限定30台! これぞ究極のS14シルビア! 270馬力のメーカーチューンモデル『NISMO 270R』の新車ワンオーナー車を拝見

『NISMO 270R』はニスモ10周年を記念して製作販売された僅か限定30台の超稀少モデルだ。
『オーテックオーナーズグループ(AOG)湘南里帰りミーティング2023』が大磯ロングビーチで今年も開催され、参加台数337台の大盛況。オーテックジャパンが手がけた車両に乗るオーナーが年に一度、集まるミーティングで筆者が大好きで憧れていた1980年代、1990年代の超稀少な車両をご紹介する。
REPORT&PHOTO:出来利弘(DEKI Toshihiro)

参加台数377台! 『オーテックオーナーズグループ湘南里帰りミーティング2023』は今年も大盛況!! 日本未発売モデルの展示もアリ?

コロナ禍や台風の影響で中止はあれど、2023年で15回目(プレイベントを含めると16回目)の開催となった『オーテックオーナーズグループ湘南里帰りミーティング』。今年も多数の参加者が愛車と共に会場となった大磯ロングビーチの駐車場に集まった。

『NISMO 270R』とは?

1994年、NISMO(ニスモ)創立10周年記念車として、日産シルビア(S14)をベースにニスモ初のコンプリートカーとして30台限定で販売したモデルでこの車両の最高出力270PSであることから、『NISMO 270R』と名付けられた。

270PSの高出力を発揮するためフロントバンパーは冷却用ダクトが多数空いており、中央部はカルソニック製専用大型インタークーラーへと風を導く。

当時は改造に対する規制が厳しく、エンジンやサスペンションに手を加えて改造し、新車でナンバー登録するのは容易なことではなかった。多数の改造申請書類と検査を通過して販売されたこの車両は、軽量なFRシャシーに当時は自主規制とされた280PSに迫る270PSのハイパワーで加速時にはタイヤの限界を超え、後輪が路面を掻きむしる様な荒々しさからまるで野獣を手なずけるようにドライバーがマシンをコントロールする楽しみがあった。

ボンネット上には最高出力270PSを象徴するように大胆な大型エアアウトレットを備える。外観上で『NISMO 270R』の大きな特徴となっている。

『NISMO 270R』は専用ニスモパーツを各部に採用。フロントバンパースポイラー、大型サイドステップ、大型ウイングタイプのリヤスポイラー 、リヤアンダースポイラー、大径マフラー、『270R』の大きなロゴが目を引くシルバーストライブが鮮烈だ。

日産ワークスのレーシングマシンを彷彿とさせる『NISMO 270R』のサイドデカール&ストライプはニスモ初のコンプリーカーの証だ。
大型で翼端版を備えたウイング形状のリヤスポイラー、『270R』のロゴステッカー、金属製『NISMO』エンブレムが光るリヤビューが抜き去ったクルマに『NISMO 270R』であることを印象づける。

エンジンはタービンこそノーマルのままだが、NISMO専用カムシャフトや270R専用コンピューターチューニングなどが施されている。大型ボンネットアウトレット、ラジエター前面にはカルソニック製大型インタークーラーを装着する。

NISMOオリジナルカムシャフト、交流量OPTインジェクターと専用燃料ポンプを備え、270R専用コンピューターで制御される。インテークパイプ、ストラットタワーバーなど全て、『NISMO 270R』新車時のオリジナル。
『NISMO 270R』のエンジンは専用チューニングが施されたSR20DET。2.0L直列4気筒DOHCインタークーラーターボで、最高出力270PS/6000rpm、最大トルク34.5kgm/4800rpmのスペックを誇る。(ノーマルは最高出力220PS/6000rpm、最大トルク28.0kgm/4800rpm)

