ステップワゴン・モデューロX 走りの質感の高さには脱帽だがベース車由来の弱点は覆せず。わくわくゲートが不要なら“待ち”

モデル末期のホンダ・ステップワゴンe:HEVモデューロXは“買い”か“待ち”か?

ホンダ・ステップワゴンe:HEVモデューロX
ホンダ・ステップワゴンe:HEVモデューロX
近々の販売終了またはフルモデルチェンジが確実視されている、モデル末期の車種をピックアップ。その車種がいま“買い”か“待ち”かを検証する。

今回採り上げるのは、ホンダの5ナンバーサイズ背高ミニバン「ステップワゴン」をホンダアクセスがトータルチューンしたコンプリートモデル「モデューロX」のe:HEV(2モーターハイブリッド)・FF車。テスト車両は2020年1月の一部改良前のモデルで、オプションの「10インチプレミアムインターナビ」(35万5300円)などを装着していた。

ホンダアクセス本社のある埼玉県新座市から東京湾アクアラインを経て千葉県木更津市までを往復する約300kmのルートで試乗した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、本田技研工業、ホンダアクセス
初代ホンダ・ステップワゴン
初代ホンダ・ステップワゴン

ステップワゴンは1996年5月の初代発売以来、ホンダの国内登録車における基幹車種であり続けているが、その歴史を振り返ると、ホンダの長所と短所双方を分かりやすく体現したモデルであることが見えてくる。

その初代はFF(前輪駆動)の乗用車をベースにスクエアな背高パッケージを与え、広々として使い勝手の良い室内空間と乗用車ならではの快適性を兼ね備えたことで大ヒット。FF5ナンバー背高ミニバンの先駆者としてその地位を確立した。


二代目ホンダ・ステップワゴン
二代目ホンダ・ステップワゴン

2001年4月発売の二代目はそんな初代の成功を踏まえ、内外装と走りの質感を大幅に高めつつ、片側リヤスライドドアのボディ構造を踏襲。直接競合する1999年6月発売の二代目日産セレナや、約半年遅い2001年11月に発売された初代トヨタ・ノア/ヴォクシーが、リヤ両側スライドドアを採用したのに対し、二代目ステップワゴンは乗降性の面で明確に劣勢に立たされた。


三代目ホンダ・ステップワゴン
三代目ホンダ・ステップワゴン
四代目ホンダ・ステップワゴン
四代目ホンダ・ステップワゴン

そうした二代目の反省もあってか、あるいは2000年10月に発売された初代ストリームの成功を受けてか、2005年5月発売の三代目ステップワゴンでは、リヤ両側スライドドアを初めて採用する一方、低床・低重心プラットフォームを新規開発し、60mmの低床化、40mmの低重心化、75mmの低全高化、45mmの全長短縮を敢行。だがそれは裏目に出て、2010年10月発売の四代目では三代目より全長を50mm、全高を45mm拡大し、スクエアなフォルムと広い視界を兼ね備えた背高パッケージに回帰したことで、販売も堅調に推移した。

五代目ホンダ・ステップワゴン前期型。左はエアロ仕様の「スパーダ」
五代目ホンダ・ステップワゴン前期型。左はエアロ仕様の「スパーダ」

このように「革新」と「保守」を行き来するフルモデルチェンジを繰り返してきたステップワゴンだが、2015年4月に発売された現行五代目が採った道は、やはり「革新」だった。その象徴と言えるのが、縦にも横にも開くバックドア「わくわくゲート」である。

これが左右非対称のリヤビューを形成し、デビュー当初より2014年1月デビューの三代目トヨタ・ヴォクシー、それもノアとエスクァイアを合わせてではなくヴォクシー単体にさえ後塵を拝し続ける一因になったのは間違いないが、肝心の機能面はどうだろうか?

わくわくゲートを縦に開いた状態。後方突出量は124cm(筆者実測)に達し後方の壁との隙間はわずかだが荷室開口幅は118cm(メーカー公表値)と広い
わくわくゲートを縦に開いた状態。後方突出量は124cm(筆者実測)に達し後方の壁との隙間はわずかだが荷室開口幅は118cm(メーカー公表値)と広い

バックドアが横に開くメリットは、奥行きの狭い車庫・駐車場でもバックドアが開けられ、荷物を出し入れしやすいこと、これに尽きる。

五代目ステップワゴンの場合、縦に開いた際の開口部下端がバンパー下端と同じため、その後方突出量は124cm(筆者実測)に達する。またその際の取っ手の地上高は180cm(同)あり、しかも電動開閉機構がオプションでも用意されないため、小柄な女性が開閉するのは至難の業だ。


わくわくゲートを横に3ノッチ目まで開いた状態。後方の壁まで大きな余裕がある。後方突出量は76cm、荷室開口幅は83cm(いずれもメーカー公表値)
わくわくゲートを横に3ノッチ目まで開いた状態。後方の壁まで大きな余裕がある。後方突出量は76cm、荷室開口幅は83cm(いずれもメーカー公表値)

それが横に開くと、1ノッチ目で後方突出量は40cm&開口幅35cm(メーカー公表値)、2ノッチ目で同64cm&61cm、全開の3ノッチ目でも同76cm&83cmとなる。この際の取っ手の地上高は127cm(筆者実測)で、開口部地上高は44.5cm(メーカー公表値)と低いため、ドアの開閉や荷物の出し入れはもちろん、人の出入りさえ容易だ。

