日産『プリメーラ・オーテックバージョン』は28万km走ってもオーナーを魅了し続ける! メーカーチューンドセダンは誠実な羊の皮を被った狼

『オーテック・オーナーズ・グループ(AOG)湘南里帰りミーティング2023』が大磯ロングビーチで今年も開催され、参加台数337台の大盛況! オーテックジャパンが手がけた車両に乗るオーナーが年に一度、集まるミーティングで筆者が大好きで憧れていた1980年代、1990年代の超稀少な車両をご紹介する。
筆者は名車、日産プリメーラ 2.0Te(P10)を中古車購入し、約1年経過したところだ。フロントマルチリンクによってFFとは思えないハンドリングと走りの優秀さ、SR20DEエンジンの完成度の高さに改めて感動した。そんな中、会場には今や超稀少車となり、中古車市場で全くと言って良いほど見かけない憧れの『プリメーラ・オーテックバージョン』が4台も参加していた。その中でも今回はオールペイントされたばかりの車両を見せていただきながら、オーナーにこのクルマの魅力と成り立ちについて聞いた。
REPORT&PHOTO:出来利弘(DEKI Toshihiro)

参加台数377台! 『オーテックオーナーズグループ湘南里帰りミーティング2023』は今年も大盛況!! 日本未発売モデルの展示もアリ?

コロナ禍や台風の影響で中止はあれど、2023年で15回目(プレイベントを含めると16回目)の…

P10型・初代プリメーラとは?

プリメーラ 2.0Te(1990)。1990年にデビューした日産のCセグメントセダン。スタイリングから走りまで“ヨーロッパテイスト”を強く打ち出した、当時の日本市場においては異色のモデルであった。

初代プリメーラ(P10)開発主管の津田晴久氏がこだわったFF車初のフロントマルチリンクサスペンション、チーフデザイナーの前澤義雄氏が数多くの制約の中で生み出した美しいスタイリング、優れたパッケージングによって日本の街中でちょうど良い5ナンバーサイズ、それに見合った2.0L直列4気筒DOHCの素直な自然吸気エンジン、空気抵抗が少なく、十分な広さを持つ4ドアセダンパッケージング、フラットライドなドライビングフィールなど気がついてみれば唯一無二の存在となっている。

プリメーラ 2.0Te(1990)。初代モデルであるP10型は1990年から1995年まで生産・販売。各方面から高く評価され、ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得するほか、第11回1990-1991日本カー・オブ・ザ・イヤーでも2位に入る(受賞車はディアマンテ)。

毎日乗ってこれほど「しっくりくる」クルマは珍しい。「きびきびとした走りで乗って楽しい!」と「デザインがいい!何年経っても飽きのこないスタイル」「これに変わるクルマはない」とオーナー達は語る。

エンジンは2.0L直4DOHCのSR20DE(画像)をトップに、1.8L直4DOHCのSR18DE、SR18Di(前期のみ)を設定。
インテリアもヨーロッパテイストにまとめらた。5速MTと4速AT(写真)が設定され、4WDはATTESA(アテーサ)を採用。

オーテックチューンのカタログモデル「プリメーラ・オーテックバージョン」

『プリメーラ・オーテックバージョン』は日産にある純正パーツを流用しながら、アナログな内燃機関と駆動系のチューニングを施し、ボディやエクステリアまで手を加えられたメーカーチューンド。しかし決して違う個性を主張したのではなく、プリメーラの個性はそのままにオーテックジャパンらしく、より上質で高いレベルの走りを生み出したモデルだ。

プリメーラ・オーテックバージョン
トランスミッションは5速MTのみ、ボディカラーはスーパーブラックのみ。専用大型ダクトフロントグリル、専用ブレーキ冷却ダクト付きフロントスポイラーを装着する。エンジンは最高出力180PS(圧縮比11.5)、最大トルク19.6kgmまで強化され、タイヤは205/50R15を装着した。車両本体価格269万8000円。

通好みの痒いところに手が届くようなエンジン、サスペンション、内外装に良心的なチューニングが施されている。当時は改造に対する規制が厳しく、エンジンやサスペンションに手を加えて改造した車両を『新車でナンバー登録』するのは容易ではなかった。多数の改造申請書類を作成し、オーテックジャパンが1台、1台、持ち込み登録で検査を受けて登録、販売が行われたという。

プリメーラ・オーテックバージョンはJTCC(全日本ツーリングかー選手権)参戦を記念して生産されたモデル。限定生産ではなかったがモデル末期の発売だったこともあり、販売台数は非常に少ない。オーテックバージョンのカタログ。(PHOTO:オーテックジャパン)

