水素で焼いたピザは激ウマだった! 次代のカーボンニュートラル燃料は水素で決まり!【ジャパンモビリティショー2023】

2023年10月25日(木)に開幕し、11月5日(日)までの会期で開催中の『ジャパンモビリティショー2023』。『東京モーターショー』から転じて、クルマやバイクに留まらない様々な“モビリティ”や、それにまつわる多彩な展示が特徴となっている。その中から、カーボンニュートラル燃料の有用性を示す気になる企画があった。
PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)/MotorFan.jp

水素を燃料とした内燃機関の研究は意外と古くから行われていた。しかし、1937年のツェッペリン飛行船「ヒンデンブルグ号」爆発事故の故事もあり、危険な水素ガスの貯蔵方法や利用はなかなか進まなかった。
しかし、地球温暖化が進む中で二酸化炭素を排出しないカーボンユートラル燃料として、水素の活用と研究が加速してきている。当初は燃料電池であったが、ここにきて水素エンジンも存在感を示している。ル・マン24時間耐久レースでも水素エンジン車の参戦が認められ、トヨタが2024年出走に向けて水素エンジンのマシンを発表したことも記憶に新しい。

Japan Mobility Show Motorsport Area

4輪に2輪、レースにラリー、化石燃料に水素……東京ビッグサイトにあるゆるジャンルの競技車両が集結中!【ジャパンモビリティショー2023】

ジャパンモビリティショー(旧:東京モーターショー)は10月28日から一般公開が始まる。イベン…

そう!水素はよく燃えるのだ! そこには内燃機関以外にも様々な用途が考えられる。そんな展示を『ジャパンモビリティショー2023』で見つけることができた。

水素を燃やすピザ窯「Hydrogen Pizza Oven」

トヨタがガス機器大手のリンナイと水素調理に関する共同開発を開始したのが2022年10月。その成果が『ジャパンモビリティショー』で発表された。
今回、トヨタとリンナイは水素が「こんなこともできる」「身近なエネルギーである」ということを食を通じてアピールするべく、水素石窯「Hydrogen Pizza Oven」を会場に持ち込んだ。その外観はピザ石窯そのものだが、調理に水素を使うのが最大の特徴だ。

水素石窯「Hydrogen Pizza Oven」での調理の様子は、ガスや薪を使う石窯となんら変わるところはない。

水素を使うことで調理時に二酸化炭素を排出しないだけでなく、ガスと違いガス臭が食材に付いたりすることがなく食材本来の風味を味わうことができる。また、窯内部は約450度と高温で火の通りも早く食材の旨みを閉じ込めふっくらジューシーに焼き上がる。さらに、燃焼時には水蒸気を発生するためスチームオーブンと同様に水分を閉じ込めてパサつきにくいのも特徴だ。

「Hydrogen Pizza Oven」で焼いたピザ。生地の外側はパリっと、中はモチっとした食感で見事に焼き上げられており、とても美味しかった。水素で焼くとこの食感が冷めても長持ちするという。残念ながら、焼いた側からなくなっていくので、冷めたピザは未体験ではあったのだが。

使用した水素石窯は18cm程度のピザを同時に5枚焼ける容量があり、調理時間も生地の厚さにもよるが3分〜5分程度で焼き上がる。そのため、次々とピザが焼き上がり来場者に振舞われていた。
ピザに加え焼き野菜も供されたのだが、こちらもほっくりしながら瑞々しさも感じられる絶妙の水加減。プロシェフの手によるものとはいえ、水素石窯の力を感じられた。

提供されたピザと焼き野菜。どちらも美味。

安全対策を施し水素を調理をより身近に

水素が非常に燃えやすく爆発の危険性もある燃料だ。しかもガスと違い無臭なため、水素漏れを起こしてわかりにくい。そこで、リンナイが燃焼部の開発するのに併せて、トヨタが安全制御パートの開発を担当。水素検知器による常時監視に加え、立ち消え安全装置、加熱防止機能などの安全対策が講じられている。

水素石窯の後に設置された安全制御システム。技術展示的な意味合いで外から見えるような形で設置されている。

ガスや薪と違い二酸化炭素、一酸化炭素を発生せず、煙突から水蒸気が排出されるのみ。その水蒸気も出口が窯から多少距離をとっていたこともあってか、温かい程度で火傷するような温度ではなかった。手をかざすとほんのり湿り気を感じさせたのが印象的だった。

水素の生成も再生可能エネルギーを使用

この水素石窯に使用する水素は、水を電気分解して生成したもの。その電気分解に使う電力は、山梨で太陽光発電によって作られており、電気、水、水素といずれも再生可能かつカーボンニュートラルなエネルギーとなっているのが特徴だ。

水素石窯に水素を供給するタンク。

山梨県は水素エネルギー社会の実現に向けて様々な取り組みを実施しており、再生可能エネルギーによる水素生成もそのひとつ。水素タンクに書かれている「H2-YES」も、水素燃料活用のためのエネルギー需要転換・利用技術開発を推進するコンソーシアム「やまなし・ハイドロジェン・エネルギー・ソサエティ」のこと。

水素エネルギーの活用方法と生成方法

今回は水素石窯による調理が水素エネルギーの利用方法として紹介されたわけだが、その利用法はまだまだ考えられるだろう。安全性が日常レベルで担保されるのが前提ではあるが、燃焼による熱を暖房に利用すれば、二酸化炭素・一酸化炭素中毒の心配もなく、ガスや石油臭くもならず、水蒸気も発生するので同時に加湿もできるから、良いことずくめに感じられる。

もちろん内燃機関も、これまでのエンジンのノウハウが活用できることを考えれば、バッテリー式電気自動車(BEV)よりも現実味があるようにも思える。この場合、結局ネックになるのはインフラ整備なのは同じだが、少なくともBEVの充電時間より水素充填時間の方が速いのではないだろうか。

ル・マンも水素で! TOYOTA GAZOO Racing、ル・マン24時間レース会場で「GR H2 Racing Concept」を公開

トヨタは、水素エンジン車両のコンセプトカー、GR H2 Racing Conceptをル・マ…

とはいえ、水素を生成する電気分解には結局電力を使うことになる。その電力自体を再生可能エネルギーで賄えるようになるのかが今後の鍵になってくるだろう。
一朝一夕に切り替えることは難しいが、将来のカーボンニュートラル燃料のひとつとして水素は有力な選択肢であると言えるだろう。

クロワッサンも食べたい

取材をした10月26日(金)はピザと焼き野菜が供されたものの、多くの来場者が予想される10月27日以降は調理オペレーションの関係からピザではなくクロワッサンが提供されるという。
クロワッサンの外はパリっと、中はモッチリという食感には、おそらくこの水素石窯での調理は最適だろう。ぜひご賞味あれ。

キーワードで検索する

著者プロフィール

MotorFan編集部 近影

MotorFan編集部