いつまでもあると思うな純正部品! オーナーなら絶対気になる! ユーノス・ロードスターのレストアサービスと復刻部品の供給状況をマツダクラシックに直撃!!

ロードスター『軽井沢ミーティング2023』
2017年12月にスタートしたマツダによる「ユーノス・ロードスター」のレストアサービス。長年愛用された同車をマツダが修理を行い、リフレッシュするサービスだが、欠品となっている部品を復刻することで、登場より30年という時間が経過した同車を愛用するオーナーたちをサポートするのも狙いだ。現在、13台目を手掛けているというレストア事業と復刻部品の現状を知るべく、2023年5月29日に開催された『軽井沢ミーティング2023』の会場で「クラシックマツダ」の担当者に取材した。
REPORT &PHOTO:大音安弘(OHTO Yasuhiro)

レストアサービス最大のネックは復刻部品の供給状況

初代モデルとなるユーノス・ロードスターのレストアと部品の復刻を手掛けているクラシックマツダだが、これまでに12台のNA6C(1.6Lエンジン車)を手掛け、こられはすべて納車済み。現在は13台目のレストアに取り掛かっているが、部品供給の問題で作業の進捗に影響が出ているという。

そうなると、レストアに必要な部品は確保できる状況にあったのではないのか?という疑問も湧いてくる。公式サイトの情報によれば、これまで約190点の部品が復刻されている。しかし、復刻部品の中には、再び供給が終了となるケースも出てきているというのだ。

『軽井沢ミーティング2023』の会場に展示されたマツダ所有のユーノス・ロードスターVスペシャル(NA6C)は主査を務めた平井敏彦氏の元愛車。

例えば、初代モデルの特徴的なビニール製の黒いソフトトップだ。発売当時のドイツ製ビニール生地は入手ができなくなっていたが、同様の風合いの生地をアメリカから取り寄せ、量産当時よりも厳しい試験をクリアして見事に復活を遂げていた。しかし、その生地も調達ができなくなったため、生産終了となっている。
因みに、仕様の異なるクロス生地タイプのソフトトップは継続供給されている。

なぜ純正部品が復刻できないのか?

廃盤部品の復刻と復刻部品の供給問題が難しいことには、さまざまな理由がある。
まずは再生産が難しいケースだ。当時部品に使われていた素材や構成部品が製造中止となっていると、そのまま再生産することは難しい。上記のソフトトップのように、同等の性能を有する素材や部品を使って復活させることもできるが、メーカーとしては、新車当時と同等の品質と性能を有しているか、厳しい試験で確認することが必須となる。

オープンカーであるユーノス・ロードスターの特徴のひとつでもあるソフトトップは、維持していく上で悩みのタネだ。

また製造に必要な金型の老朽化で、生産には修理や新調が必要なケースもある。どちらも、再生産には膨大なコストが発生する。そもそも部品が廃盤となった理由は数量が出ないこと。そのため、コストが嵩み部品単価へ転嫁させると現実味の無い価格となってしまう。
上記のソフトトップのように再試験まで行い、復刻されることは、特例ともいえる。それは、同部品がNA6Cの象徴的なアイテムであるため、レストアの肝と判断されたためだろう。それが供給不可となったことは、マツダとしても、非常に残念な結果だったに違いない。

会場に展示された復刻部品。

さらに部品の供給元であるサプライヤーの状況にも変化が生じている。
部品メーカーも、百年に一度の大変革期になるといわれる自動車業界での生き残りを賭けて、資源の「選択と集中」に迫られている。そのなかで、旧型部品の供給を断念せざるをえないケースも出てきているようなのだ。さらに事業の将来性などさまざまな理由から、廃業を決断するメーカーも現れている。そうなれば、部品はメーカーと共に消える運命となってしまう。寂しい話だが、それも現実だ。

今なお供給が続けられる純正部品もあるが……

旧車向けの部品の場合、復刻部品にばかりスポットが当たるが、もちろん、新車時から変わらず供給されるものもある。意外かもしれないが、乗用車の部品供給期限に明確なルールはなく、各社が独自に定めている。そのため、一定数が定期的に売れる部品ならば、多少古いクルマでも部品が供給されている可能性が高い。

