モデル末期のホンダ・オデッセイは“買い”か“待ち”か?…熟成進み「走りのミニバン」復活。次期型の日本導入は不透明、今すぐ“買い”だ!

ホンダ・オデッセイe:HEVアブソルートEX
ホンダ・オデッセイe:HEVアブソルートEX
近々の販売終了またはフルモデルチェンジが確実視されている、モデル末期の車種をピックアップ。その車種がいま“買い”か“待ち”かを検証する。今回採り上げるのは、ホンダのミドルラージミニバン「オデッセイ」の最上級グレード「e:HEVアブソルートEX」FF車(オプションの本革シート、10インチナビなどを装着)。ホンダ本社のある東京・青山から御殿場、箱根のワインディングを周回する300km強のルートで試乗した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、本田技研工業

ホンダの日本国内におけるニューモデルラッシュならぬモデル廃止ラッシュが止まらない。

昨年を振り返るだけでも、フルモデルチェンジせず後継モデルも現れないまま生産終了したモデルは、N-BOXスラッシュ(2020年2月)、グレイス(2020年7月)、ジェイド(2020年7月)、シビックセダン(2020年8月)の4車種にのぼる。

そして今後は、2021年末の埼玉製作所狭山完成車工場の閉鎖に伴い、今回採り上げるオデッセイのほか、レジェンドとクラリティも生産終了(注:ステップワゴンも生産終了するが2022年内にフルモデルチェンジされる可能性が高い)。2022年春にはS660、同年末にはNSXも生産終了が公式発表されているうえ、同年内には他にもいくつかモデル廃止となる見込みだ。

そのなかでもオデッセイは、2020年11月に二度目のフェイスリフトを受け、2021年2月の販売台数は毎月2000台前後にまで回復している。にも関わらず、大規模なマイナーチェンジからわずか1年ほどで生産終了するのは、生産拠点の閉鎖、そして長年続く四輪車事業の利益率低迷という根本的な問題はあるにせよ、ホンダファンならずとも「はいそうですか」とは納得しかねるところだろう。

1994年10月発売の初代ホンダ・オデッセイ
1994年10月発売の初代ホンダ・オデッセイ

なぜならオデッセイ、とりわけ1994年10月に発売された初代は、バブル経済崩壊などの影響を受けて倒産の危機に瀕していた1990年代中頃のホンダを復活させた救世主であると同時に、日本にFF乗用車ベースのミニバン市場を形成するとともにRVブームを巻き起こした立役者であった。


2001年11月、二代目オデッセイのマイナーチェンジで追加されたスポーティグレード「アブソルート」
2001年11月、二代目オデッセイのマイナーチェンジで追加されたスポーティグレード「アブソルート」

さらに1999年12月デビューの二代目以降は「走りのミニバン」を世に問い続けてきた、ホンダのチャレンジングスピリットを象徴するモデルでもあったからだ。それを象徴するのが、2001年11月のマイナーチェンジで追加されたスポーティグレード「アブソルート」だろう。やがてこれが、オデッセイの中核をなす存在へと成長していく。


2003年10月デビューの三代目ホンダ・オデッセイアブソルート
2003年10月デビューの三代目ホンダ・オデッセイアブソルート
2008年10月デビューの四代目ホンダ・オデッセイアブソルート
2008年10月デビューの四代目ホンダ・オデッセイアブソルート

とはいえ、2003年10月デビューの三代目、2008年10月登場の四代目は、立体駐車場にも入庫可能なほどの低全高パッケージが結果的に裏目に出て、販売も徐々に低空飛行に。

2004年5月デビューのホンダ・エリシオン
2004年5月デビューのホンダ・エリシオン
2013年10月デビューの五代目ホンダ・オデッセイアブソルート
2013年10月デビューの五代目ホンダ・オデッセイアブソルート

2013年10月に発表された現行五代目は、オデッセイというよりはむしろ、2004年5月に発売されたエリシオンの全高を約100mm下げた後継モデルというべき、やや背の高いボディに押し出しの強いマスクとリヤ両側スライドドアを備えたモデルへと宗旨替えされていた。

2013年4月の上海モーターショーで世界初公開されたホンダ・コンセプトM
2013年4月の上海モーターショーで世界初公開されたホンダ・コンセプトM

また、2008年のリーマンショック後に開発がスタートした影響は大きく、四代目以上にコストカットが随所に目立つ仕上がりに。加えてデザインは押し出しの強さを重視したもので、五代目オデッセイを示唆した「コンセプトM」は2013年4月の上海モーターショーが世界初公開の場となったことからも、日本ではなく中国市場を主眼として開発されたことが容易に想像できる。


五代目ホンダ・オデッセイハイブリッドの「スポーツハイブリッドi-MMD」メカニズム配置イメージ
五代目ホンダ・オデッセイハイブリッドの「スポーツハイブリッドi-MMD」メカニズム配置イメージ

筆者が五代目オデッセイに初めて試乗したのは、2015年1月の一部改良でADAS「ホンダセンシング」が初めて設定された後だったが、内外装のみならず走りもADASの制御もラフで、「これは果たしてオデッセイと言えるのだろうか」とひどく失望したことを、今でもよく憶えている。これは、翌2016年2月に追加された2モーター式「スポーツハイブリッドi-MMD」搭載車も残念ながら同様だった。

