デリカミニの意外な悪路走破性に驚く デリカD:5、アウトランダーPHEVのオフロード性能を試した

想像以上の走破性を披露した三菱デリカミニ
三菱自動車のオフロードコースは北海道・十勝研究所内にある。多彩で過酷なコース設定は、オフロード走行初心者をたじろがせる。が、ここを三菱のAWD技術を載せたクルマたちは軽々と走破するのだ。軽自動車のデリカミニも例外ではなかった。ヨンクの三菱の名前は伊達ではない。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:小林直樹(KOBAYASHI Naoki)

悪路・悪天候・長距離走行をものともしない信頼感

三菱自動車の四輪駆動車をオフロードで試乗した。舞台はTOKACHI Adventure Trail(十勝アドベンチャートレイル、以下TAT)だ。TATは三菱自動車・十勝研究所(北海道・音更町)内にあるオフロードコースで、2022年9月にリニューアルした。大小のうねりやキャンバー(車両が横に傾く)、ロック(岩場)、モーグル(うねりが左右交互につづく)など難所ぞろい。ダカール坂と名づけられた急坂も存在する。

その過酷なステージでインストラクター(開発技術者たちだ)の指示のもと走らせたのは、アウトランダーPHEV、デリカD:5、トライトン、デリカミニの4台だ。2024年初頭に国内に導入予定の新型トライトンは別レポートにまとめているので、ここではアウトランダーPHEV、デリカD:5、デリカミニの3台の四輪駆動車(4WD)について印象をお伝えしていこう。

三菱自動車は「三菱自動車らしさ」とは何かを自問した。その結果、それは「環境×安全・安心・快適」をキーワードに、「技術に裏づけられた信頼感により、『冒険心』を呼び覚ます心豊かなモビリティライフ」を提供することだと定義づけた。

センターに立つのは加藤隆雄三菱自動車社長(左)と増岡浩さん

冒険心を呼び覚ます心豊かなモビリティライプを実現する技術は、電動化技術、耐久信頼性技術、四輪制御技術(S-AWC)、快適性技術の4つだ。三菱自動車らしい安全・安心・快適を掘り下げてみると、「予防&衝突安全技術に加え、どんな路面・天候でも自信を持って走れる技術により、安心と快適を提供できる」という説明になる。安全についてはしっかり取り組んだうえで「意のままに走れる」ことが重要だし、それが三菱自動車らしさにつながるということだ。ドライバーが意のままに運転できると、運転ミスが少なくなり、安全・安心・快適につながる。

4つのキー技術のひとつである四輪制御技術(S-AWC)は4つのタイヤをうまく使うための技術だ。4つのタイヤが発揮できる能力は、加速や減速、旋回などの走行状況に応じて変動する。その4輪の制駆動力を自在に制御して車両運動性能の向上を狙うのが、車両運動統合制御システムを意味するS-AWC(Super All Wheel Control)だ。S-AWCを構成するサブシステムは、前後輪間のトルク配分を行なう4WDと、左右輪間のトルク移動(トルクベクタリング)、または、ブレーキ制御によるアクティブヨーコントロールシステム(AYC)、そしてABSおよびASC(ESC)による4輪ブレーキ制御だ。

このS-AWCにより、悪路・悪天候・長距離走行をものともしない信頼感が得られ、意のままに操れるから乗る人みんなが安心・快適に過ごせるようになる。アウトランダーPHEV、デリカD:5、デリカミニの3台はいずれも4WDだが、それを実現する技術は異なるし、S-AWCを構成するサブシステムの内容も異なる(S-AWCの条件を満たしているのはアウトランダーPHEVのみ)。

アウトランダーPHEV ツインモーターによるS-AWC

アウトランダーPHEV G もちろん、ツインモーター4WDで、S-AWCである。

アウトランダーPHEVは、フロントとリヤに高出力のモーターを搭載するツインモーター4WDだ。リヤ(100kW)モーターの出力をフロント(85kW)より大きくすることによって、走破性、直進安定性、操縦性を向上する制御が実現できている。急加速ほど、急旋回ほど後輪の駆動力を高めるのが理論的には理想に近く、理想の走りを実現するのに、リヤモーター出力をフロントよりも大きく設定したのだ。

