トヨタ、フォルクスワーゲンに次ぐ世界第3位の販売台数を誇るヒョンデは、2022年2月に日本での乗用車販売を再開した。再開するにあたってはゼロエミッションビークル(ZEV)のみのラインアップとしたのが特徴で、第1弾としてバッテリーEV(BEV)のアイオニック5と、燃料電池車(FCEV)のネッソを導入した。アイオニック5は日本カー・オブ・ザ・イヤーの『2022-2023 インポート・カー・オブ・ザ・イヤー』を受賞した。
ヒョンデが日本に導入するZEVの第2弾がBEVのコナである。ハワイ島の地名を由来に持つコナ(Kona)は、2017年に初代がデビュー。ヒョンデモビリティジャパン(以下ヒョンデ)の説明によれば、「グローバルで年間20万台以上を販売しているヒョンデの基幹車種のひとつ」で、BEV仕様はモデル途中で導入。2022年はコナ全体の4分の1をBEV仕様が占めたという。本国韓国ではもちろん、ヨーロッパやアメリカでも若い世代から支持を集めているという。
11月1日に日本で販売が開始されたコナは2代目がベース。グローバルではガソリン仕様やハイブリッド仕様の設定もあるが、前述したように、国内に導入されるのはBEV仕様のみだ。全長×全幅×全高は4355×1825×1590mmなので、コンパクトSUVのジャンルに分類していいだろう。ホイールベースは2660mmだ。
ヒョンデが調査したところ、アイオニック5に興味を示した人のうち、「大きくて持て余しそう」だからと購入を見送ったとする回答があったという。3000mmの長いホイールベースは居住性の面で大きなベネフィットをもたらすけれども(全長は4635mm)、取り回しについては確かに、持て余し気味に感じるケースがあるのは事実だ(実際、何度かの試乗時に経験した)。
その点、コナは心配なさそう。試乗時はときに対向車とのすれ違いに気を使うほどタイトな山道を上り下りしたが、SUVゆえにアイポイントが高いおかげもあって取り回しには苦労しなかった。ホテルや観光施設の駐車場内でも同様で、乗ってすぐ車両感覚をつかむことができ、扱いに慣れた。取り回しについては、世のコンパクトSUVと同等と捉えていい。
アイオニック5への難色はもう1点あって、個性的にすぎるデザインを敬遠する向きがあったそう。その点についても、コナはクリアしている。「ヘッドライトは一体どこ?」と言いたくなるような、充分に個性的なデザインだと思うのだが、全体のシルエットがオーソドックスなSUVスタイルだからだろうか、アイオニック5に比べれば万人受けするデザインになっている。
アイオニック5とも共通する仕掛けで、フロントバンパーやホイールなどに、ヒョンデのBEVに共通するピクセルグラフィックをあしらっているのがデザイン上のポイント。サイドに入るZ字のキャラクターラインも目を引き、前後のドアをまたぐ斜めのラインがよくもズレずにスパッと通っているなぁと感心するばかりである。走行時には、横一文字に発光するLEDシームレスホライゾンランプが目を引く。
インテリアは機能的、かつモダンだ。インパネセンター部はドライバー側に傾斜しており、スイッチ類の操作性を重視した設計。メータークラスターは、12.3インチの液晶ディスプレイが2面、シームレスにつながった形でレイアウトされている。センターのディスプレイはタッチ操作式だが、エアコンやオーディオ、シートヒーターにシートベンチレーションなどは物理スイッチで操作する。
タッチ操作と物理スイッチを適材適所で配しているのが、コナの特徴だ。輸入車ではあるが、ウインカーレバーはアイオニック5と同様に「右」。一見するとモダンで先進的なコックピットだが、初見でもまごつくことなく操作できる。
バッテリー容量の設定は2種類あり、48.6kWhと64.8kWhだ。メインは後者である。一充電走行距離は48.6kWh仕様が456km、64.8kWh仕様は541km(19インチタイヤ装着車)~625km(17インチタイヤ装着車)である。フロントに搭載して前輪を駆動するモーターの最高出力は、48.6kWh仕様が99kW、64.8kWhは150kW。最大トルクはどちらも255Nmだ。
