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バッテリー搭載量と航続距離
ボルボC40は、BEV専用モデルだ。プラットフォームはCMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)。XC40 Rechargeはコンポーネントを共有する兄弟車になる。ただし、エクステリアはC40のほうがトンガっている。BEVなんだからちょっとエンジン車と違ってないとね、というところだろう。
九州でC40のツインモーター仕様でロングドライブする機会があった。その際に、よりリーズナブルなシングルモーターモデルを東京で試乗してみたい、という感想を持って帰京したわけだが、GW直前、ひょんなことから「では、GW中、シングルモーターのC40に乗ってみませんか」というお誘いを受けた。これは乗らないテはないということで、4/28~5/7の10日間、C40と暮らしてみた。
BEVで気になるのは、バッテリー容量=航続距離だ。C40シングルモーター仕様は、69kWhで502kmの一充電走行距離を持つ。ちなみに、ツインモーター仕様は78kWhで484kmである。
ツインモーターの強烈な加速力(0-100km/h加速が4.7秒!)も魅力的だが、カジュアルに付き合えるのはシングルモーター仕様だ(こちらも踏めば相当速い)。価格も100万円安い659万円だし、航続距離も18km長い。
WLTCモードで502kmだからと言って、リアルワールドで500km走るわけではないのは皆さんご存知の通り。C40に限らず、カタログ値の80~90%程度がリアルな数字になる(エアコンやヒーター、乗車人数にも大きく左右されるから)。つまり、C40シングルモーター仕様なら450kmがMAXということになる。もちろん、アクセルワークが上手い下手にもよると思うが。
今回のテーマは、充電能力と電気代
C40のHPには、「バッテリー保証は8年または16万km」と書いてある。BEVの価値の多くがバッテリーにあることを考えると、この保証はうれしい。さらにいうと、「充電はAC充電の場合、最大90%をおすすめ」とも書いてある。もちろん、バッテリーを痛めないためだ。これまた当然だが、DC急速充電もバッテリーを痛める可能性がある。
スマホのバッテリーはどうしても100%まで充電してしまう筆者でも自分でC40を購入した場合、やはりバッテリーは大事にしたい。スマホのバッテリーのように、簡単には換えられないからだ。
ということで、今回は「90%充電」でいこう。
C40のセンターディスプレイの「充電」を選ぶと充電設定ができる。それを「90%」にセットした。
筆者の自宅ガレージは、BEV(の広報車)のために、普通充電ができるようにしている。
C40の普通充電はAC200V(Type1)9.6kWまで対応している。9.6kWというと、200V48Aということ。ちなみに、筆者の家の電気契約は50Aだから、48Aがどれほど大きな数字かわかるだろう。マイガレージの普通充電の出力は3kW(200V15A)だ。
90%まで自宅で充電したC40でまず向かった先は、富士スピードウェイ。往復230~240km程度。航続距離に不安はない。往復しても38%のバッテリー残量があるとC40が教えてくれる。
GW中、800kmほどドライブした。高速道路あり、大渋滞あり、市街地ありで、ほぼ通常のドライブシーンは体験した。800kmといえば、アベレージドライバーの月間走行距離程度。この間、バッテリーが足りなくなるという恐怖や懸念は一度もなかった。
