【新型車デザイン探訪】新型ヒョンデ・コナのデザイン戦略に迫る!“チェスの駒”が果たす個性と共通性の好バランスとは?

アイオニック5に続いて、コナ・エレクトリックが日本上陸。どちらも尖ったデザインのBEVだが、ヒョンデの場合、BEVだから尖っているわけではない。例えば上級セダンのグレンジャーや大型ミニバンのスターリア、中型SUVのサンタフェなど、この2〜3年に登場したICEのニューモデルもそれぞれ個性明快でアグレッシブなデザインだ。

いったいどうしてこんな尖ったデザインを連発できるのか? コナ・エレクトリックの発表会のために来日したサイモン・ローズビーに、その秘密を聞いた。

TEXT:千葉 匠(CHIBA Takumi) PHOTO:Hyundai/編集部

“チェスの駒”というデザイン戦略

どんな会社でもデザイン部門の周囲には保守的な人がいるもの。あなたたちはそういう人たちをどうやって説得しているのか? 単刀直入にサイモンに問い掛けると・・。

「いい質問だね。保守的な組織を説得するのはいつでも大変なことだが、正しいストーリーを持ち、それを心の底から信じれば、相手が誰であっても説得できる」とサイモン。そのストーリー作りは彼がヒョンデに加入する少し前に始まっていたという。

英国生まれのサイモン・ローズビー氏はロールスロイス、ベントレー、フォルクスワーゲンの中国スタジオを経て、2017年にヒョンデに移籍。ヒョンデ・グループの中国スタジオの責任者を経て、2019年からヒョンデ・ブランドのデザインを率いている。

「2017年にヒョンデで働き始めるにあたって、ルーク・ドンカーヴォルケとサンヤップ・リーと話をした」。ルークとサンヤップはサイモンにとって直属の上司だ。フォルクスワーゲン・グループで要職を歴任したルークは2015年にヒョンデに移籍し、2017年からヒョンデ・グループ全体のデザイントップ。サンヤップはGMやベントレーを経て、2016年からヒョンデとそのプレミアムブランドであるジェネシスのデザイン責任者を務めている。

”シームレスホライゾンランプ”と呼ぶ横一文字のDRLの下に、ボディ色の面を広くとった個性的な顔付き。開口部を最小化することでBEVらしさを訴求している(写真は欧州仕様)。

「彼らに初めて会ったその場で『これをやりたいんだ』と、チェスの駒の写真を見せられた」とサイモン。チェスの駒はそれぞれカタチが異なり、役割も違う。6種類の駒を動かし、全体で相手を攻めていくのがチェスというゲームだ。

「それぞれの車種をそれぞれの顧客グループに向けてデザインする。ブランド戦略と言うと、どの車種も一貫したデザインにして、すべてのお客様を自社ブランドに引っ張ってこようとしがち。しかしお客様はさまざまだ」

新型グレンジャー。新型コナとほぼ同時期に韓国でデビューしたが、共通するのは”シームレスホライゾンランプ”だけだ。2本のリヤピラーには初代グレンジャーの面影を宿し、ヒョンデの最上級セダンとしてのヘリテージを表現する。ちなみに1986年にデビューした初代グレンジャーは、当時提携していた三菱の2代目デボネアの姉妹車だった。

サイモンの前職はフォルクスワーゲン(以下、VW)。欧州メーカーは車種横断の一貫したデザインでアイデンティティを築く傾向が強く、なかでもVWはその最右翼のひとつだ。そんなVWからヒョンデに移籍し、車種横断の一貫性を否定する”チェスの駒”のデザイン戦略に取り組む心境はどうだったのだろう?

「最初は少しショックだったよ。チェスの駒だって? 自分がやってきたことと違う。でも、彼らが何にトライしようとしているかは、すぐに理解できた」とサイモンは当時を振り返る。「そこからこの戦略を深掘りし、進化させてきた」

「複数車種を視覚的に結び付けるデザイン要素もあるけれど、車種ごとの違いが明らかで、それがヒョンデ独自のブランド・アピールになっている。他社ではあまりやっていないことだ。どちらが正しいというものではないが、非常に幅広いお客様を持ち、商品の幅も広いヒョンデにはこのやり方がフィットしている」とサイモン。そして「チェスの駒の頭部はタイポロジーだ」と告げる。

画像:pixabay

タイポロジー=類型学は物質の特性や人間の行動を類型別に分析・考察する学問のこと。6種類の駒は頭部の形状が異なる。それをクルマのデザインに当てはめて言うと、「各車種のシルエットや全体的なデザイン言語」だという。

