プジョー408のデザインの特徴に触れる前に、この造形が生み出された最大のポイントに触れてみよう。それはタイヤだ。プジョー308であれば225/45R17もしくは225/40R18となるが、408はDS4などと同様の205/55R19。本国では20インチまでもが設定されている。これが新しいプロポーションの始まりを意味している。外径がなんと1割程度も大きくなっているのだ。サイズにすると71mm程度大きくなっていることになり、これだけでサスペンションが同一でも、全高は35mm以上高くなっている。そうしてみると308の全高は1375mm、408は1500mmとなるのでその差は25mm。つまり408はタイヤを308程度のハイトのボディを用いながら大径化したのみで、SUVとしての施策は行なっていないことになる(だから4008とは名乗らなかったのだろうか?)。
さらに細かくいうならば、408の最低地上高は170mm、対する308は130mmと40mmの差となっている。カタログ表記に対して設計値の誤差を丸める関係はあるが、これは実質タイヤのハイト分の差と考えられる。つまりは308的な室内パッケージ(=足を投げ出すセダンスタイル)をそのまま用いることが前提となっている。
対する全幅は1850mmということで308と同一。しかしトレッドは前1600mm/後1605mmと308GTの前1550mm/後1545mmに対して大幅に拡大されている。これは大径になったタイヤの切れ角を確保し最小回転半径を小さく抑える狙いがあるようで、308の5.3mに対して408では5.6mに抑えている。ちなみに508は5.5mとなっており、ほぼ実用的な範囲にはあるのだといえるかもしれない(参考までに欧州車の最小回転半径は、バンパー toバンパーでの測定で、日本車の外側前輪の軌跡より0.2〜0.4m程度大きく表示される)。
では、「なぜここまでして細く大きなタイヤにしたのか?」ということだが、ひとつにはタイヤを細くすることによる空気抵抗の低減が考えられる。そして大径化した狙いは接地面積の確保にある。電動化ではただでさえ重くなる車重に対して、コーナーリング性能もそうだが特に制動性能の確保は大きな問題となっている。一般的に最近のクルマがタイヤを太くし、大径化することにはこうした狙いもあるのだ。しかし、むしろ細くすることはひとつプジョーの独自性あるいは、ステランティス内におけるプジョー、シトロエン、DSグループからの提案ともいえそうだ。
今回、408のデザインを紹介するにあたって、なぜここまでタイヤのことを細かく解説したのかといえば、おそらくは408にとってベースのEMP2プラットフォームに、ナローな超大径タイヤを組み合わせる……ということがマストで企画されたモデルだと思われるからだ。それはPHEVの設定とも無関係ではあるまい。超大径タイヤを装備した、ホイールベースが長くリヤオーバーハングの長い308。開発モデルの基本形はこんな感じ、それだけで伸びやかでスタイリッシュなフォルムが想像できるのではないだろうか。
408は猫科として、これまでのライオンのアイデンティティは継承しつつ、ワイドなトレッドの強調とともにできるだけファットではないボディの構成が印象的だ。軽さの表現は、ベースとなる豊かな造形をシャープに削ぎ落とすことで実現。単に軽く見せるのではなく、筋肉質な力強さを持ちつつ減量したような、アスレチックな表現を感じ取ることができる。
サイドビューについては、一連のプジョーはどれも似ていない、というのが通例ともいえる。プジョーファミリーの特徴的なフェイスを持ちながら、その流れを両サイドの牙で一旦切ることによって、フロントのファミリーデザインをサイドに流さなくても良いように仕立てているともいえる。そのため、サイドのデザインはそれぞれのモデルの個性の表現として利用できるのが、これもまたプジョーの特徴なのだと思う。
ここまでプジョー408という企画の根底にあるコンセプトとデザインの関連について書いてみた。次回は、そのプロポーションとディテールは、408としてどのように進化したのか。そして408は、どんなモデルになったのかについてご報告することにしよう。
TEXT:松永大演(MotorFan.jp編集部・カースタイリング担当)