新型センチュリー、中国ではモデル名『世紀』ではなく『世極』で発売確実。中国富裕層に受け入れられるか?

「新型センチュリー」として発表されたニューモデル。最高のショーファードリブンカーとして開発された新型センチュリーの価格は2500万円。一見するとSUV風に見えるが、そこには、トヨタの想いとセンチュリーならではの理由があった。この新型センチュリー、実は国内専用車ではなく世界に打って出るモデル。まずは中国。そこでは、おそらく「世極」の名前で登場するはずだ。新型センチュリー=丰田 世極は中国富裕層に受けるだろうか?
TEXT:加藤ヒロト(中国車研究家)

新型センチュリーにサブネームが付かない理由

新型トヨタ・センチュリー。サブネームは付かない。従来のセダンタイプは「センチュリー(セダンタイプ)」となる。

2023年9月6日、トヨタは約6年ぶりとなる新型「センチュリー」を発表した。重要なのが、これは「センチュリー SUV」でもなければ、「センチュリー クロス」でもない。あくまで、発表されたのは「新型」センチュリーであるということだ。

以前よりセンチュリーにSUVが追加されることはまことしやかに噂されていた。だが、発表の日に驚いたのはいっさい「SUV」というワードが登場しなかった点である。トヨタは新型センチュリーにサブネームをつけるのではなく、従来のセンチュリーに括弧付きで「セダンタイプ」と加えることを選んだのである。

ボディは確かに「SUV風」かもしれない。だが、それは従来モデルと比較するからそう見えるように感じるのだ。まずは「セダン」の定義とは何かと問いたい。「セダン」は元々、おしゃれな箱の形式を採った輿の「セダンチェア」に由来する。これを前後の人間が担ぐことで「一人乗り・二 “人力”」のモビリティが完成するわけだ。1900年代初頭、セダンチェアのようにクローズドなキャビンを持つ自動車が台頭し始め、これがセダン型自動車の始祖として考えられる。当時のセダンは直角におろされたリヤが特徴的で、これが1930年代に入ると流線型なファストバックへと変化していく。今で言うステーションワゴンやSUVのようなリヤは、当時のセダンの特徴であったわけだ。

従来のセンチュリー。もちろんフロントにエンジンを縦置きする後輪駆動車だ。新型センチュリーとはシャシーの共通性はない。

1940年代末期に入り、それまで長らくは2ドアクーペの特権であった「ノッチバック」を4ドアセダンも取り入れ始めた。厳密には1938年に登場したキャデラック シクスティ・スペシャルが世界初のノッチバックセダンのひとつと言われているが、世界は再び戦火に包まれる時代へと突入し、民間向けの乗用車は数年間途絶えることになる。乗用車生産は戦後再開されたが、各メーカーは戦前モデルの焼き増しをしばらく行なっていた。その状況から真っ先に脱却したフォードやシボレー、プリムスは1948年にノッチバックを採用した「新世代セダン」を1949年型として続々投入した。ゆえに、これらがノッチバックセダンの第一世代と言えるだろう。

新型センチュリーとは何者なのか?

新型センチュリーの後席は2名掛け(センチュリーセダンタイプは3名掛けで定員5名)

では、新型センチュリーとはいったい何者なのか。SUV風の外観にとらわれず、後部座席とトランクスペースを覗くとそのヒントが見えてくる。新型センチュリーは後部座席を左右独立型の2人掛けとした4人乗りだ。そしてヘッドレストの裏へ目をやると、実はガラスが存在しているのがわかる。これはリヤのトランクスペースとキャビンを区別するパーティションであり、これをもって新型センチュリーは実は3BOXと言えるのだ。このパーティション周りはホワイトボディの公式画像からも確認できるが、とてもセダン的な骨格をしているのが特徴的である。パーティションのおかげでボディ剛性に起因する乗り心地はもちろん、遮音性に優れたキャビンを実現した形となる。

いわゆるSUVのラゲッジスペースとは、構造からまったく違う。
TNGA GA-Kプラットフォームだが、もちろん従来のものから大幅に手が入っているのだろう。

また、トランクスペースは非常に限られており、荷物を満載できるという「スポーツ・ユーティリティ・ビークル」のイメージにはそぐわない。これらの理由から、新型センチュリーを「SUV」とするのは間違いだと私は思う。「センチュリーの理想系を追い求めた結果」がこのボディであるとトヨタは言うが、まさにその通りで、利便性を考えたら間違いなくこのトラディショナルな形状が最適解と言える。それでも従来の形状(先述のセダン史では新しい方の形状)が好きな消費者は、引き続き販売されるセンチュリーを買い求めれば良いという話だ。