サスペンションはフロント5段、リヤ4段の減衰力調整式ダンパーを採用し、車高は約10mmローダウン。走りのステージに合わせて調整可能だった。
加えて機械式LSD、強化ドライブシャフト、専用アルミホイールを装着。ニスモパーツの他、スカイラインGT-R(R32)のフロント4pot/リヤ2potのアルミ製対向ブレーキキャリパーキットが流用装着されるなど、ニスモのレーシングテクノロジーが惜しみなく投入され、エンジン内部や冷却系、駆動系まで手が入れられていた。

排気効率を高めたNISMOマフラーは90mmギリギリの車高を確保。LSDは機械式を採用するなど徹底した本格的なスポーツ志向のモデルだった。

購入から新車ワンオーナー! その魅力は30年を経ても色褪せることなし

この美しい『NISMO 270R』はオーナーの金澤さんが1994年に購入して以来、ワンオーナーで3万km走行、屋内保管されてきた大変貴重な車両だ。「格好いいデザインと徹底されたチューニングスペック、ニスモ初の記念すべきコンプリートモデルであるということで、これは買うしかない!と思いました。しかしあの当時で車両価格450万円、乗り出し500万円くらいでしたので、購入を決断するには度胸がいりましたね。でも本当に買ってよかったです。乗るたびに楽しく、幸せになれるクルマです。今回、このミーティングがイベント初参加ですが、これからも機会があれば参加してみたい。」と語ってくれた。もしかすると、どこかでこの『NISMO 270R』を見ることができるかもしれない。

大径マフラー、大型フルエアロ、そして『NISMO 270R』の大胆なロゴと相まってスライリッシュなリヤビューだ。車高は約10mmローダウンされている。

最後に車検証を見せていただいたが型式は『E-S14改』、車両重量1240kg=フロント690kg/リヤ550kgだった。軽量で重量配分に優れた素晴らしいスペックだ。これに270PSなら、加速時はノーマルのR32 GT-Rを上回る迫力だろう。

『NISMO 270R』の諸元表。エンジン内部、シャシー、駆動系など多岐に渡ってニスモのレーシングテクノロジーが注がれ、トータルチューンの行われたことがノーマルとの対比で確認できる。
稀少な『NISMO 270R』のカタログを拝見させていただいた。複数枚あり、上質な紙と詳細スペック、美しい写真からニスモのこのクルマに掛ける情熱が伝わってくる。
エンジンだけではなく、サスペンション、駆動系、冷却系まで手を抜かず、ニスモのレーシングテクノロジーが注がれていることがわかるカタログの1枚。
カタログには当時のニッサン・モータースポーツ・インターナショナル代表取締役社長・安達二郎氏からオーナーへのメッセージも。メーカーとオーナーの理想的な関係がここにある。

1994年から、30年近く経った今、手作り工程を含む『NISMO 270R』から、『作り手の情熱』がひしひしと伝わってくる。自動化、デジタル化、EV化、そして大量生産による効率化、どれも便利で効率良いものばかりだが、アナログな内燃機関のマニュアル車には自分でクルマを操る楽しみがある。この魅力はいつの時代も普遍的だ。ユーザーが少数であっても必ずファンがいる魅力的な車をニスモとオーテックジャパンのように少量生産の高い技術力によってこれからの時代にもこういったクルマが生まれて来て欲しい。

『NISMO 270R』購入後、オーナーはニスモ主催の富士スピードウェイ走行会へと招待された。走行事前交換用にレーシングオイルとレーシングプラグが自宅に送られて来て、更に現地では『270R』のロゴが入ったオリジナルのヘルメットがプレゼントされた。
『NISMO 270R』とオーナーの金澤さん。1994年に新車購入を決断し、納車されて以来、29年という歳月を共に過ごして来た。

『NISMO 270R』はニスモスタッフの愛に溢れた素敵なクルマだった。筆者はこのクルマを間近で見て、オーナーのお話を聞いて、本当に幸せな気持ちになった。

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著者プロフィール

出来利弘 近影

出来利弘

1969年千葉県出身だが、5歳から19歳まで大阪府で育つ。現在は神奈川県横浜市在住。自動車雑誌出版社でアル…