロントとリヤが機械的につながっていたが、e-4ORCEはつながっていない。フロントは最高出力150kW、最大トルク300Nmのモーターで、リヤは最高出力100kW、最大トルク195Nmのモーターで、それぞれ独立して駆動する。フロントの150kWとリヤの100kW合わせて250kWの最高出力を発生するわけではなく、システム総合出力は150kWだ。

新型エクストレイルのe-POWERは欧州にも導入するため高車速側の車速のカバー範囲が広く、より強い加速も求められる。登坂性能なども勘案し、前後モーターの諸元を決めたという。大きな出力のモーターを駆動するには、大きな出力を発生する発電用エンジンが必要。そこで、「VCターボ」のペットネームを持つ可変圧縮比エンジンの採用に至ったというわけだ。

このエンジンの最高出力は106kW/4400-5000rpm、最大トルクは250Nm/2400-4000rpmである。モーター駆動車の真骨頂は静粛性が高いことなので、エンジンはなるべく掛けたくない。バッテリー残量やドライバーの加速要求によってはエンジンを掛けざるを得ない状況があり、そのときはなるべく目立たないようにエンジンをかける。

エンジン 形式:直列3気筒DOHCターボ 型式:KR15DDT 排気量:1497cc ボア×ストローク:84.0mm×90.1 mm 圧縮比:8.0-14.0 最高出力:144ps(106kW)/4400-5000pm 最大トルク:250Nm/2400-4000rpm 燃料供給:DI

VCR(可変圧縮比)ターボは黒子だが活躍している

タイヤサイズ:235/55R19サイズ ハンコックventus S1evo³ SUVを履く。タイヤはGに19インチ。他のグレードが18インチとなる。 19インチはハンコック、18インチがファルケン、20インチがミシュラン
リヤサスペンションはマルチリンク式
リヤにMM48型交流同期モーターを積む。このモーターは軽BEVのサクラのフロントにも使われている。

発進時は基本的にEV走行だ(エンジンはかけない)。ある程度車速が上がって、ロードノイズなどの走行音が大きくなると、エンジンをこっそりかける。基本は2000rpmだ(ちなみに、液晶メーターにエンジン回転数を表示するモードは備わっていない)。「燃費の目玉」と称する、エンジンの最も効率のいい(燃費がいい)領域で運転し、発電する。高車速になると大きなパワーが必要なのでエンジン回転を高めるが、従来のe-POWERより1000rpm程度低い4800rpmまでに抑えている。ノイズを大きくしないためで、14.0から8.0まで可変できる可変圧縮比機構を駆使して圧縮比を下げてノッキングを回避し、過給圧を上げてパワーを出す仕組みだ。

2000rpmのエンジン定常状態での発電は、メーターにエネルギーフローのグラフィックを表示して視覚的に確認でもしない限り気づかない(音だけでなく振動も含めて)。高回転で発電しているときはさすがにエンジン音が耳に届くが、どこか遠くで音が鳴っている感じで、快適な運転を邪魔するほどではない。走行シーンを問わず、室内は上質な雰囲気を保ったまま。エンジンは完全に黒子に徹している。

センターのダイヤルで切り替えるドライブモードは基本となる【AUTO】に【SNOW】/【OFF-ROAD】/【SPORT】/【ECO】が加わる。SPORTはダイヤルをひねった後にもう一段階ひねると選択できる。

e-4ORCEについては、ドライブモードによる制御の違いを頭に入れておくといいだろう。モード切り替えはセンターコンソールのダイヤルで行なう。センターラインのある道路の絵がAUTO、その右の葉っぱはECO、右端のチェッカードフラッグはSPORT、AUTOの左の雪の結晶はSNOW、左端の山のアイコンはOFF-ROADだ。

デフォルトのAUTOと、燃費重視のECOは2WD(FF)で走行するのが基本(リヤにもわずかに配分する)。前輪がスリップするなどした際には瞬時に4WDとなり、安定した状態になったとシステムが判断するまで4WDで走り続ける。

SNOW、OFF-ROAD、SPORTは理想の4WD配分になるように制御される。エクストレイルの静的前後重量配分は56:44だ。この比率で走り出し、走行中の接地荷重の変化に応じて前後の配分を最適に制御しながら走る。発進時は荷重がリヤ寄りになるのでリヤの配分を増やし、旋回時は車速や舵角、横Gなどからクルマの状態量を計算し、荷重移動後配分での前後配分に制御する。前後配分の制御には意図して位相差を設け、後ろで蹴り出す感覚を演出しているところがポイントだ。

e-4ORCEが持つ機能を存分に発揮させ、4輪のタイヤのグリップを最適に使って安心、安全、快適な走りを堪能するなら、SNOW、OFF-ROAD、SPORTがおすすめ。SNOWはそのモード名どおり、すべりやすい雪道での使用を想定しているが、アクセルペダル操作に対する力の出具合が穏やかになる制御となっており、「コンフォート」的な側面も持っている。対照的なのがSPORTで、アクセルペダルの踏み込み量に対する力の出具合が敏感で、元気な走りに向いている。

メーカーオプションのナッパレザーシートを選ぶと内装色はタンになる。

新型エクストレイルの開発にあたっては、上質感を求める声に応えようと意識したという。試乗車はオプションのナッパレザーシート(88000円)装着車だった。色合いもいいし、シートやダッシュパネル、スイッチや加飾パネルの質感は高く、それらを含めた室内全体の雰囲気は上質に感じた。エクステリアはオフローダーらしいタフさを残しながら、品の良さを感じさせるスタイルでまとまっている。

そんな新型エクストレイルは、ユーザーに好評を持って迎えられている。直近3ヵ月の新車販売台数を見てみると、2月は2616台(前年同月比282.2%、以下同)、3月は3533台(246.2%)、4月は1697台(269.4%)だ。クルマの外と内、そして中身が評価されている証である。

ラゲッジルームは、通常で奥行き930mm。後席を倒せば1940mmまで拡大可能。高さは795mm  ラゲッジトレイは1万7800円のディーラーオプション
トレッド:F1585mm/R1590mm 最小回転半径:5.4m 最低地上高:185mm
日産エクストレイル G e-4ORCE
全長×全幅×全高:4660mm×1840mm×1720mm
ホイールベース:2705mm
車重:1880kg
サスペンション:Fストラット式/Rマルチリンク式 
駆動方式:4WD
エンジン
形式:直列3気筒DOHCターボ
型式:KR15DDT
排気量:1497cc
ボア×ストローク:84.0mm×90.1 mm
圧縮比:8.0-14.0
最高出力:144ps(106kW)/4400-5000pm
最大トルク:250Nm/2400-4000rpm
燃料供給:DI
燃料:レギュラー
燃料タンク:55ℓ
フロントモーター
MM46型交流同期モーター
 最高出力:150kW(204ps)
 最大トルク:330Nm
リヤモーター
MM48型交流同期モーター
 最高出力:100kW(136ps)
 最大トルク:195Nm

燃費:WLTCモード 18.4km/ℓ
 市街地モード16.1km/ℓ
 郊外モード:20.5km/ℓ
 高速道路:18.3km/ℓ
車両本体価格:449万9000円
メーカーオプション50万0500円
アダプティブLEDヘッドライトシステム 1万1000円、クリアビューパッケージ 2万7500円、特別塗装色7万7000円、BOSEプレミアムサウンドシステム+ルーフレール+パノラミックガラスサンルーフ 29万7000円 ナッパレザーシート8万8000円
ディーラーオプション

キーワードで検索する

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…