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流麗なハイエンドGTモデルがFF !?
今回紹介したいのは、日産270Xだ。徹底して低められたルーフとノーズをもつ二人乗りのスポーツカーなのだが、実はこのモデル、フロントエンジン&フロントドライブのFFとして紹介されたのだ。
3サイズはL4210×W1700×H1050mm。と、屋根付きで人が乗るには極限に近い高さといえるほどのプロフィールなのだが、ちゃんと5ナンバーに収まるサイズ。
未来のパーソナルGTとして提案されたもので、直前に発表された日産のブランニューモデル、チェリーのコンポーネンツを利用して作られたものだった。そのためホイールベースは2335mm、サスペンションはフロントがストラット、リヤがトレーリングアームと、チェリーと共通。搭載されたエンジンも燃料噴射式ではあるが1171ccとチェリー用を利用して、7ポジション式自動変速機(7速…ではない)を採用した。
チェリーは1970年に登場した日産初のFFとなったが、この時代に日本でFFレイアウトを主力モデルとして採用するのはスズキとホンダそしてスバル程度で、大手のトヨタなどはまだまだ敬遠していた時代だ。そこに意欲的なモデルとしてFFを登場させたタイミングだった。
日産としてはFFが異端ではなく、これからのトレンドの一つであることを主張したい意図もあったものと思われる。
新登場のチェリーを後押しするコンセプトカー
とはいえこの270Xの登場も、この個性的なチェリーの存在があってこそのものだ。独創的なFFであることに加え、そのデザインは驚きでもあった。東京モーターショー前に発表されたのは2ドア/4ドアセダンとバンだったのだが、富士山をかたどったようだとも評された独特なリヤピラーを持つのが特徴。またそのピラーに呼応して、セダンでもテールエンドはセミファストバックのようななだらかさを持っていた。そのために小さくなるトランクリッドを補うように、トランクフードはバンパーレベルまで開く、今日的なスタイルを持った。
前後フェンダーをそれぞれ支えるキャラクターラインは、コンパクトなボディに力感を表現。フロントはベビーフェイスながらも、少し睨みを効かせたキュートさを持っている。
にわかには信じられないかもしれないが、このリヤピラーなどをはじめとした造形をうまく活かしたのが270Xのデザインの最大のポイントだ。
その翌年の1971年には、チェリーに新たなモデルが追加される予定も視野に入れたもの。それがクーペだったのだが、クーペとしては想像を絶するフォルムを持っていた。トランクを持たない、いってみればスポーツワゴンスタイル。リヤサイドにウインドウを持たないリヤクォーターはサイドパネルと呼ぶにふさわしく、リヤエンドにはルーフから続く大きな曲面グラスを持ったハッチゲートを採用。
リヤウインドウは当時の技術的な事情から大きな曲率は持てず、サイドのピラーの後端をつまみ上げることで狙ったサイドビューのフォルムを実現していた。
何よりも特徴となるのはこのリヤセクション。この形をみれば、270Xと世界観が共通することがわかるだろう。
現在では、まるでコンセプトカーのような市販車が登場するという傾向に向きつつあるが、この時代はまるで初期のスケッチがそのままコンセプトカーとして登場した時代でもあった。当然、270Xはチェリーのセールスに結びつけるための手段でもあったが、市販車を開発するにあたっても「制約にも囚われない理想的な形をまず考えてみる」というところからのデザイン開発も少なくなかったようだ。
そうした自由な開発からコンセプトを生み出し、実現可能な技術によってどれだけの製品が生みだせるかを検討する…という流れだ。
考えてみれば現状でも考え方に変わりはないが、これだけ破天荒に生み出してくれるのは、正直言って楽しい。この270Xも、真正面から実に真面目に、そしてこうありたいと思う未来に登場してほしいチェリーとして考えられていたことだろう。
そんな夢のある時代のコンセプトカーでもあったが、果たしてそれから50年を経過した今はどうなったか? 1970年から想像する未来とはちょっと違う、斜め上の光景が実現しているように思う。
いいとか、悪いとかいうことではなく、その後のちょっとしたいろいろな事象がどんどん未来を変えて行くのだな、と思ったりする。