前後輪間のトルク配分はツインモーター4WDで行なう。左右輪間のトルク移動はブレーキAYC(コーナー内側のフロントブレーキに弱くブレーキをかけてヨーモーメント=自転運動を発生させる)。さらに、ABSとASCを統合制御するS-AWCを搭載している。

デリカD:5 電子制御カップリングによるAWD

デリカ D:5 G(7人乗り)
ダカール坂を駆け上るデリカD:5

デリカD:5はフロントに横置き搭載するエンジンで前輪をダイレクトに駆動し、リヤデフ前に搭載する電子制御カップリングユニットの制御によって後輪にトルクを配分する仕組み。ABS&ASCの4輪ブレーキ制御は適用しているが、左右輪間トルク移動は備えておらずS-AWCの条件は満たしていない。その代わり、トラクションコントロール(TCL)にオフロード走破性を向上させるチューニングを施している。

デリカミニ ビスカスカップリングAWD

デリカミニ T Premium ボディカラーはアッシュグリーンメタリック×ブラックマイカ

デリカミニの4WDは、エンジンで前輪をダイレクトに駆動。軽量コンパクトなビスカスカップリングによって後輪にトルクを伝達する。デリカD:5の電子制御カップリングユニットがアクティブな制御なのに対し、ビスカスカップリング式はパッシブで、基本的には前輪がスリップすると後輪にトルクが伝達される仕組みだ。ただ、デリカミニは定常走行時でも前輪>後輪となるようにわずかな差回転を設けることにより、後輪にテンションをかけ、オフロード走破性を高めた状態にしている。

こだわりは他にもあり、TCLだ。先代トライトンで適用したロジック一部採用することで、悪路走破性を高めている。通常、TCLは深雪などでスタックした状況では、アクセルペダルを大きく踏み込んだ状態でもエンジントルクを弱める方向で制御する。デリカミニに適用した制御では、こうした状況でエンジントルクの抑制を控え目にし、深雪などの滑りやすい路面での脱出性を高めている。デリカミニもデリカD:4と同様、左右輪間トルク移動は適用していないので、分類上はS-AWCではなくAWCだ(4輪のタイヤが持つ能力をバランス良く発揮させるコンセプトに変わりはない)。

TATでアウトランダーPHEV、デリカD:5、トライトン、デリカミニの順に走らせた。先に記したようにトライトンの詳細については別レポートを参照していただくとして、トライトンは無敵。アウトランダーPHEVは前後モーターの緻密な制御によって難所をクリアするハイテクSUVのイメージである。

デリカD:5はステアリングホイールから伝わる反力や身のこなしからヤワなイメージを感じるが(多人数乗車のミニバンであることを考えれば、快適性重視なのは当然)、悪路を澄まし顔でクリアしてしまう。強そうな顔をしているものの本質はミニバンであることを考えれば、この頼もしさは何?と驚愕を禁じ得ない。

デリカミニはさすがにダカール坂を駆け上がるほどのパワーを持ち合わせてはいないが、それ以外の難所は難なくクリアする。デリカミニでTATを走破できてしまうのなら、これで充分なのでは?と感じさせるほど、高い実力の持ち主だ。モーグルを脱出した後、次の難所に向けたダートでのダッシュ力などは、パワーユニットの出力を含めて高機能な他車に叶わないが、悪路での安心感に不足はない。安心して走れるのとそうでないのとでは、心理面で大きな違いを生む。

うねりやモーグルでは車体の下回りと路面が接触する場面があった。ガリッという金属質な音は心臓に良くない。デリカミニも例外ではなかったが、大径タイヤ(165/60R15)を装着する4WDは2WDに比べて実質的に地上高が10mm高い。わずかな数値の違いが大きく当たるか、擦るだけで済むかの差になる。車高の違いによる恩恵を実感するオフロード体験だった。

アウトランダーPHEV、デリカD:5、トライトン、デリカミニ、適用する技術は同一ではないが、悪路を不安なく走破する性能を備えていることに変わりはない。「どんな道でも走れる」安心感がクルマへの信頼と愛着を高めることにつながっているのを、オフロード走行を体験することで強く実感した。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…