レクサスRC F 5.0L・V8自然吸気の魅力は何物にも代えがたい 機械式時計のように造り続けてほしい

レクサスRC F Performance package

時代は電動化一辺倒だ。輸入車のハイパフォーマンスモデルも、BEV(電気自動車)が増えてきた。「大排気量・自然吸気・マルチシリンダー・後輪駆動」というワードは、どれをとっても絶滅寸前である。レクサスRC Fは、そのすべてを備えた絶滅危惧種中の絶滅危惧種。だが、この味わいは断然素晴らしいのだ。レクサスRC F Performance packageを味わった。

TEXT & PHOTO:瀨在仁志(SEZAI Hitoshi)

国産最大・最強のNA・V8エンジン

エンジン形式:V型8気筒DOHC型式:2UR-GSE種類:V型8気筒DOHC排気量:4968ccボア×ストローク:94.0×89.5mm圧縮比:最高出力:481ps(354kW)/7100rpm最大トルク:535Nm/4800rpm燃料供給:DI+PFI(D-4S)

10月に入ってレクサスからトップアスリートモデルのRC Fに特別仕様車『Enthusiast』と『Emotional・Touring』の2モデルが10月5日から各25台、限定販売されるといいうニュースが入った。ベースとなったのはカーボンパーツやチタンマフラーなどの採用によって70kgの軽量化を施した『Performance・package』で、各限定モデルではさらにエンジンとデファレンシャルギヤを熟練の技術者が高精度に組み上げて走りの質を極めたいう。

そのベースモデルとなった『Performance package』にあらためて乗ってみた。

レクサスRC Fの一番のポイントは何と言っても国産最大で最強の自然吸気エンジンにある。日産のGT-Rやスカイライン400R、ホンダのNSXなどでさえ、過給器やモーターアシストによって、大パワー化を可能にしていたのに、2035年に全車電動化宣言を行なっているレクサスだけがメカニカルな作り込みだけで、5.0L・V8自然吸気481ps/535Nmの大パワー&大トルクを実現させていたのだから恐れ入る。

その走りは、やはりほかのモデルでは味わえない魅力がある。軽く踏み込んだ程度ではズシリとくるトルク感と重厚サウンドで大排気量車独特の重みをもって滑り出す程度だが、踏み増すほどに重層的な力強さを見せてくる。多気筒ユニットのシリンダーひとつひとつが緻密に燃焼し、排気量の大きさ分だけしっかりと力を発揮する。隙間なく密度の高い力強さが滑らかで重層的な加速感を生みだしているのだ。

しかも、4000rpmを超えるあたりからは緻密さがより凝縮されると同時に、加速感はパワーカーブの傾斜を大きく立てて鋭さを加える。重厚さに切れ味が加わったことで、ターボなどでは味わえない、伸びの良さとパンチ力を見せてくれる。

組み合わされる8ATは変速時のショックが少ないにもかかわらず、タコメーターの針は小気味良く上下し、加速感に谷間を持たない。Dレンジで加速していっても、7200rpmのリミットまで瞬時に吹け上がったかと思うと、直後には回転がストンと落ちて、しっかりとパワーピークをキャッチ。同じ力強さが間断なく続くのだ。とても国産最大の排気量とは思えない軽さと、正確さが生み出す淀みないパワーフィールは、昨今のハイパワー輸入車BEVでは絶対に味わえない官能的なものだ。

シャシーの進化と軽量化が生み出す走り

ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク(対向6ポッド)Rベンチレーテッドディスク(対向4ポッド)
締結方式がナットからボルトタイプに変更された。

その力強さを遠慮なく引き出せたのはシャシーの進化だ。本来であればフロントに大きなV8ユニットを積んでいるがゆえの重さが感じられるはずなのに、このモデルではまったくと言っていいほどそれを意識させない。操作に対して遅れがないのはもちろん、ちょっと速い動きをさせてみてもボディ全体がピタリとついてくる。ボンネットやルーフをカーボン仕様としたことによる軽量化の効果や、重心高が下がっていることもあるだろうが、入力に対しての反応精度が高くて正確なのが大きい。

パワーをフルにかけていったときのハンドリング性能もリヤ駆動でありながら、パワーコントロールに神経をすり減らす必要がない。ローギヤー化されたファイナルレシオと、8ATの組み合わせは、常にパワーバンドのど真ん中をキープし続けてくれて、駆動力を常に感じ取りながら旋回に集中できる。フロントの接地感もわずかに切り増す程度で旋回力を維持し、そのときの手応え感も落ち着いている。

RC Fはスポーツカーとしての機能を徹底追求した。後席は2名用。乗車定員は4名。

直進時のステアリングフィールからしてもセンター付近での安定感が増していることで、旋回初期の操作も迷いなく行なえる。各部の精度の高さに感心するが、調べてみるとレクサスISでその効果を高く実感したホイール締結方式の変更を、RC系でも22年12月のマイナーチェンジで実施。締結方式がナットからボルトタイプに変更された。パフォーマンスパッケージングにはラゲッジルームと室内との隔壁部分にカーボン製のパーテーションブレースを採用するなど、ボディの一体感や操作系の精度向上の裏付けは各部に見ることができる。

CFRP製の固定式リヤウィング。大型翼断面でダウンフォースと空気抵抗低減を高次元で両立する。

結果、限定モデルの『Emotional・Touring』ではスポイラー格納式を採用するなど、手に入れたい仕様もあるが、抽選に漏れてしまったとしても、そのベースモデル(つまり、今回の試乗車)のポテンシャルは充分以上に高い。エンジンフィールもリヤデフの効果も今回乗った印象では個人的には満足できたので、こちらの選択肢も残しておくことをお勧めしたい。

国産最大にして最強の自然吸気エンジンを積むレクサスRC Fは、純ガソリンエンジンの名誉にかけて、いまだにシャシーの進化とともに存在感を最大限に発揮。高級時計が繊細な機械部品によって多くのファンを魅了しデジタル化を押しとどめているように、このV8ユニットがBEV化への最後の砦。消えていく存在であることは重々承知しているが、なくなったときの喪失感は計り知れないはず。電動化宣言は理解するも、あらためて残してほしい貴重なモデルであることも実感し、ぜひとも代替燃料を使うV8・5.0Lの道も残してほしいものである。

全長×全幅×全高:4710mm×1845mm×1390mmホイールベース:2730mm 車重:1720kg
レクサスRC F Performance package
全長×全幅×全高:4710mm×1845mm×1390mm
ホイールベース:2730mm
車重:1720kg
サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式 Rマルチリンク式 
駆動方式:後輪駆動
ステアリングギヤ形式:ラック&ピニオン式
ブレーキ:FRベンチレーテッドディスク
室内長×室内幅×室内高:1835mm×1520mm×1120mm
エンジン
エンジン形式:V型8気筒DOHC
型式:2UR-GSE
排気量:4968cc
ボア×ストローク:94.0×89.5mm
圧縮比:
最高出力:481ps(354kW)/7100rpm
最大トルク:535Nm/4800rpm
燃料供給:DI+PFI(D-4S)
燃料:プレミアム
燃料タンク:66ℓ
燃費:WLTCモード燃費:8.5km /L
 市街地モード5.3km/L
 郊外モード9.0km/L
 高速道路モード11.0km/L 
車両本体価格:1455万円
オプション価格 24万3100円(マークレビンソンプレミアムサラウンドサウンドシステム)

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著者プロフィール

瀨在 仁志 近影

瀨在 仁志

子どものころからモータースポーツをこよなく愛し、学生時代にはカート、その後国内外のラリーやレースに…