「我々が求めているのは、お客様に『Oh! これは私のためのクルマだ』と思ってほしいということだけ。お客様によって異なるマインドセットに焦点を当ててることで、ヒョンデ・ブランドをもっと魅力的にできると考えている。それぞれの車種が異なるキャラクターを持つのは自然なことだ」

“シームレスホライゾンランプ”は駒の基部

車種ごとにターゲットカストマーに合わせてデザインしているとはいえ、ラインナップ全体を俯瞰すると、複数の車種が共通のデザイン要素を持つ例も少なくない。例えば、新型コナのノーズを水平に横切る”シームレスホライゾンランプ”はスターリアに始まり、新型グレンジャーやフェイスリフトした新型ソナタ、新型サンタフェに相次いで採用されている。

2021年にデビューした大型上級ミニバンのスターリア。FFながら完璧なモノフォルムを実現したそのフォルムは、シンプルかつ超モダンだ。フロントの顔付きは、ヒョンデの上級車として、ほぼそのまま新型グレンジャーに移植された。

「それはチェスの駒の基部だ」とサイモン。駒の基部はどれも同じカタチなので、「基部を大きくしたり、小さくしたりすることで、車種ごとの共通性と違いを調整している」

8代目ソナタが2023年3月にフェイスリフト。“シームレスホライゾンランプ”を活かしたシャープな顔付きに生まれ変わった。
2023年7月にデビューした新型=5代目サンタフェは、”シームレスホライゾンランプ”をグリルの中に入れつつ、H型のヘッドランプ・シグネチャーと一体化する、という新解釈を見せた。チェスの駒の基部として一貫性を訴求する”シームレスホライゾンランプ”にも、車種によりいろいろな表現がありえるわけだ。

“チェスの駒”の戦略の奥深さ

日本ではアイオニック5に続いて新型コナが導入された。あえて共通点を探せば、ボディサイドの対角線的な斜めのキャラクターラインが浮かぶ。

上:アイオニック5、下:新型コナ。 前後ドアを対角線的に結ぶキャラクターラインは、アイオニック5と新型コナに共通するが、向きが逆だ。アイオニック5ではこのラインに沿って広がる断面が後輪に向かって後輪の踏ん張り感を強調。それに対して新型コナはボディサイドに大きくZ字を描きつつ、そのZの斜め線をルーフエンドのスポイラーにつなげている。

しかしアイオニック5のそれが後ろ下がりなのに対して、コナでは後ろ上がりのラインがルーフエンドのスポイラーにまで延びるイメージでデザインされている。駒の基部として共通の要素を持たせながらも、具体的な表現は車種ごとに違える。そこにヒョンデの”チェスの駒”の戦略の奥深さがあると言えるだろう。

ヒョンデのピュアEVの第二弾、アイオニック6は空力を重視した個性派セダン。量産車では驚異的なCd=0.21を標榜する。アイオニック5とのデザイン的な共通性はほとんどない。

ちなみにアイオニック5は2022年の”ワールド・カー・アウォード”で、本賞のみならずEV部門とデザイン部門の三冠を受賞。翌2023年にはアイオニック6が再び三冠受賞という快挙を成し遂げた。同じブランドの、ほぼまったく違うデザインが2年続けて高く評価された事実は、ブランドデザインの在り方を揺るがす出来事だったと言って過言でない。

「涙が出るほど嬉しかったよ。ブランドがライフスタイルにフォーカスするなかで、まったく新しいデザイン言語をチーム全員で生み出したことを誇りに思う」とサイモン。そしてこう続けた。

「新型コナの評判は非常に良いし、新しいサンタフェやグレンジャーは膨大な受注を得ている。しかし私たちが目指すのはお客様のライフスタイルに合ったグッドデザインであり、それによって人々をワクワクさせること。購入者を増やしたいというより、ヒョンデ・ブランドのファンを増やしたいと思ってデザインしている」

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新型コナ・エレクトリックが日本上陸。ヒョンデ・モビリティ・ジャパンでは兄貴分のアイオニック5より「馴染みやすいデザイン」と考えているそうだが、いやいや、これも非常に個性明快な風貌の持ち主だ。それがどのように生まれたのか?  コナ・エレクトリックの発表会のために来日したサイモン・ローズビーに聞いてみた。サイモンは2019年からヒョンデ・ブランドのデザイン責任者を務めている。 TEXT:千葉 匠(CHIBA Takumi) PHOTO:Hyundai/編集部

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著者プロフィール

千葉 匠 近影

千葉 匠

1954年東京生まれ。千葉大学工業意匠学科を卒業し、78〜83年は日産ディーゼル工業でトラック/バスのデザ…