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近日中に正式発表が行なわれる見込みのWR-V。日本国内における価格は「200万円台前半から」となる見込みで、手の届くSUVとして注目を集めている。
SUVとしての価値の高さと手頃な価格を両立するカギはなんだったのか。WR-Vのパッケージングを担当した黒崎涼太氏に話を聞いた。
シンプル&直感的なクルマに
──WR-Vにはどのプラットフォームが用いられているのですか?
黒崎さん:東南アジアで販売されている「シティ」など、小型のクルマと同じプラットフォームがWR-Vにも使われています。センタータンクレイアウトで、燃料タンクはリヤシートの下部に収まっています。後席の足元に傾斜がついて足置きのようになっていますが、これはプラットフォームの元の形状を残した結果です。
──プラットフォームから変更を加えていくと、どんどんコストもかかっていきますね。
黒崎さん:今回はお求めやすい価格で商品を出すことを考えました。細かい要素は後から追加できますが、クルマの基本骨格、たとえば乗員の座り方や空間の広さ、荷室の広さといったところは、後からいじることはできない。そういう箇所はキチンとやりきろうというのは、開発チームの共通認識として持っていました。そこをアレンジするというのは付加価値になってしまって、やり始めるとどんどん価格も上がってしまうと思うので、そういうところは極力シンプルに、日常のなかで使い切れる、使い方が直感的にわかるというところを意識しました。
──WR-Vのパッケージをまとめる上で苦労したところは?
黒崎さん:やはり、堂々としたスタイリングを、ある程度短い全長のなかで成立させる点です。乗員のための空間を広くしたり、視界を良くしたいというところを考えながら進めましたが、後席のスペースと荷室の広さをどこでバランスさせるのか、という点は結構難しかったですね。
また、SUVで大事なもののひとつに、アイポイントの高さがあると思うのですが、それを確保するうえでドライバーの着座位置を高くしてしまうと、日常での乗り降りがしにくくなってきます。ですので、後席に座る人の快適性や、見晴らしの良さと乗降性のバランスをどこで取っていくのか、というのはとくに意識しました。
乗降性については、モックアップを作って、床に板を敷いて「このくらいの高さだったらいいよね」というポイントを10mmずつ実際に試していきました。ここはエクステリアとインテリアの両方に関わるところですので、チームで検証しながらバランスを取っていく作業は大変だったというか、苦労したところです。
──クーペ風のヴェゼルとは違い、WR-Vはルーフがボディ後方まで伸びています。これは最初のコンセプトの段階で決まっていたのですか?
黒崎さん:“塊感”というのは最初からキーワードになっていたと思います。パーソナル感の強いクルマではなく、車体後部のスペースもちゃんと使えるということを外からも感じていただける強い“塊感”を表現しようとすると、クーペライクというよりはボクシーで四角くゴツゴツした雰囲気のほうが合っているのではないかという話はありました。
──実際、荷室はヴェゼルよりも広いそうですね。
黒崎さん:ヴェゼルはどちらかというと、前席と後席の間の距離が長いですね。ヴェゼルに対すると、WR-Vのほうが後席空間の前後長はちょっと短いのですが、その分のスペースはラゲッジにいきました。
あと、ヴェゼルは都市型SUVのなかでもクーペに近いスタイリッシュなキャビンを持っているんですけど、WR-Vはボクシーで、高さ方向でも荷室を使っていただける。幅も高さも長さも全部、立方体のようなイメージで、しっかり四隅の間口をしっかり大きく取っています。何かカラクリやギミックがあるわけではありませんが、日常使いで充分な広さをちゃんと提供することを考えています。
──今回は日本、タイ、インドで開発をされたそうですが、それぞれの地域でパッケージに対する考え方の違いはあるのでしょうか?