簡単に言えば、カタログデータで「一充電走行距離450km」以上のBEVであれば、航続距離で困ることはない、ということだ。逆に言えば、それ以下のカタログ値のBEVは、使用用途を考えて(完全にシティユースに割り切って)チョイスする必要が出てくる。それ以上のドライバー(日常的に500kmドライブがあるような)は、現在のところBEVを選ばない方がいい。
150kW対応の急速充電能力は○
とはいえ、なんの不安もなく使えるには、もうひとつ大事なポイントがある。急速充電能力だ。
C40の場合は「DC(CHAdeMO)150kWまで対応」する。
急速充電は、メインの充電方法ではない。普通充電ができる自宅や目的地に着くのに不足した分だけ急速充電するのがスマートなやり方だ。
10日間、急速充電を一度もしなくてなんの問題もなかった、のだが、テストのために2度、急速充電を行なった。急速充電のために、帰宅後の普通充電をわざとしないようにして、バッテリー残量をかなり減らしてみた。
150kWの急速充電能力のすべてを解き放てる急速充電器はまだ数少ない。そこで、最新の急速充電器がある2箇所でテストしてみた。首都高大黒PAと日産グローバル本社である。どちらも90kWの急速充電器が設置されている。大黒PAがニチコン製、日産グローバル本社が新電元製だ。
大黒PAにて
大黒PAで15%(航続可能距離65km)だったバッテリー残量は
10分間で30%
20分間で
30分間で59%に回復。29kWh分充電できた。
航続可能距離は250kmになった。
つまり、185km分充電できたわけだ。
日産グローバル本社にて
日産でグローバル本社で充電
13%(航続可能距離60km)だったバッテリー残量は
10分間で30%(11.7kWh分)
30分間で66%まで回復。35kWh分充電できた。
航続可能距離は310kmになった。
つまり、250km分充電できたわけだ。
ということだ。同じ90kWの急速充電器でも「相性」によって充電量が変わってしまう。ここがBEV本格普及前夜の問題のひとつだろう。
わざわざ「10分間で」と記しているのは、最初の10~15分が電気の入りがイイ時間だからだ。一番効率よく充電できるときに必要な分だけ充電してサッと急速充電を終える。普通充電ができる自宅にバッテリー残量70%や80%で帰る必要はないのだ。
翌朝また出発するときに、90%まで充電したいとすれば、
3kW×10時間=30kWh 効率は100%ではないので、×0.8としても24kWhは充電できる。C40でいえば、69kWh=100%とすると、90%は62.1kWh。だから、バッテリー残量55%で帰宅すれば、翌朝には毎日90%に戻っているわけだ。
バッテリーも痛みにくく、急速充電器の近くで30分間時間を潰す必要もない。他のBEVユーザーの充電待ち時間も短くなる。そのためにも、ぜひ急速充電の料金体系は早く「時間制」ではなく「従量制」になってほしい。
自宅の充電が1kWh=30円/kWh程度
急速充電が1kWh=60~70円/kWh程度(もっと高くてもいいと思う)になれば、ユーザーは必要な分だけできるだけ短い時間、急速充電するようになるのではないか。また、高額な設置費用を負担する事業者も、電気代に原価償却と利益を乗せた単価に設定できれば投資分の回収が見込める。急速充電器の普及にも繋がるはずだ。ビジネスとして成立しない急速充電器を補助金をばら撒いて設置させるのは、そろそろやめにしたほうがいいのではないかと個人的には思う。
たとえば、ボルボC40なら30分で35kWh充電できたから
1650円÷35kWh=47.1円/kWh
となるわけだが、30kW急速充電能力の日産サクラなら、
1650円÷15kWh(もいかないだろう)=110円/kWhとなる。同じ場所で同じ時間サービスを受けているのに、単価がこれだけ変わってしまうのは、少し歪な気がする。急速充電については、まだまだ問題山積だ。
電気代はいくらだ?
