最近元気な三菱 デリカD:5、デリカミニ、eKクロスEV……トライトンも! 好調の理由を加藤隆雄社長に訊いた「次はパジェロ復活?」

三菱が元気だ。国内販売は半期ベースで2021年上半期以来、3基連続前年比増。2020年にエクリプスクロスPHEV、21年にアウトランダーPHEV、23年にeKクロスEV、そして今年デリカミニ、来年初頭にはトライトンと話題の新型モデルを続けてリリースしてきている。元気な三菱の中心には、2019年にCEOに就任した加藤隆雄社長がいる。北海道・十勝研究所内の十勝アドヴェンチャートレイルで開催された報道向け試乗会場で加藤社長に訊いた。
TEXT:鈴木慎一(SUZUKI Shin-ichi)PHOTO:小林直樹(KOBAYASHI Naoki)

”三菱自動車らしさ”とは?

三菱自動車らしさ、についてプレゼンする加藤社長

──先ほどプレゼンで三菱らしさというお話しをされました。加藤さんが社長になられてからだいぶ三菱自動車らしさを出せてきているという実感がありますか?
加藤社長:今出してきているクルマを見ていただいても、わかると思います。いろいろな人から『三菱、元気になってきたね』と言われます。デリカミニもそういうことをちょっと意識して開発しているんですけどね。「最初は格好だけかと思ったんだけど、脚周りしっかりしているじゃないか」とか、そういうご意見も結構出てきているので、やろうとしていることが少しずつカタチになってきているのかなというのは感じますね。

──デリカミニの場合は、商品企画の段階で、『格好だけでいいじゃないか』『足(サスペンション)もやろうか』っていうのは、開発側から加藤社長に提案があったのですか?
加藤社長:どっちかというと、最初は僕のほうから(笑)。元々はeKスペースのマイナーチェンジで、普通にいつもの流れでマイナーチェンジ、っていう流れだったんですよ。予算もそうだったんだけれど、『う~ん、なんかそれでは面白くないな。もっと予算を増やしてさ、もうちょっと違ったものを出さないとダメなんじゃない?』と。我々の軽自動車を見たときに、eKワゴンとeKクロスワゴンとeKスペースとeKクロススペースがあって、『お客さん、これわかる?』『わかんないよね?』と(笑)。そういう事情もあったし、私が先ほど言った通り、社長になったときに『同じようなクルマを出していたら、お客さまはよその会社のクルマを買われる』という気持ちがあったものですから。『ちょっとでも特色のあるものにしようよ』というので、デザインしてもらったら結構いいものができてきて。『でも、これ、開発費が結構かかりましたよ』って言われましたけど、『でもまぁいいんじゃないの、別に』って(笑)。

加藤隆雄 三菱自動車代表執行役社長兼最高経営責任者 加藤さんは1984年に三菱自動車入社、名古屋製作所工作部エキスパート、ロシア組立事業推進室上級エキスパートなどを歴任したのち、2015年にPT Mitsubishi Motors Krama Yudha Indonesia取締役社長、2019年三菱自動車CEOに就任、2021年から現職。

──では、かなりちゃんと意志が入っているんですね」
加藤社長:そうですね。営業に『何台売るつもりなの?』って聞いたら『いやぁ、月販1000~1500台くらいですかね』って言うから『バァカモン!』と(笑)。とか言いながらですね、まぁワイワイやりながら。販売にこぎつけた感じですけど。でも結果的に、多くのお客さまに喜んでいただいて良かったなと思います。

──では社内の雰囲気もだいぶ変わってきているんですね?
加藤社長:そうですね。社内もありますけど、やっぱり国内の販売会社さんもだいぶ変わってきています。

 ASEANで強い三菱 アライアンスでの役割は?