とはいえ肝心の開口幅が決して広くはなく、しかも左側しか開かないため、その使い勝手を手放しで絶賛することはできない。なぜ縦開きを捨ててでも、ミニ・クラブマンのような左右対称の観音開きドアにしなかったのか、大いに疑問が残る。


五代目ホンダ・ステップワゴンスパーダハイブリッドG・EXホンダセンシング。後期型「スパーダ」は押し出しが強くスクエアなフロントマスクが大きな特徴
五代目ホンダ・ステップワゴンスパーダハイブリッドG・EXホンダセンシング。後期型「スパーダ」は押し出しが強くスクエアなフロントマスクが大きな特徴

他にも、角が丸められた前期型(スパーダ。標準車は後期型も)の柔和な外観が背高ミニバンユーザーのニーズに合致しなかったこと、前期型はパワートレインが1.5L直4直噴ターボ+CVTしかなく2.0L直4NA+2モーターハイブリッドの追加が2017年9月のマイナーチェンジまで遅れたことなど、様々な要因が考えられるが、ともあれ五代目ステップワゴンでの革新的な取り組みがことごとく失敗に終わったのは間違いない。

ホンダ・ステップワゴンモデューロX(前期型)
ホンダ・ステップワゴンモデューロX(前期型)

そして今回の本題である「モデューロX」だが、発売されたのは2016年10月。ベース車もまだ前期型だった当時は1.5Lガソリンターボ車のみだったが、2018年12月にベース車より1年強遅れてマイナーチェンジ。その際にフロントマスクが一新されるとともに、ハイブリッド車が追加されている。

【ホンダ・ステップワゴンe:HEVモデューロX】全長:4760mm、ホイールベース:2890mm、最低地上高:155mm、最小回転半径:5.4m
【ホンダ・ステップワゴンe:HEVモデューロX】全長:4760mm、ホイールベース:2890mm、最低地上高:155mm、最小回転半径:5.4m
全幅:1695mm、フロントトレッド:1470mm
全幅:1695mm、フロントトレッド:1470mm
全高:1840mm、リヤトレッド:1485mm
全高:1840mm、リヤトレッド:1485mm

ボディ下面の空気の流れを整えて中高速域の操縦安定性を大幅に高める「実効空力」に基づき、実車での走行テストを重ねて決定されたエクステリアは、ベース車のスパーダよりもメッキパーツの色味も使用範囲も抑えられる一方、造形はマイナーチェンジ前のモデューロXと比較してもより一層レーシーなものに進化している。

ピアノブラック調インパネミドルパッドなどで質感が高められた運転席まわり
ピアノブラック調インパネミドルパッドなどで質感が高められた運転席まわり

プライムスムース(合皮)とソフトウィーブ(織物)を組み合わせた専用シート表皮とピアノブラック調インパネミドルパッド、ディンプル(くぼみ加工)レザー巻きステアリングホイール&セレクトレバーを採用したインテリアは、見た目の質感こそベース車より高まっているもののツルツルと滑りやすく、機能面では役不足。

2列目キャプテンシートも1列目シートとほぼ同様の傾向。ただし頭上・足元とも空間は20cm以上の余裕がある
2列目キャプテンシートも1列目シートとほぼ同様の傾向。ただし頭上・足元とも空間は20cm以上の余裕がある
1列目シートは若干小さく、サイドサポートも低く平板。滑りやすい表皮もフィット感の低さを助長している
1列目シートは若干小さく、サイドサポートも低く平板。滑りやすい表皮もフィット感の低さを助長している
3列目は空間こそ頭上・足元とも10cm以上の余裕があるもののシートサイズは小ぶりで膝回りが完全に浮く
3列目は空間こそ頭上・足元とも10cm以上の余裕があるもののシートサイズは小ぶりで膝回りが完全に浮く

シート自体はベース車より変更されておらず、サイズ・ホールド性とも不足気味で、ヒップポイントの落とし込みが足りないためサブマリニングを起こしやすいなどの欠点もそのまま。フリードモデューロXは2020年5月のマイナーチェンジでこれらが劇的に改善されたが、ステップワゴンモデューロXの場合はほぼ変更されなかったのが残念でならない。


3列目使用時の荷室。奥行き×幅×高さは42×120×146cm(いずれも筆者実測)
3列目使用時の荷室。奥行き×幅×高さは42×120×146cm(いずれも筆者実測)
3列目使用時に出現するラゲッジアンダースペース。深さは23cm(筆者実測)
3列目使用時に出現するラゲッジアンダースペース。深さは23cm(筆者実測)
3列目格納時・2列目使用時の荷室。奥行きは119cm(筆者実測)
3列目格納時・2列目使用時の荷室。奥行きは119cm(筆者実測)
3列目格納時・2列目最前部スライド時の荷室。奥行きは157cm(筆者実測)
3列目格納時・2列目最前部スライド時の荷室。奥行きは157cm(筆者実測)

一方、3列目使用時でも42cmの奥行きと23cmの深さ(筆者実測)があるため、荷室の使い勝手は良好。しかも3列目は格納が2ステップ、展開も3ステップで楽にアレンジでき、さらに2列目を最前部までスライドさせれば同157cmのフラットな荷室を得ることができる。

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…