試乗したのは64.8kWh仕様で、19インチタイヤを装着するLoungeだった。センターコンソールに4種類のドライブモードを切り換えるダイヤルスイッチがある。グローバルに設定されている機能だが、制御は日本仕様専用にチューニングされている。例えば、北米では瞬発力の強さが求められるので、発進時に少しアクセルペダルを踏み込むだけで、グッと背中を強く押さえつける加速が出る。
この制御をそのまま日本に持ってくると過敏だと捉えられてしまうので、ノーマルモードとエコモードでは、踏み始めは穏やか、かつスムーズな特性とし、踏み込み量に応じて力強く加速できるように仕立てた。対照的に、スポーツモードでは踏んだ瞬間からレスポンス良く加速感が得られる制御にしたという。また、スノーモードを仕立てるにあたっては、冬の北海道で走行を重ね、制御を煮詰めたそうだ。
ドライ路面での走行だったのでエコとノーマル、スポーツしか試していないが、ノーマルは自分の感覚にぴったりな制御だった。アクセルペダルの踏み込みに対して過敏に反応するでもなく、物足りなさを感じさせるでもなく、ちょうどいい。踏めば踏んだだけ、リニアに即応して力が出る。急勾配の山道ではスポーツモードを選択すると、一段とキビキビした走りになる。
アイオニック5と同様で、コナも回生ブレーキの強弱がステアリングホイール裏のパドルで細かく調節できる。これがいい。回生ブレーキの強さはレベル0(コースティング)からレベル3(強)まで4段階まで調節が可能。レベル3の状態でさらに左パドルを引くと、i-PEDALが作動し、アクセルペダルワンペダルでの加速/減速~停止が可能になる。
また、右パドルを1秒間長引きするとAUTOモードが作動。前方の交通の流れやナビゲーション地図情報などを利用し、回生制動量を自動調節してくれる。システム任せがいいのか、自分で細かく調節するのがいいのか、気分やシチュエーションに応じて使い分けられるのが便利だ。
最新のスマホと同じで、コナは機能満載だ。機能はてんこ盛りにしておき、使う人の好みやスタイルに合わせて対応できるようになっている。カメラで捉えた映像に矢印などを載せてガイドするARナビゲーションもそのひとつで、ドライブモードと同様に日本の道路環境に合わせて徹底的にチューニングが施されている。他社にも適用例はあるが、コナのほうが視認性は高いと感じた。
「これも標準装備なのか!」と驚くと同時に感心したのは、走行用大容量バッテリーから車外の電気機器に電力を供給する室外V2Lのアダプターを標準で装備することだ。試乗会場ではアウトドアで活用するイメージ(湯沸かし器などに電力を供給)とストリートライブ(楽器やアンプに電力を供給)をイメージした展示があった。「夢が膨らむなぁ」と展示を見て思ったが、アイオニック5を購入したユーザーは実際、クルマから電気を取り出せる機能を生かしたカーライフを楽しんでいるという。コナもきっと、新しいカーライフを楽しむユーザーを生むに違いない。
補足するに留めるが、コナは最新の先進安全装備や先進運転支援システムを漏れなくカバーしている。これでもかというほどに機能や装備を搭載していることを考え合わせると、399万3000円からラインアップがスタートするヒョンデ・コナ(試乗車は489万5000円)は、超ド級のお買い得BEVである。
ヒョンデ・コナ 価格およびバッテリー容量 早見表
グレード | Casual | Voyage | Lounge | Lounge Two-tone |
バッテリー容量 | 48.6kWh | 64.8kWh | 64.8kWh | 64.8kWh |
メーカー希望小売価格(税込み) | 3,993,000円 | 4,521,000円 | 4,895,000円 | 4,895,000円 |
ヒョンデ KONA Lounge 全長×全幅×全高:4355mm×1825mm×1590mm ホイールベース:2660mm 車両重量:1790kg サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rマルチリンク式 モーター(フロント) EM16型交流同期モーター 最高出力:150kW(204ps)/5800-9000rpm 最大トルク:255Nm/0-5600rpm リチウムイオン電池 総電圧:358V 総電力量:64.8kWh WLTC交流電力量消費率:137Wh/km 一充電走行距離541km 車両価格:489万5000円