──日産、ルノーとのアライアンスがあって、そのなかで役割分担をしますという話もありました。三菱は4WDとPHEV、そしてASEAN担当というふうに、一時期は担当分けみたいな感じになっていて、どうなっちゃうのかなと思っていたんですけど。担当分けは今でもあると思うのですが?
加藤社長:う~ん、今はそんなに強くあるわけじゃないですよね。ご存じのように日産さんとルノーさんも関係を見直すという話もありますから。

──そういう意味では日産さんとの付き合い方がうまくなってきた?
加藤社長:そうですね、これから協業をドンドン積極的に考えていかないと、自動車業界ってなかなか難しいと思うんですよね。みなさんも本当によくご存じだと思いますけど、電動化はどんどん進む。CAFEだとかそういう規制も、国によってもちょっとずつ違うし、導入時期もちょっとずつ違う。それから地域によってお客様の嗜好も違うでしょう?そのうえに、サイバーセキュリティの法規や衝突関係の法規も出てきて、それもヨーロッパとオーストラリアじゃここが違うなとか、いっぱいいろいろなものが出てきてますよね。そうすると一社で全部の地域に対してそれぞれ最適なクルマを出すっていうのが難しくなってきているんです。

──うなると、やはり“選択と集中”ということになる?
加藤社長:地域だとかクルマによっては『お宅のクルマ使わせていただきますよ』だとか『そこはうまく協同でやりましょう』だとか、そういうふうになってきますよね。ましてやBEVで重要になるバッテリーみたいなものはね、やっぱり数をこなさないとコスト面でも厳しい。そうなるとそういう環境になってきていますよね。

──では仲間づくりみたいなところも出てくる?
加藤社長:それは出てくるんじゃないですか。

──三菱にとっては、ASEANというこれからどんどんクルマが売れていく市場を持っているというのは強いですよね?
加藤社長:そこはひとつ強みではあるんです。その一方で、これも皆さんご存じのように、中国や韓国のメーカーがどんどん出てきてます。我々は『ASEANは我々の市場でがんばります』ということは言ってきました。たしかに人口だとか国の年齢構成だとか、そういうものを考えていくと、ASEANというのは今後絶対に成長しますよね。そこにみんなが気づきだしてというか、あるいは気づいていながら意識していなかったのか、どんどん世界中の会社がASEANに注目するようになってきているので、今は我々の得意市場と言えるんですけど、ウカウカしていられないなと、そういう気持ちですよね」

──ASEANにおける三菱自動車のポジションというかイメージというのは、どのようなものなのでしょうか?
加藤社長:これは国によって若干違うんですよね。同じASEANと言っても、例えばフィリピンなんかだと、過去に国として難しいことがあったんだけれども、そういうときに残った自動車メーカーは三菱自動車だけなんですよ。だからそういう意味では『三菱自動車は本当に長年フィリピンと一緒にやってきてくれているよね』というのもある。それからインドネシアなんかではトラックです。そういうベースにあって、エクスパンダーみたいな格好いいヒット車が出たので『あっ、あの三菱から結構カッコイイのが出たよね』となります。だから一気に広まったっていう感じですよね。それと、パジェロスポーツもかなりいいイメージがあります。もちろん、トライトンもね。そういうのがフィリピンでのイメージです。タイはピックアップ市場なので、三菱だけじゃなくて、いすゞさんも強いですよね。1トンピックアップといったら、トヨタかいすゞだっていうところがあるので。

8月にインドネシアで発表されたコンパクトクロスオーバー、エクスフォース

──先日発表したエクスフォースも売れそうですよね」
加藤社長:あれもイケそうな感じですね。
──ああいったカッコイイ系にだんだんシフトしていく?
加藤社長:ASEANは、フューチャリスティックというか、未来っぽいクルマが受けるというところがあるので、少しああいうスタイルのクルマにしました。おかげさまで結構評判は良くて、イケるんじゃないかと思っています。

次はパジェロ復活?