今回、801.5km走ってトータルの電費は、
16.5kWh/100km(平均速度36km/h)
つまり、6.06km/kWhだった。バッテリー容量は69kWhだから、計算上100%充電したら418km走れる計算だ。
16.5kWh/100kmは、ツインモーターより6.7%ほど良好な数字だ。
801.5km走るのに必要な電力量は132.3kWh。
東京電力のプレミアムSプランだと1kWh=29.61円(従量料金)だから、普通充電ですべてを賄った場合、
132.3kWh×29.61円=3917円ということになる。
つまり1km走るのに4.9円/km
電気料金は、電力会社、契約内容で変わってくるから、例として示したわけだが、エンジン車(ハイブリッド車も含む)よりも圧倒的に運用コストが低いのは間違いない。
レギュラーガソリン(163円/L)
ハイオクガソリン(174円/L)
軽油(143円/L)
とすると、レギュラーなら33.3km/L
ハイオクなら35.5km/L
軽油なら29.3km/Lの燃費で走るクルマと同等のコストということだ。ちなみに、アクアZのモード燃費が33.6km/Lだ。
BEVのC40をいま買う人は、いわゆる「イノベーター」「アーリーアダプター」と呼ばれる人たちだろう。日本語でいえば”新しもの好き”。それでも、補助金があるとはいえ、それなりの車両価格になるC40を買うには、それ相応の「ロジック」が必要だ。走り味、新しいモノ感だけでなく、運用コストはそれを裏付けるものになる。
2023年モデルのC40シングルモーター仕様はFWDだが、2024年モデルからはRWDになる。これも、「ロジック」のひとつになりそうだ。なぜなら、「運動性能向上のために、RWDにする」からだ。
FWDのC40シングルモーター
車両重量:2000kg 前軸軸重1090kg 後軸軸重910kg(54.5:45.5)
だから
RWDなら
車両重量:2000kg 前軸軸重950kg 後軸軸重1050kg(47.5:52.5)くらいの重量配分になるのではないか。
今度はRWDシングルモーター仕様をドライブするのが楽しみになってきた(後輪駆動のシングルモーターは、2023年夏のデリバリーを予定だそうだ)。
使い勝手はどうだったか?
さて、C40シングルモーター仕様と10日間生活をともにして使い勝手はどうだったか? この間、取材で早朝4時に出発することがあった。エンジン車と違って、近所に気を遣うことなく、文字通り”音もなく”走り出せるのはいい。深夜に帰宅するときも同様だ。
インテリアの質感は独特だ。”高級”ではないが、安っぽいわけではない。ブランドモノのジーンズのような感じ? レザーフリーを謳っているので、本革とは違う質感のシートやステアリングホイールのタッチも、その志を知って触れると、なるほどと思う。
最小回転半径が5.7mというのは、全長4440mmのクルマにしては大きすぎ。もうちょっと小回りが効くとうれしい(車幅が広いからやむを得ないのかもしれないけれど)。
もうひとつ、リヤの造形からこれまた仕方ないのかもしれないが、後方視界がよくない。室内のリヤビューミラーから後方を確認しようとすると、かなり狭い視界になる。ここはぜひ、デジタルミラーを採用してもらいたい。
走行フィールでいうと、アクセルオフにした際の回生の効きが弱い。アクセルオフにするとコースティングに入るのだ。これは、考え方の違いで「止まりたいときはしっかりブレーキペダルを踏め!」ということだ。慣れれば問題ない。
C40は、一台ですべてのシーンをカバーしてくる魅力的なクロスオーバーだ。新しいモノ感もあるし、だからと言って少し前のBEVが抱えていた使い勝手の悪さはもうない。乗り味とデザインが気に入ったら、アリなBEVだと思う。
10日間付き合ったC40を返却して、マイカーのBMW320d(F30型2.0L直4ディーゼルターボ)に乗り換えたときに、「なんだ!このうるさくてペッタンコなクルマは!」という軽いショックを受けた。C40は、やはり”ちょっと進んだ感じ”が魅力なのである。
ボルボC40 RechargePlus Single Motor 全長×全幅×全高:4440mm×1875mm×1595mm ホイールベース:2700mm 車重:2150kg サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマルチリンク式 モーター形式:交流同期モーター モーター型式:EAD3 定格出力:80kW 最高出力:231ps(170kW)/4919-11000rpm 最大トルク:F 330Nm/0-4919rpm 駆動方式:FWD 電池:リチウムイオン電池 総電力量:69kWh 総電圧:358V WLTC交流電力量消費率:159Wh/km 市街地モード136Wh/km 郊外モード149Wh/km 高速道路モード177Wh/km 一充電走行距離WLTC:502km 車両価格:680万9650円