ミッションは5速MTのみ。ボディカラーは#KH3スーパーブラック、内装色はオフブラック(G)というシンプルな設定。オーテックジャパンの持込み登録で別紙のカタログモデルとして存在し、約1年間生産された。当時の車両価格は269万8000円。ノーマル最上級グレード「2.0Te」の車両価格が246万3000円だったのでその差は僅か23万5000円だった。多岐に渡るチューニング内容からして、これはバーゲンプライスだと言えるだろう。

オーテックバージョンのカタログ。(PHOTO:オーテックジャパン)

このクルマが生まれた背景には日産のレース活動があった

1990年から全日本ツーリングカー選手権=グループAで圧倒的な速さと強さで連戦連勝を重ねた日産スカイラインGT-R(R32)は1993年までの4年間で29戦全てのレースで優勝してしまうほど無敵の強さを誇った。1990年代初頭、日産の技術力がどれほど抜きん出ていたかを証明するエピソードだ。

グループAで争われる全日本ツーリングカー選手権のディビジョン1は、あっという間にスカイラインGT-Rのワンメイク状態に。(PHOTO:日産自動車)

この時期、グループAに代わって注目を集めたのが新たなツーリング・カー・チャンピオンシップ「JTCC」だ。そこにすでに1991年からイギリス「BTCC」で活躍していたプリメーラ(P10)をベースに仕上げたられた。そのマシンに星野一義、長谷見昌弘と日産のトップドライバーを起用しレース参戦することが日産自動車から発表された。

JTCC仕様のプリメーラテストカー。当時、ヨーロッパでは先鋭化により参戦メーカーの減少したグループAから、多くのメーカーがラインナップする2.0L級4ドアセダンを使用する「クラス2・ニューツーリングカー」が盛り上がっていた。(PHOTO:日産自動車)
日本でもヨーロッパに倣い、JTCCがスタート。スカイラインGT-Rに変わり、すでにBTCCでの実績もあったことからプリメーラが日産の主戦マシンとして選ばれ、1994年から実戦に投入される。(PHOTO:日産自動車)

そして、1994年11月22日、JTCCエントリーを記念して、プリメーラ・オーテックバージョンが発売される。そのチューニング内容は日産自動車と深い関係にあるオーテックジャパンだからこそ可能となるツボを押さえたトータルバランスチューニングが施されていた。スカイラインの生みの親、櫻井眞一郎氏がオーテックジャパンに在籍していた最後のモデルとしても非常に価値あるクルマだ。

エンジン、足まわり、エアロ……トータルでファインチューニング

エンジンは2.0L直列4気筒DOHC16バルブのSR20DEを搭載。通常モデルのエンジンをベースに専用エキゾーストマニホールドとフロントチューブ、専用コントロールユニットを採用し、更に圧縮比を10.0から11.5にアップやバルブタイミングの変更などにより、最高出力180PS/6800rpm、最大トルク19.6kgm/5600rpmと自然吸気エンジンでありながら、ノーマルの150PSに対して30PSもパワーアップされていた。

エンジンは専用エキゾーストマニホールド&フロントチューブ、バルブタイミングの変更、圧縮比アップ、専用ECUなどのチューニングが施された自然吸気のSR20DE。2.0L直列4気筒DOHCで最高出力180PS/6800rpm、最大トルク19.6kgm/5600rpmを発生(ノーマルは最高出力150PS/6400rpm、最大トルク19.0kgm/4800rpm)。写真のエキマニはノンオリジナルだ。

パワーバンドが高回転域に移行した分、ギヤ比をクロスレシオ化して、ファイナルを4.375(ノーマルは4.176)と4WDの「T4」用を流用することで加速性能を向上させている。
車両重量1190kgと比較的軽量な車体に対しては十分スポーティな走りが可能でフロントビスカスLSDも標準装備されていた。タイヤもノーマルの195/60R14から205/50R15へと1インチアップされた。

フロントバンパースポイラーは「Te」のものとは形状が異なる。左右のフォグランプ下部にブレーキ冷却用のエアダクトが追加されているのが特徴的。

エクステリアは専用フロントグリルとブレーキ冷却ダクト付フロントスポーツスポイラーと大型リヤスポイラーが目を引く。
エアロタイナミクスとエンジンの性能向上を受け止めるスポーツチューンドサスペンションは決してハードすぎるものではなく、見た目から想像するよりもはるかに快適性は良好だ。フロントマルチリンクサスペンションの優秀なロードホールディング性もあって、しっかりと路面を捉えながらもハーシュネスを上手く吸収し、フラットライドを保つ走りだ。これなら長距離でも疲れない乗り心地と言えるだろう。

