【あの頃のカーオーディオ回顧録】カセットテープは青春時代の欠かせぬアイテムだったはず!

いまやレトロなアイテムとして、しばしば紹介されるカセットテープ。筆者がまだナウなヤングだった40〜50年前は、クルマの中で音楽を楽しむためのマストアイテムだった。あの頃の思い出とともに、ひとりのクルマ&オーディオ好きの視点で懐かしのカセットテープの魅力を振り返ってみよう。

PHOTO&REPORT:島崎七生人(Naoto Shimazaki)

クルマで音楽を楽しむためのマストアイテム

カセットテープだけでも様々な種類もの商品が発売されていた。華やかな時代だ。

日本の某有名ギタリストが、自身のライブのMCで「昔、好きな音楽をカセットに入れて、聴いているだけでも幸せなんだけれど、天気が晴れていて、海が見えるところをドライブするのが1番幸せでした」と話すのを聞いたことがある。その言葉が本当なら、超一流のプロのミュージシャンでも、飾らない、意外にも普通なそういう感覚を持つものなんだぁ……と感心したことがある。

巷では昭和がブームになって久しいが、昔の懐かしいものを特集したTV番組などがあると、取り上げられる牛乳瓶のフタや白黒TVほど古くはないののの、しばしば紹介されるのが“カセットテープ”だ。かれこれ40〜50年前、筆者がまだナウなヤングだった(!)頃、クルマの中で音楽を楽しむ手段といえばもっぱらカセットテープだった。というより、無類の音楽好きの筆者(ただし聴くほうが専門だが)にとって“カセット”は、なくてはならないものだった。

オーディオの前に陣取り、レコードからカセットテープに録音

ただし無類のSONYファンでもあった筆者だが、意外にも実はカセットテープ時代の画期的な発明品だったあのウォークマンの初号機(TPS-L2・1979年7月発売)は買わなかった。というのもその当時は学生の分際ながらとにかくクルマを乗り回していることのほうが多く、カーステレオ付きの自分のクルマがいわば“ウォークマン代わり”だったため(とはいえほどなく社会人となり電車通勤を始めたのと前後して、1981年発売の2号機、ウォークマンII以降はユーザーになり、新機種が出ればその都度、飛びついていた)。

とはいえ今にして思えば、カセットテープにはずいぶん手間ひまをかけたと思う。クルマの中で楽しむために聴くためには1本や2本で済むはずもなく、筆者の場合は常に50本、100本とクルマに載せて持ち歩いた。それを専用のケースに入れ、なおかつケースを並べた時の見栄えを考え可能な限りパッケージが同じ同一メーカーのテープ(筆者の場合はSONY)で揃え、その背の部分にインレタでアーティスト名やアルバムタイトルを入れた。

見栄えと整理しやすいよう、アーティスト名やアルバムタイトルの表記にこだわりがあった。

聴くためのカセットテープ自体は自宅でアナログレコードがら落として作った。今のデジタル音源はPCがあればアイコンを捕まえてササッとファイルを作ればネットからでも手に入り、プレイリストの自作も簡単。けれどアナログ時代はそうはいかず、アルバム1枚分のカセットを作るとしたら、そのアルバムの時間分、オーディオの前に陣取り、A面が終わったらテープをひっくり返してB面の録音を続行。さらにそのテープ(アルバム1枚分用に発売された46分テープがあった)に入りきるかどうか、カセットデッキの窓からハラハラしながらテープの残量を目視で確認したり、そもそも録音レベルがキチンとしているか手動で調整したり……と、やることはたくさんあった。一応、筆者は学生の頃からオーディオは趣味で、ハイエンドといわず中級クラスであったが“コンポ”と呼ばれるオーディオ一式は揃えていた(80年頃、半額にしてもらいアルバイト代で買ったJBLのスピーカーは今でも愛用している)ので、ラジカセのレベルではない人並みの音質で聴けるようにはしており、カセットテープも当時のSONYのラインアップでいうとクロームテープやDuad(高価だったが柔らかい音質が好きだった)などを選んだ。

レコードからの録音は、A面が終わったらテープをひっくり返してB面の録音とやることが多い。

標準の“カーステレオ”では飽き足らず上級機に交換

そしてクルマの標準の“カーステレオ”の音質に飽き足らず、オーディオ本体、スピーカーにも凝り始めて自分で交換した。写真のひとつはその時のもので(今も後生大事にもっている)アルパインがコンポに進出した最初のワンボディ機、SK−800とSONYのもともとは輸入車用だった1DIN機は、どちらも気に入って使っていたものだ。

上はアルパインのSK−800、下はSONYのXR-61

さらに自分の好みの曲を集めて作ったオリジナル……いわばベストコレクションのカセットテープもたくさん作った。内輪の話だが当媒体のS編集長とはほぼ同年代でどうやら指向、行動様式に重なる部分が多いようで、いつだったか話をする機会があり、筆者が「僕はAOR(=アダルト・オリエント・ロック)が大好物なんです」と告白すると「そうそう、僕もです!」とニコニコしてくださり嬉しく思ったことがある。AORとはボズ・スキャッグス、ボビー・コールドウェルなどを代表格とした心地いい系の都会派(笑)ソフトロックの総称だが、80年代の甘々な空気感の中、学生の身分でノホホンと過ごしていた筆者は、そんな自分で作ったカセットテープを聴きながらクルマを走らせていたのだった。

アルパイン SK−800

もちろん今どきなら、iPodひとつを持ち歩けばこと足りるし、iTunes(今は“ミュージック”)の中でチョコチョコッといじれば、リスト内の曲順の入れ替えは自在だし、新しいプレイリストもサッと作れる。アナログ時代のようにテープまるごと最初から作り直し……といった手間も今は無用だ。(筆者は疎いのだが)ストリーミングなどを活用すれば、いつでもどこでも聴きたい音楽を好きな時、好きな場所で楽しめる。

SONY XR-61

が、型番は忘れたがデンオンのダイレクトドライブレコードプレーヤーのターンテーブルに載せたアナログレコードの上にデンオンDL103の針を落とし、カセットデッキのポーズボタンを解除し、録音スタート。あるいはカセットテープ同士のダビング(そのためにカセットデッキは常に2台持ちだった)で、秋の海沿いのドライブ用にオリジナルの○○○特集風のテープを作ったり……。これ以上はプライベートに関わるので、どこで誰とドライブしたかまでの記述は控えるとして、筆者のような世代の人にとってカセットテープは、若かりし頃、青春時代の(!)欠かせぬアイテムだったはずだ。

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著者プロフィール

島崎 七生人 近影

島崎 七生人

東京都生まれ。大学卒業後、編集制作会社を経てフリーランスに。試乗記であれば眉間にシワを寄せずに、イ…