黒崎さん:具体的な使用シーンが違うというのはあります。たとえばインドであれば、このクルマを買ったお客さんが、週末はドライバーを雇って自分は後ろに乗るとか、そういう移動のニーズがあります。日本でいうと、購入するときは独身か、お子様がいないご夫婦のお客様が、後にライフステージの変化でお子様が生まれたりすると、後席にチャイルドシートをつけて、ケアをするために隣にお母様が座られたりする。つまり「大人が後ろに乗って快適に移動する」というニーズはどちらでもあるわけです。そうなると「リヤにもちゃんとエアコンの吹き出し口がついていたほうがいい」だとか「シートのクッションの厚みはちゃんと確保して、長距離の移動でも快適なほうがいいよね」となります。
使用シーンが違っても、実際のニーズ、根本的な人の欲求は一緒だと思っています。そこをすり合わせていって、パッケージを作っていくかたちです。パッケージはパズルを解くイメージですね。
ホンダのパッケージング部門はデザイン室内にある
──パッケージング担当者は、エクステリアデザインにはどこまで携わるのでしょうか?
黒崎さん:難しいですね……でも普段から話をしながら進めています。最初は一枚のキースケッチみたいなものから始まるんですけど、たとえば「これだと人が座ったときに前が見えないでしょ」とか「空間的にはもう少し広くしないとバランス悪いよ」みたいなことは、常に対話しながら作っていますね。
──黒崎さんはWR-Vの前は、どんなクルマを担当されたのですか?
黒崎さん:今年、日本導入が発表された新型アコードを担当していました。国内車種でいくとN-WGNとN-ONE、それからインドで売っている4mセダンのアメイズ……そのようなところをチョコチョコと(笑)。
──車種バリエーションが豊かですね。
黒崎さん:パッケージ担当がどういうクルマを担当するかというのは、そのときの開発日程に空きがあったり、そういうのが得意な人が引っ張られてくるので、特定の車種だけ担当する人はいないですね。
──元々パッケージング専門なのですか?
黒崎さん:ホンダはパッケージデザイナーの募集があって、私はそこに応募しました。元々は建築を学んでいたんですけど、図面管理というか、数値で座り方や人やモノの座標などを管理しながら、エクステリア、インテリアの担当者と目標値を握ってクルマを作っていきます。
──建築と自動車というと、だいぶ領域が異なるようにも感じますが、建築で培った知識や感覚が活きるのですね。
黒崎さん:そうですね。図面が最初からある程度読めるのは良かったです。ただ、やっぱり最初は勝手が違うんですよね。建築だと平面図がメインだったりするのですが、クルマの場合は立面や断面図がメインになるので、図面を読み込む感覚を養うのには時間はかかりました。でも、クルマの内部構造を知るというところで言えば、建築でもやっぱり構造設計などがあるので、そういうところは役に立ったと思います。
あとは、他社さんだとパッケージレイアウトは人間工学に近い部署にあることが多いですけど、ホンダは創業以来パッケージレイアウトの業務がデザイン室にあります。
──MM思想(人のスペースを最大化し、機械の部分を小さく抑える設計思想。MMは“マンマキシマム・メカミニマム”の意)もそこから生まれたわけですね。というと、皆さん研究所のデザインセンターでお仕事をされている?
黒崎さん:そうです。私の隣はエクステリアデザイナーだったり、インテリアデザイナーだったり、CMFデザイナーだったり……そういう環境で仕事をしています。
──WR-Vは自信作ですか?
黒崎さん:自信作ですよ。開発してる間はちょうどコロナ禍の時期で、私はひとりでパッケージのPLとしてやっていました。エクステリアやインテリアのデザイナーたちはタイを拠点にしていたので、日本にいるのは私ひとりだったんです(笑)。最初はひとりでポツン……とやってました(笑)。リモート会議でも、こちらで作ったものをスマホなんかで見せながら、「どうなってんの?ちょっと見せて」みたいな。そんな感じで開発を進めていたのですが、WR-Vは自信を持ってお客様に提案できるクルマに仕上がっています。