パジェロ復活が期待されるところだ。

──デリカミニも売れている。デリカの名前とデザインがあってのことだと思うんですけど。すでにいろいろなところで聞かれていると思うのですが『デリカがデリカミニまでいったんだから、もう一個、大事な名前が残ってるじゃん』という話が、社内や三菱ファンの方たちも思っていると思うのですが?」
加藤社長:それは何だ?なぞなぞみたいだ(笑)。『さーてそれはなんでしょう?』みたいな(笑)
──オフロードと言えばアレ、みたいな(笑)
加藤社長:まぁ、いろいろと考えなくてはとは思ってます。さっきも三菱自動車らしいという話をして、手応えどうですかという話もあったんですが、やっとそういうものがカタチになってきたな、というふうには思うんですけど、まだ道半ばっていうかね。そういう状態だと思っていますの。まだまだやることはいっぱいあるぞ、と。そのなかでラインアップも全部キチンと整理できて、みなさんが考えておられるようなクルマも、ひょっとしたら出てですね(笑)、形がどんどん整っていけば、より一層、三菱ブランドというものが強くできるんじゃないかと思っています。

ジャパンモビリティショーには、「これから出るクルマの面影がハッキリわかる」クルマを出展します

三菱エクスパンダー

──すべてのお客さんがそう思っているかはわかりませんが、三菱はASEANで強い、新型車もどんどん投入している、では日本のお客さん、我々はどうしたらいいのかな、って思っている人もいると思います。
加藤社長:そうですよね。それもあったんでね、デリカミニもお金をかけて完全にテイストを変えましたし、元々日本で出す予定はなかったトライトンも日本に出そうと計画を変えました。たしかにこの数年間、ASEAN優先に新車を出していますけど、じつは私のなかではASEANと日本が優先なんですよね。だから日本にも、今からクルマを出していきます。

──ただ順番なだけ?
加藤社長:そうです。だから私が社長になってからのこの数年、エクリプスクロスのPHEV、が出て、アウトランダーのPHEVが出て、eKクロスEVが出て、デリカミニを出しました。4年連続でずっと繋がってきているんです。だから、いい流れでこられているので、この先もこの流れを途切れさせないようにしたいと思っています。さすがに毎年、話題性のあるクルマを出せるかというと、そこまではなかなか難しいかもしれませんが、来年2024年にトライトンが出ますし、今日もロードマップを見せたように、いくつかクルマを考えています。決してASEANだけということはありません。

──電動化という話では、このままBEVになるのか、その間にPHEVがきちんと挟まっていくのか、よく見えていません。三菱自動車としては、PHEVにすごく強みがあります……。
加藤社長:我々としてはPHEVも出していくことになるんだろうなと。BEV一辺倒ではいかないかな、と。それは、ASEANだとか、我々が強いマーケットの事情を考えると、BEVが一気に広がる感じではないよね、と。ヨーロッパはBEV(の普及)が早いんですけど、もう少し遅いマーケットも当然あります。我々はそういう市場もたくさん持っているので、そうするとBEVだけじゃなくて、今度エクスパンダーのハイブリッドも出しますけど、HEV、PHEVを組み合わせながらやっていくことになるんじゃないかと考えています。

──そうなると、ディーゼルとガソリンのエンジンもキチンと継続していく?
加藤社長:そうですね。新しいトライトンの4N16型ディーゼルも新しく開発したので、これも活用できるところでは活用していくことになります。ディーゼルがこの先ずーっと何年もっていうと、それもちょっとなかなか難しいね、というところもあるかもしませんが。さっきも言ったように我々は、全種別のパワートレーンでやっていこうと思っています。

──ピックアップトラックがPHEVになるのは随分先になるんですかね?
加藤社長:ある程度先になるだろうとは思っています。ただ、将来的にはいろんなクルマがBEVになってくる可能性があるので、我々もいろんなことを考えないとダメだなと思っています。