エンジン横置きを採用した意味

パワートレーンはトヨタ クラウンやレクサス RXでお馴染み、2GR-FXS型3.5ℓ V型6気筒エンジンをベースとするプラグインハイブリッド(PHEV)になる。同じ気筒数・排気量で言えば5代目レクサスLSに搭載されている、より設計が新しいV35A-FTSが存在する。それをノンターボでデチューンすれば良いのではとも思うが、そこには新型センチュリーの採用するプラットフォームと設計思想が関わってくる。

新型センチュリーはトヨタ カムリやアバロン、ハイランダー、ハリアーでも採用されている「GA-K」プラットフォームをベースとしている。「GA-K」は基本的に横置きFFプラットフォームとなるので、縦置きFRであるレクサス LS(GA-Lプラットフォーム)のV35Aエンジンよりも、縦置き・横置き問わず採用されてきた2GRエンジンの方が最適というわけだろう。また、これは2017年に3代目センチュリーが5.0ℓ V型12気筒から5.0ℓ V型8気筒へと代わったことでも話題になったが、基本的にセンチュリーは「何があろうと決して故障してはいけない車」なのである。この理念は新型センチュリーでも同じで、まだ登場して日が浅いV35A-FTSエンジンや、例えばそれを新たにノンターボにするよりも、数多い採用車種で実績を積んだ2GRシリーズの方が最適であるという判断に至ったのだろう。

中国の富裕層は「世極」をどう受け止めるか?

また、同様に注目されているのが海外展開だ。これまでのセンチュリーは原則、日本市場専用であったが、新型センチュリーでは具体的な仕向地と台数は明かされていないものの、海外を見据えているという。ではいったい、どの市場が有力なのだろうか。

実は中国市場への導入がほぼ確定していることが中国政府機関への届出情報より判明している。中華人民共和国工業情報化部(通称:工信部)は日本で言うところの経済産業省や総務省にあたり、中国国内における自動車の型式認証や新エネルギー車の税制優遇を担当している。そして、それら届出情報は毎月ウェブサイトで公開されているのだが、2023年9月11日に公開された税制優遇の対象となる新エネルギー車のリストを見ると、「乗用PHEV」の項目に新型センチュリーが記載されているのがわかる。

届出企業はトヨタの中国法人、モデル名は「GRG75L-CNXGBC2」となっている。また、商標と車名は「世紀」ではなく「世極」になっているのが特筆すべき点だ。これはおそらく、すでにビュイックが中国限定で販売している高級ミニバン「GL8センチュリー」との混同を避けた結果だろう。しっかりと商標問題も考えられているあたり、中国導入はほぼ確実であると見て間違いない。

新型センチュリーは発表当日より中国でも大きな話題を呼んだが、どれも肯定的な意見ばかりではない。ハイランダーと同じプラットフォームである点や、V6エンジンがセンチュリーに見合っていないとする意見が多く見受けられ、どれも世間体を非常に気にする中国らしい発想だ。中国の消費者はエンジンの気筒数にうるさく、日産が新型エクストレイルを発売した際も、その搭載エンジンが3気筒であるというネガティブな印象が売り上げの低迷を招いたと言われている。とはいえ、ネット上で意見する大多数は購入を考えている消費者ではない。新型センチュリーに惚れ込む中国の富裕層は少なからずいるだろうし、公式サイトでは「追ってお知らせ」とされているビスポーク仕様も好まれそうな要素だ。実際、数多くの中国要人に愛されてきた高級車「紅旗」の最上級モデル「紅旗 L5」では顧客ひとりひとりの要望に合わせた、世界に一台だけの紅旗を作れるのが特徴だ。内装の素材から散りばめる宝石の数と種類まで、なんでも要望に応えるために紅旗 L5の上限価格は実質「無限」となっている。ビスポークに対する土壌が形成されている中国で、新型センチュリーが実際にどのように受け入れられるか、注目だ。(中国車研究家 加藤ヒロト

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