板金修理の需要から外装部品に関してはまだ入手可能なこともある。

例えば、外装部品は入手可能なケースが多い。これは板金修理でのニーズがあるため。逆に、あまり修理や交換するケースが少ない内装部品は廃盤のものも多く、これはユーノス・ロードスターにも当てはまる。
ただ楽観視できない状況にもある。政府が中小企業の負担軽減を目的に、古いクルマ向けの補修部品の供給をある程度で止めさせようとする流れも出ているという。ネオヒストリック人気で盛り上がる旧車ブームのなかで、将来的な影響は避けられないだろう。

クラシックマツダの試行錯誤……部品復刻のために

もちろん、新たな部品復刻に向けてクラシックマツダとしては、取り組みを続けている。
残念ながら実現には至らなかったが、ユーザーからリクエストの多かったオーディオの製品化にも挑んだという。当時の純正カーオーディオ風デザインとBluetoothなどの現代的な機能を備えた新オーディオユニットが企画されていたのだ。

NA6C(1989)のコックピット。オーディオスペースはもちろん、そこに収まるオーディオユニットもDIN規格ではない。
同じくNA6C(1991)のコックピット。こちらはオーディオスペースを全て使用しているが、やはりDIN規格ではない(Vスペシャル)。

純正オーディオにこだわるユーザーが多い背景には、前期型となるNA6Cの場合、純正オーディオが完全なDIN規格ではないため、今販売される1DINサイズのオーディオを装備するとオーディオ部に隙間が生じてすっきりと収まらない。またナビユニットなどの2DINサイズのものはそもそも装着できないのだ。以前、ホンダアクセスが特殊サイズとなるビート専用の新オーディオシステムを限定販売したことがあっただけに、実現されなかったのは残念。

NA8C(1995)のコックピット。オーディオスペースはDIN規格になり、2DIN分のスペースに1DINサイズのオーディオを装着(Sスペシャル)。

ただし、打開策はある。それが後期型となるNA8Cのセンターパネルの流用だ。後期型のオーディオ部は2DIN化されており、それをNA6Cにも装着できるのだ。この部品は現在も入手可能なので、NA6Cに2DINナビ装着などを検討している人にもお勧めしたい。

同じくNA8C(1996)のコックピット。こちらは2DINサイズの純正オーディオが収まっている(Vスペシャル)。

純正部品は手に入るうちにストックしておくべし!

目新しい復刻部品の情報こそないが、入手可能な便利な部品をご紹介したい。それが純正ハーフボディカバーだ。NA用とNB用があり、なんと復刻ではなく現在も新品供給されている。最近の部品調査の過程で入手可能な状況であることが判明したという。

会場でその他のパーツ一緒に展示されていたハーフボディカバー。まだ新品が供給されている。

フロントガラスとサイドガラス、幌をすっぽりと覆う形状なので、取り外しも簡単でボディを痛める心配もなし。何よりも幌の紫外線や汚れによる劣化を防ぐことが出来る。裏地が起毛となっているため、ソフトトップへの攻撃性が少ないものポイント。価格も1万7000円ほどと購入しやすいものだ。
上記のように、ビニール生地のソフトトップは廃盤となったため、その寿命の延長にも効果的なアイテムとなる。

二代目であるNB型ですら18年〜25年が経過している今、純正部品の在庫や供給状況は楽観視できない。幌を長持ちさせるなら、ハーフボディカバーは使用した方が良さそうだ。

クラシックマツダを担当するカスタマーサービス本部の伏見亮さんは「2024年は復刻部品の新しい情報が提供できるかもしれない」としながらも「どの復刻部品も、いつ供給がストップかはわからない。今後、必要となる部品は早めに購入してストックしていただけると嬉しい」と話してくれた。

トークショーでレストアサービスや復刻部品の供給について語るクラシックマツダのスタッフ。

ロードスターは来年で誕生から35周年を迎える。会場に集結したロードスターも半数が、現行のND型となっていた。三代目となるNC型も生産終了から8年を迎えた。二代目NB型と三代目NC型は初代と比べると生産台数も少ないこともあり、現存台数も限られているため、NA型以上に、部品入手が難しくなっていくだろう。

シリーズ初のリトラクタブルハードトップも設定された三代目NC型は2005年〜2015年のモデル。モデルライフが長く、デビュー時のモデルは18年モノになる。生産終了が2015年とはいえ油断はできない。

ロードスターに限らず、古いクルマを愛するオーナーは維持するために必要な部品や今後の修理に必要となる部品の確保について真剣に考えるタイミングといえそうだ。

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著者プロフィール

大音安弘 近影

大音安弘

1980年生まれ、埼玉県出身。幼き頃からのクルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後…