──来月、ジャパンモビリティショーがあって、三菱自動車も出展します。三菱ファンの人たちは何を期待してJMSへ行ったらいいですか?
加藤社長:今日言ったような、そういう流れのクルマじゃないですかね(笑)。
──ではこの先に登場してきそうなクルマの面影が見られますか?
加藤社長:なんとなく面影が(笑)……ハッキリわかるようなものが(爆笑)」
──ハッキリわかるんだ(笑)
加藤社長:面影がハッキリわかるようなものが出ます(笑)。
──それは楽しみですね。モーターショーの楽しみって、そういうところ、大事ですよね。
加藤社長:そうですね(笑)

──ところで、加藤さんはここ(TAT)ではよく走っていらっしゃるのですか?
加藤社長:ちょくちょく来ますね。コロナ禍の最中は来られないときもありましたけど、社長になってからは、今日で6回目じゃないかな。

──では、出しているクルマはすべてここで乗っている?
加藤社長:うん、全部十勝で乗ってますね。

──エンジニアにフィードバックするんですか?
加藤社長:いや、そんなフィードバックするほどのアレはないので(笑)。でも乗って確かめてはいますね。
──こういうところで鍛えてちゃんと走るクルマを作ろうとすると、しっかり作らないといけないから、コストもかかりますよね」
加藤社長:コストもかかりますが、多少お金がかかっても、いい加減なものを出すよりは、しっかりしたものを出したほうがいいですから。本物というかね。
──一方で、韓国や中国の自動車メーカーがASEANへ攻めてきていて、安いクルマが入ってくる、そこと競合しなければいけない、でも本物を作らなければいけない、というところがすごく大変だと思いますが……。
加藤社長:そうですね、最近ASEANに中国のクルマが入ってきて、僕も向こうで見るようにしているんですけど、やっぱりいいクルマになってきていますよね。決して安かろう悪かろうではない。デザイナーにしてもヨーロッパのデザイナーを使っているのが当たり前ですから、そういう面でも新しいし、いいクルマですよね。だから、油断しているとすぐ足元すくわれちゃうなと思っているので、我々もしっかりしたクルマを作らなければいけないなと思っています。

チーム三菱ラリーアートの新型トライトンがアジアクロスカントリーラリー2023で総合3位入賞


──そういうときに、先日のラリーレイドみたいなモータースポーツがあると、ブランド力に繋がってくるんですか?
加藤社長:ただ、それをどこまで活用できるかっていうのは、もっと考えていかなくちゃいけない。意外とラリーアートもフィリピンなんかでウケが良くて。ラリーアート復活って最初アクセサリーパーツを作って出したら、フィリピンなんかは話題になってお客さんが注目してくれているんですけど。タイなんかではあんまりものすごく響いたっていう感じでもないので、もうひと工夫ふた工夫していかないとダメだなと思っています。

──ラリーアートは日本でもオートサロンで用品の発売をされました。ステッカーがよく売れたっていう話も聞きました。待っている方がたくさんいます。
加藤社長:あれも結構いろんな議論があって、社内でも『機能部品がないとウチの国じゃダメだ!』とか『機能部品って言ったってこの程度じゃダメだ!』とか『いやいや、ウチはこのアクセサリーだけでも欲しいんだ』とかいろんな議論があって、喧々諤々やっていますね。基本はラリーアートなんで、ラリー活動もしないのにラリーアートってどうなんだっていうのはあるんで(笑)、AXCRもしっかりやりながら、慌てて一気にドーンと出すんじゃなくて、ラリー活動と合わせて、そんなクイックにはできないんだけど、あれもまた育てていきたいと思っていますね。

レジェンド増岡浩さんと加藤社長

──三菱には、かつてのパリダカやWRCの栄光のイメージもまだあります。
加藤社長:うちにもレジェンド増岡がいますから。増岡の目が黒いうちに(笑)、いろんなことをやらなくちゃなと思っています(笑)」
──ありがとうございました。

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著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…