【ホンダ・オデッセイe:HEVアブソルートEX】全長:4855mm、ホイールベース:2900mm、最低地上高:145mm、最小回転半径:5.4m
【ホンダ・オデッセイe:HEVアブソルートEX】全長:4855mm、ホイールベース:2900mm、最低地上高:145mm、最小回転半径:5.4m
全幅:1820mm、フロントトレッド:1560mm
全幅:1820mm、フロントトレッド:1560mm
全高:1695mm、リヤトレッド:1560mm
全高:1695mm、リヤトレッド:1560mm

そうした経緯もあり、2020年11月に二度目のフェイスリフトを受けた後の現行オデッセイに対しても、率直に言えばほとんど期待していなかったのだが……その予想は良い意味で大きく裏切られた。

前後とも大幅に手が加えられたエクステリアは、ボンネット前端が80mmかさ上げされたことで、それまでのワンモーションフォルムは失われてしまったものの、デザイン要素が若干ながら減ったことでスッキリとした印象に。そのうえ運転席からノーズが見えるようになり、車両感覚が掴みやすくなったことも、大きな進化と言えるだろう。

インパネアッパーパネルの全面変更で視覚的圧迫感も軽減された運転席まわり
インパネアッパーパネルの全面変更で視覚的圧迫感も軽減された運転席まわり

その運転席まわりも、インパネアッパーパネルやメーターパネルのデザインが全面的に変更されるとともに収納が増え、ナビは10インチのディーラーオプション品に一本化されるなど、質感とともに視認性と使い勝手も大幅に改善された。

インパネ右下のスイッチ類。EPBおよびオートブレーキホールド機能のスイッチもここに配置される
インパネ右下のスイッチ類。EPBおよびオートブレーキホールド機能のスイッチもここに配置される

しかしながら、ハイブリッド車に標準装備されるEPB(電子制御パーキングブレーキ)のスイッチがインパネ右下に配置されているうえ、作動時にランプが点灯しないため操作性も視認性も悪い点は一切改良されていない。

2017年11月のマイナーチェンジでハイブリッド車のACC(アダプティブクルーズコントロール)が渋滞追従機能付きとなったことに伴い後付けされたもので、この使い勝手の悪さを味わうたびに設計年次の古さを感じてしまう。


1列目シートは座面こそ充分なサイズがありフィット感は良好だが背もたれが小ぶりで肩まわりのサポート性に乏しい
1列目シートは座面こそ充分なサイズがありフィット感は良好だが背もたれが小ぶりで肩まわりのサポート性に乏しい

古さを感じさせるという点では、3列とも背もたれが小ぶりなシートも相変わらずだが、座面は充分な長さがありクッションも厚めなためフィット感は上々。


2列目プレミアムクレードルシート。写真は3列目を格納し最後部までスライドした状態
2列目プレミアムクレードルシート。写真は3列目を格納し最後部までスライドした状態

8人乗り2列目ベンチシート仕様がない「e:HEVアブソルートEX」には強制的に装着される「2列目プレミアムクレードルシート」はシートベルト内蔵式で、オットマンやボトルホルダー、角度調整式両側アームレストに加え、背もたれに中折れ機構を備え、かつ背もたれを倒すと連動して座面前部が持ち上がるようになっている。そのうえ3列目を格納すれば740mmのロングスライドも可能になるため、移動中でもリラックスした姿勢で寛げるのが大きな美点だ。


3列目シートは座面こそ長めだが床下格納を優先した設計
3列目シートは座面こそ長めだが床下格納を優先した設計

一方で3列目は、四代目より全高が150mmアップされた恩恵をほとんど受けておらず、シートさいず、レッグルーム、ヘッドルームとも決して充分とは言えず、「大人が座れなくもないが決して快適ではない」という域を出ていない。長旅では子供用と割り切るべきだろう。


3列目使用時の荷室。開口部は幅1160mm、高さ1030mm、地上高525mm(メーカー公表値)
3列目使用時の荷室。開口部は幅1160mm、高さ1030mm、地上高525mm(メーカー公表値)

3列目使用時の荷室底部。奥行きは57cm(筆者実測)、容量は330L(メーカー公表値)
3列目使用時の荷室底部。奥行きは57cm(筆者実測)、容量は330L(メーカー公表値)

3列目格納時・2列目最後端セット時の荷室。奥行きは82cm(筆者実測)
3列目格納時・2列目最後端セット時の荷室。奥行きは82cm(筆者実測)
3列目格納時・2列目最前端セット時の荷室。奥行きは144cm(筆者実測)
3列目格納時・2列目最前端セット時の荷室。奥行きは144cm(筆者実測)

だが3列目が床下格納を優先した設計となっているおかげで、そのシートアレンジは極めて容易。また格納すればフロアと地続きのフラットな荷室が得られる。とはいえ、テスト車両の「2列目プレミアムクレードルシート」が掛け心地最優先のため前後スライド以外にシートアレンジできないのは当然としても、8人乗り2列目ベンチシート仕様に座面のチップアップ機構がなく、奥行きを稼げなくなったのは大いに疑問が残る。

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…