トヨタ チーフサイエンティストが語る日本自動車メーカーの優位性とは?グローバル×モビリティの未来【ジャパンモビリティショー2023】

現在開催中の「ジャパンモビリティショー2023(旧:東京モーターショー)」では、「ジャパン フューチャー セッション」と題して、各界のトップランナー達が集い語らうトークセッションが開催される。今回は「グローバル×モビリティの未来」をテーマに日本自動車メーカーとグローバル市場との関係性が語られた。

ギル・プラット博士の考える“Mobility of Mind(心のモビリティ)”とは?

11月2日にジャパンモビリティショー2023の会場で開催された「ジャパン フューチャー セッション」は「グローバル×モビリティの未来」をテーマに、「Mobility of the Mind 〜 未来を切り開くモビリティのチカラ」と題して、3名のトップランナー達が興味深いトークを繰り広げた。

ステージには、トヨタ自動車チーフサイエンティストのギル・プラット博士、オートモーティブニュース アジアエディターのハンス・グライメル氏、オートモーティブニュース エグゼクティブエディターのジェイミー・バッターズ氏(リモートでの出演)が登壇した。

ステージ左から、ハンス・グライメル氏、ギル・プラット博士、ジェイミー・バッターズ氏(リモートでの出演)

トークセッションが始まると、ギル・プラット博士は今回のテーマである“Mobility of the Mind (心のモビリティ)”について語り始めた。
「まず、いかに他者とのつながりや共感、愛が日本の自動車産業にとって最大の競争優位性になりえるのか。について話を進めましょう。

日本の自動車会社は、顧客とメーカーの間の心の距離を空間的、時間的に縮めることができる独自の立ち位置にいると確信しています。

現在では、クルマは単に移動したり物を運ぶ物理的な道具だという認識を改めないといけません。クルマは「愛車」と呼ばれますが、冷蔵庫などの電化製品はそう呼びません。それはなぜでしょうか?

クルマは、もともと人に備わっている能力を増幅させることができる道具です。ドライバーの操作に反応して能力を増幅させるから「愛車」なのだと思っていました。しかし、そうではなく、顧客と自動車メーカーを繋げている存在なので「愛車」と呼ぶのだと考えはじめました。

それはどうゆことかというと、クルマは、メーカーの自動車にこめた開発コンセプト・デザイン、性能などを顧客に届け、ユーザーもそれに共感し「愛車」と感じてくれます。そして、自分の周りに愛車の話をして、メーカーの想いを伝えていってくれるんです。ユーザーも自分と同じメーカーのクルマに乗っている人にシンパシーを感じます。メーカーが顧客を愛せば、ユーザーはそれを感じ取ってメーカーを愛すという相互作用が生まれます」

トヨタのEVスポーツカー「FT-Se」は思わず“愛車”と呼びたくなるスタイリング

日本に根付いた「相手を思いやる心」の文化

今回のトークショーに登壇した3名

具体的にはどのような部分が共感の優位性につながるのだろうか?とのハンス・グライメル氏の問に対して、ギル・プラット博士は、
「欧米人は自分のことを伝えるときに多くの言葉を喋って伝えます。でも、日本人はそれほど多くの言葉を使うことはありません。日本の文化はハイコンテクスト文化と呼ばれ、文脈を大切にする文化です。言葉が少ない分を想像力を働かせて共感をもって補完する文化なのです。日本の自動車メーカーはそのメリットを活かすことができます。

これからのモビリティは自動車以外の産業と関わりが強くなっていくでしょう。そのときにも共感の力は大切になります。

世界は多様性で溢れています。住む場所の地域や環境、状況も様々です。そのような多様な部分に共感して、メーカーの押し付けではなく、その人に合った最適な答えを提案することが大切です。

我々トヨタは、それを「マルチパスウェイ(全方位)」と呼んででいます。地域ごとに顧客の状況を考えて移動のサポートをする手段、BEVだけでなく、ハイブリッド、PHEV、FCVなど最適な選択肢を提供することが大切だと考えます。顧客の要望をリスペクトして謙虚に応えていくことが大切です。そして、同時に気候変動に対しての負荷を減らすことも目的としています」

完璧でなくても、今できる方法で環境負荷を減らすことが大切

移動カフェ向け架装のプロトタイプ「ランガコンセプト」など多様なニーズに想定したクルマが人気を集めた。

日本はBEVのカテゴリーで出遅れているのでは。と思いますがいかがでしょうか?とジェイミー・バッターズ氏が質問をすると、ギル・プラット博士はこう答えた。

「世界の自動車業界がBEVに向けて変化していっているのは確かです。ただ、その変化は急速にではなく、まだ時間が掛かります。

確かに、日本の自動車業界はBEVの分野で出遅れているかもしれません。しかし、多様性ということも考えないといけません。つまり、多様な状況のユーザーが存在しているということです。それぞれのユーザーが自分に最適な商品を購入できるということが大切です。そのためには手頃な価格である必要があります。
そして、すべてのユーザーが自分のできる範囲で気候変動への負荷(CO2の排出量)を減らすことができないといけません。

BEVだけでなく、ハイブリッド、PHEV、FCVなど複数のな選択肢を用意することで、多様なユーザーの状況に貢献できるのだと確信しています。

このようなマルチパスの選択肢を用意することで、内燃機関からの乗り換えを検討している多様なユーザーに対して、直ちにCO2の排出量を減らす手助けをすることができます。

ジャパンモビリティショーは、自動車業界だけでなく他の産業も巻き込んでモビリティの未来を考えていく、非常に重要なイベントになっていると思います」と締めくくった。

「メタバース×モビリティの未来」は明るい!? ホンダ三部敏宏社長がトークショーで語ったモビリティの新しい価値とは?

現在開催中の「ジャパンモビリティショー2023(旧:東京モーターショー)」では、西展示棟1Fのステージで「ジャパン フューチャー セッション」と題して、さまざまなトークセッションが開催される。各界のトップランナー達が集い語られた「メタバース・リアルを行き来する時代。モノづくりに与える影響とは?」について。

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