【火曜カーデザイン特集】 1970年・第17回東京モーターショー 日産270Xとチェリー

日産270Xはチェリーベースの1.2ℓ FFだった! 50年前のコンセプトカー

第17回東京モーターショーが開催されたのは1970年10月30日。1970年は戦後25年を迎え、日本が大きく生まれ変わる時期だった。日本でミスタードーナツやケンタッキーフライドチキンが創業したのもこの年で、ライフスタイルも大きく変わろうとしていた。そして東京モーターショーは第17回の開催となったのだが、この年のコンセプトカーは歴史的に語り継がれるモデルが多く登場したのだった。 by 松永大演 / Carstyling

流麗なハイエンドGTモデルがFF !?

今回紹介したいのは、日産270Xだ。徹底して低められたルーフとノーズをもつ二人乗りのスポーツカーなのだが、実はこのモデル、フロントエンジン&フロントドライブのFFとして紹介されたのだ。

3サイズはL4210×W1700×H1050mm。と、屋根付きで人が乗るには極限に近い高さといえるほどのプロフィールなのだが、ちゃんと5ナンバーに収まるサイズ。

1970年の東京モーターショーはスーパーカー的コンセプトカーの当たり年。しかしこの日産270Xは何とFFだった!

未来のパーソナルGTとして提案されたもので、直前に発表された日産のブランニューモデル、チェリーのコンポーネンツを利用して作られたものだった。そのためホイールベースは2335mm、サスペンションはフロントがストラット、リヤがトレーリングアームと、チェリーと共通。搭載されたエンジンも燃料噴射式ではあるが1171ccとチェリー用を利用して、7ポジション式自動変速機(7速…ではない)を採用した。

チェリーは1970年に登場した日産初のFFとなったが、この時代に日本でFFレイアウトを主力モデルとして採用するのはスズキとホンダそしてスバル程度で、大手のトヨタなどはまだまだ敬遠していた時代だ。そこに意欲的なモデルとしてFFを登場させたタイミングだった。

同年に発表された新型車、日産チェリー。日産として初のフロントエンジン/フロントドライブを採用。写真は2ドアセダン。標準モデルは1ℓのシングルキャブ仕様。車重は700kgを切った。
日産チェリー4ドアセダンのスポーツモデルX-1。1.2Lのツインキャブエンジンを搭載。

 日産としてはFFが異端ではなく、これからのトレンドの一つであることを主張したい意図もあったものと思われる。

新登場のチェリーを後押しするコンセプトカー

とはいえこの270Xの登場も、この個性的なチェリーの存在があってこそのものだ。独創的なFFであることに加え、そのデザインは驚きでもあった。東京モーターショー前に発表されたのは2ドア/4ドアセダンとバンだったのだが、富士山をかたどったようだとも評された独特なリヤピラーを持つのが特徴。またそのピラーに呼応して、セダンでもテールエンドはセミファストバックのようななだらかさを持っていた。そのために小さくなるトランクリッドを補うように、トランクフードはバンパーレベルまで開く、今日的なスタイルを持った。

前後フェンダーをそれぞれ支えるキャラクターラインは、コンパクトなボディに力感を表現。フロントはベビーフェイスながらも、少し睨みを効かせたキュートさを持っている。

にわかには信じられないかもしれないが、このリヤピラーなどをはじめとした造形をうまく活かしたのが270Xのデザインの最大のポイントだ。

その翌年の1971年には、チェリーに新たなモデルが追加される予定も視野に入れたもの。それがクーペだったのだが、クーペとしては想像を絶するフォルムを持っていた。トランクを持たない、いってみればスポーツワゴンスタイル。リヤサイドにウインドウを持たないリヤクォーターはサイドパネルと呼ぶにふさわしく、リヤエンドにはルーフから続く大きな曲面グラスを持ったハッチゲートを採用。

1971年に驚異的なスタイルで登場したのが日産チェリーX-1クーペ。大きなリヤサイドピラーとハッチゲートが特徴。レースにも参戦しそのスポーツ性の高さをアピール。

リヤウインドウは当時の技術的な事情から大きな曲率は持てず、サイドのピラーの後端をつまみ上げることで狙ったサイドビューのフォルムを実現していた。

何よりも特徴となるのはこのリヤセクション。この形をみれば、270Xと世界観が共通することがわかるだろう。

現在では、まるでコンセプトカーのような市販車が登場するという傾向に向きつつあるが、この時代はまるで初期のスケッチがそのままコンセプトカーとして登場した時代でもあった。当然、270Xはチェリーのセールスに結びつけるための手段でもあったが、市販車を開発するにあたっても「制約にも囚われない理想的な形をまず考えてみる」というところからのデザイン開発も少なくなかったようだ。

そうした自由な開発からコンセプトを生み出し、実現可能な技術によってどれだけの製品が生みだせるかを検討する…という流れだ。

考えてみれば現状でも考え方に変わりはないが、これだけ破天荒に生み出してくれるのは、正直言って楽しい。この270Xも、真正面から実に真面目に、そしてこうありたいと思う未来に登場してほしいチェリーとして考えられていたことだろう。

そんな夢のある時代のコンセプトカーでもあったが、果たしてそれから50年を経過した今はどうなったか? 1970年から想像する未来とはちょっと違う、斜め上の光景が実現しているように思う。

いいとか、悪いとかいうことではなく、その後のちょっとしたいろいろな事象がどんどん未来を変えて行くのだな、と思ったりする。

X-1クーペのレース参戦モデル。こちらは1973年のジャパンGP参戦モデル。270Xとは方向性は異なるが、新たなフェーズとしてチェリーの存在をスポーツ性の高いモデルとしてその性能を証明した。
1973年にはX-1クーペをベースとしてオーバーフェンダー化したX-1Rを登場させた。FFという新しいレイアウトを迎え、その性能を若者にもしっかりと理解してもらえる商品展開を実現させた。
X1-Rのインパネ周り。4速MTながら、コンソールには電圧計、油圧計を装備。

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著者プロフィール

松永 大演 近影

松永 大演

他出版社の不採用票を手に、泣きながら三栄書房に駆け込む。重鎮だらけの「モーターファン」編集部で、ロ…