2024年春に発売が予定されているホンダWR-Vは、ホンダのSUVのラインアップでは、上の価格帯から順にZR-V、ヴェゼルに次ぐポジションを受け持つ。エントリーSUVの位置づけだ。200万円台前半からの価格帯が予定されている。エクステリアは見てのとおりで、力強さが目を引く。デザインのポイントを株式会社本田技術研究所デザインセンターの中村啓介氏に聞いた。
エクステリアデザインのコンセプトを簡潔にまとめると次のようになる。
・ひと目でわかるぶ厚いボディによる安心感
・スクエアなロングノーズによる堂々とした風格
・高い重心と水平基調を強調したリヤデザインによる力強い佇まい
ぶ厚く長いノーズを採用したと聞いて気になるのは運転席からの視界だ。長いボンネットが邪魔をして視界の邪魔になるのではないか……。
「高い位置に上げたベルトラインの延長線上にぶ厚いノーズがあります。正直にデザインすると確かに見切りが悪くなる。ボンネットの中央が凹んでいるのがわかると思います。これは視界を確保するためです。なおかつ、運転席に座っていただくとノーズの両端が目に入るため、ボンネットがどこまであるか見えるようになっています。こうしたデザインにより、取り回しの良さと分厚い外観を両立しています」
サイドビューでは、キャラクターラインを多用せず、面の張り出し具合で塊感を表現しようとしているように見える。
「表面に付いているものを取り去り、最後に残るプロポーションを大切にしました。いくら立派な服を着せても、体幹がしっかりしていなければカッコ良く見えません。WR-Vでは、タイヤをしっかり包み込む筋肉質なフェンダーで有機的な張りを持たせています。また、ボディ中央は硬い無垢のかたまりから面をそぎ落として作った結果生まれるエッジを意識しました」
SUVといえばホイールハウスの縁を巡らせるクラッディングと呼ぶ樹脂パーツがお決まりだ。WR-Vではこのクラッディングにもこだわりがある。
「最低地上高は195mmとっています。その寸法を外観面で正しく理解していただくため、前後のバンパーは切り上げた処理としました。クラッディングは、その上にある塗装されたボディを4方向からしっかり噛み込んで押さえるイメージです。上級仕様のZ+はシャープシルバーの前後スキッドガードとドアロアーガーニッシュで、硬い構造体が四辺をしっかり守っている表現としています」
力強さ、たくましさを感じるデザインだが、狙ってそうしている。
「世の中のトレンドとしてSUV人気がどんどん出てきています。かつてのハッチバックやセダンの立ち位置がSUVに入れ替わる現象が世界中で起きています。そうした流れのなかで、乗用ライクで洗練されたSUVが増えています。WR-Vの場合は『気兼ねなく使ってほしい』という思いから、少し違うデザインが必要ではないかということで、スクエアでタフなデザインとしました」
つまり、ヴェゼルとは対極ということだ。インテリアは水平基調が基本。SUVの先輩であるヴェゼルやZR-Vと共通したコンセプトにのっとってデザインされている。視界に影響を与えるインストルメントパネルが水平基調で構成されているだけでなく、サイドビューも水平方向を意識したデザインになっている。サイドウインドウ下端のベルトラインとボンネットフードのラインが一直線につながっており、これがデザイン上の特徴になると同時にノイズレスな視界をドライバーに提供し、運転のしやすさにつながるというわけだ。
「近年のホンダ車の体験価値のひとつです。WR-Vではとくにボディ全体がぶ厚くなっており、ボンネットフードもぶ厚いままで両端が前に伸びています。運転席に座っていただいた景色でいうと、フードが見えないクルマが結構多かった。WR-Vを初めて運転されるお客様は、先進デバイスに頼らなくても、クルマの素の状態で運転のしやすさを感じていただけると思います」
担当デザイナー視点での、イチ押しのポイントを聞いた。
「最近、ここまで愚直に頑丈さを表現したクルマはないと思います。ストレートすぎるだろうと思われるかもしれませんが、先の見通せない不確かな時代にあって、確かなものを正しく表現することはものすごく大事なことだと考えています。エクステリアでは、言い訳せず、ストレートに頑丈さを表現したところがWR-Vのポイントです」
タフさを愚直に表現しているけれども、粗野にならずスマートにまとまっているのがWR-Vの美点である。