アルミホイールは6JJ×15インチサイズを採用。タイヤサイズは205/50R15とノーマルの195/60R14より1インチアップしてワイドになり、操縦安定性が向上した。

電動格納式ドアミラーやオートエアコン、オーディオ、リヤセンターアームレストなども標準装備。定員は5名のままでグランドツーリングカーとしての使い勝手も決して犠牲にしていない。しかし、その一方で後期モデルから採用されたトランクスルー機構を廃止して前期モデルと同等のボディ剛性を確保し、ABSは装備しないなど『走り』に対して硬派な一面を見せる。

レーシーな雰囲気を漂わせながらも電動格納式カラードドアミラーやオートエアコン、パワーステアリングなどは標準装備。日常の使い勝手を犠牲にすることなくメーカーチューンドを楽しめる。
アウタードアハンドルやバンパー上部、モール類などは梨地仕上げだが、この車両はオールペイントの際にボディ同色塗装を施し、質感を向上。

オーナーを魅了する快適かつ上質な走り

スポーツタイプシートは適度な硬さがあり、しっかりとした掛け心地が印象的。「Te」用と同じものだが、赤と青の差し色が入ったオーテックジャパン専用生地。

インテリアではスカイライン(R32)GT-RやタイプMに採用されていた握り心地が良い3本スポーツステアリング。シートは基本的に「Te」専用に開発された少し硬めのスポーツシートを流用している。どちらも当時の日産車において大変評価の高かったパーツだ。 

専用本革巻スポーツタイプステアリングは高評価だったR32と同じもの。ホーンボタンは櫻井眞一郎氏のイニシャルをモチーフとしたオーテックジャパンのオリジナルだ。

どちらも『オーテックバージョン』オリジナルのエンブレムや生地を使用し、きちんと差別化されている。ペダル配置は非常にヒール&トゥがしやすい。『プリメーラ・オーテックバージョン』は「いつまでもどこまでも走っていきたくなる!」とオーナー達が異口同音に語るように楽しく、快適かつ上質な走りはオーナー達の心を捉えて離さない。

3眼メーターはセンターに速度計、右に回転計を備える。すでに28万5000kmを走破したが、「このクルマに代わるものはない」とオールペイントされ、まだまだ走り続ける。

撮影させていただいたこのプリメーラ・オーテックバージョンは広島県から参加したニックネーム:おんどちりめんさんの車両。2022年は遂に念願のオールペイントを行い、エクステリアを美しくリフレッシュした。注目はオリジナルでは梨地になっているバンパー上部、ドアアウターハンドル、ドアミラーの根元などスムージングしてボディ同色塗装が施されている点。

ダクトが大型化された専用フロントグリルのデザインと大型リヤスポイラー がオーテックバージョンの大きな特徴だ。

この梨地部分はどんなに手入れをしても紫外線や汚れなどで白く、汚く見えてきてしまう車両が多いため、大事にしているプリメーラオーナーは常に悩まされている。この部分をボディカラーと同色の艶あり塗装を行なった車両は質感が向上しているが特に違和感なく、これがオリジナルと言われても信じてしまいそうなほど自然な仕上がりだ。むしろ「こっちの方が格好いい!」と思えるほど上質でスポーティに仕上がっていてとても好感が持てた。

プリメーラ 2.0Te
5速MTと4速ATの設定があり、ボディカラーも「スーパーブラック」の他に「ダークブルーパール」「ダークブルーパールメタリック」「ダークレッドパール」が選べた。「Te」専用エアロキットも備え、シートも専用となるトップグレードだ。最高出力150PS(圧縮比10.0)、最大トルク19.0kgm 、タイヤは195/60R14を装着する。車両本体価格246万3000円。(写真は筆者の愛車)

プリメーラ・オーテックバージョンは、発売された1994年から30年近く経った今も光輝いている。オーテックジャパンのアイデアと魂が込められた少量生産の車両に触れると日本の物作りの良さ、高い技術力に改めて感銘を受ける。こんな時代だからこそ、P10プリメーラのように『シンプルで誠実なクルマ』が生まれて来てほしいと本当に思った。そしてその際には是非『オーテックバージョン』の登場も期待したい。

オーテックバージョンと異なりLSDは装着されないが、ABS、運転席エアバックが備わる。リヤスポイラーは小型で、車両重量は1200kg。ギヤ比は1速3.063 / 2速1.826 / 3速1.207 / 4速0.926 / 5速0.756、ファイナルギヤ比:4.176となっている。(写真は筆者の愛車)

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著者プロフィール

出来利弘 近影

出来利弘

1969年千葉県出身だが、5歳から19歳まで大阪府で育つ。現在は神奈川県横浜市在住。自動車雑誌出版社でアル…