3月に発売、ホンダWR-V「日本で250万円以下」の割り切りはユーザーに受け入れられるか?

ここ数年、「新車が高くて買えない」という声が大きくなっている。労働者の給与も増えているが、それ以上にインフレが進んでいることが原因のひとつ。とくに自動車というのはグローバルな工業製品ゆえに世界的なインフレの影響を受けてしまうことも新車価格の上昇につながっている。しかし、そんな状況へのアンチテーゼというべきニューモデルが登場した。それがホンダの新型SUV「WR-V」である。3ナンバーの立派なボディながら最上級グレードでも250万円以下の価格を実現した秘密とは?

REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya) PHOTO:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)/編集部

日本では250万円以下を目標に開発されたグローバルSUV

ホンダ・WR-V

軽スーパーハイトワゴンの超人気モデルN-BOXの最上級グレード「カスタムターボ・コーディネートスタイル」は、222万9700円(FF)というメーカー希望小売価格を掲げている。それでも順調に売れているのだから、日本のユーザーは200万円オーバーの軽自動車を買っていることも事実といえるわけだが、いずれにしても新車価格は上昇の一途。徐々に庶民の手に届かない贅沢品という位置づけになりつつある。

まして、世界的なトレンドとなっているクロスオーバーSUVにおいては、新車価格のインフレーションは庶民感覚を上回る勢いで進んでいる。同じくホンダでいえば、ヴェゼルハイブリッドの中間グレードとなるe:HEV Zのメーカー希望小売価格は300万1900円(FF)。ヴェゼルの素性が、コンパクトカー「フィット」とアーキテクチャーが共通していると思うと、コンパクト系SUVで300万円を超える予算が必要というのは「もはやSUVには手が出ない」と感じてしまうのではないだろうか。

こうした状況に対して、「自動車産業というのはグローバルに展開しているものであり、日本が失われた30年といっている間にグローバルでは経済成長しているのだから仕方がない。まして、コロナ禍や半導体不足でモノの値段は上がってしまうのだ」と物分かりがいい考え方をするのもオトナかもしれないが、その状況を全面的にヨシとして認めてしまう必要はない。

前置きが長くなったが、新車価格上昇のアンチテーゼとして、ホンダが生み出した新型SUVが「WR-V」である。車両のグランドコンセプトとしては”多様なライフスタイル”や”自由な発想”といったキーワードが並ぶが、開発の重要なテーマは「日本で250万円以下」で提供できること、だったという。

価格帯は209万8800円~248万9300円。全車1.5LエンジンのFFとなっている。

ハイブリッドなし、EPBなし、全車速対応ACCなしと割り切った

ホンダ・WR-V

そのために開発手法からして過去にないスタイルがとられた。

安価なクルマとするためには電池やモーターによりコストの嵩むハイブリッド・パワートレインの採用は難しい。しかしながら、先進国の開発拠点はBEV(電気自動車)などゼロエミッション車の開発にリソースが割かれていて、安価なベーシックモデルを開発する余裕がない。

そこでホンダが世界各地に展開するR&Dの中で、WR-V開発の白羽の矢が立ったのがタイにあるHRAP(Honda R&D Asia Pacific)だった。アジア方面で展開する製品開発のハブとなっているHRAPだが、じつは日本向けのモデルを開発するのは初めてだったという。

ホンダ・WR-V

もちろん、WR-Vは日本専売モデルというわけではない、主要ターゲットはインド市場。そのためロジスティクスに有利なよう、生産もインドの工場で行っている。つまり、WR-Vはタイで開発され、インドで作られているモデルとなっている。

ただし、グローバル化が進んでいる中で、単純に生産国によってコストが抑えられるというものではないという。

WR-Vの場合、車両価格を下げるためのポイントは、アジア向けモデルに使われているアーキテクチャーを上手に組み合わせたことにある。

東南アジア向けセダンの「シティ」と3列シートSUV「BR-V」のフロアを合体させることで、全長4.3m級のSUVにふさわしいパッケージングを実現しているのがポイントだ。

ホンダ・WR-V

日本向けには250万円以下という開発テーマを掲げたWR-Vだが、インド向けのELEVATEについては「インド産の最上級モデル」という位置づけとなる。シティとBR-Vのプラットフォームを合体させたという設計は、セダンのドライビング感覚と、3列シート車の後半部分に相当するスペースを後席とラゲッジとして贅沢に活用するというメリットにもつながっているという。

また、インド仕様には6速MTも設定されるということで、パーキングブレーキはハンドレバー式となっている。先進運転支援システム「ホンダセンシング」は標準装備されるが、ACC(追従クルーズコントロール)が30km/h以上でなければ設定できない仕様となっているのは、このパーキングブレーキによるものだが、こうした割り切りも250万円以下という価格を実現するためには避けられなかったということだ。

WR-Vの積む1.5Lエンジンは、いまやこのクラスでは貴重な4気筒DOHCで、もちろんVTECとVTCを組み合わせたi-VTEC仕様となっている。コストを抑えているといっても、エンジン自体のスペックに妥協はないといえる。

1.5L 4気筒DOHC「L15D」型エンジンもインドで作られている。

東南アジアの勢いを感じさせる若々しいスタイリングも魅力

それにしても、WR-Vのスタイリングからは「安く作ろう」という意識が感じられない。

パッと見ただけでも、コンパクトSUVとしては後席ドアが大きく、大人4人が乗り込んで楽しめるパッケージングであることが伝わってくる。フロントの灯火はフルLED仕様となり、最上級グレードにはシルバーの加飾パーツがドア下部に備わるなど外観での安っぽさはない。むしろ、最近のホンダ車にはない若々しさを感じさせる印象さえある。

ホンダ・WR-V

その背景について開発陣に伺ったところ、初期デザインを担当したのはHRAPに所属するインドネシア人の若いデザイナーなのだという。人種や国籍で判断してしまってはいけないのだが、やはり勢いのある市場を肌で感じているデザイナーの視点が、この若々しいスタイリングにつながっているのだろう。

前述したようにインド市場においては「国内産の最上級」というポジショニングなのだから当然だが、「安かろう悪かろう」という雰囲気を感じないのもWR-Vの持つ魅力のひとつだ。

当初の狙い通り、日本向けの最上級グレードでも250万円以下の価格を実現したWR-V。庶民の手が届くSUVとして人気を博せば、他社も追随するであろう。そうして、このカテゴリーのラインナップが充実する未来を期待したい。

■WR-Vグレード別メーカー希望小売価格
X:209万8800円
Z:234万9600円
Z+:248万9300円
※全グレードFFだけの設定。トランスミッションはCVTのみ。

ボディサイズは全長4325mm・全幅1790mm・全高1650mm。最低地上高は195mmを確保する。

WR-V主要スペック

WR-V Z+ 
全長×全幅×全高:4325mm×1790mm×1650mm
ホイールベース:2650mm
車両重量:1230kg
排気量:1496cc
エンジン:直列4気筒DOHC
最高出力:118PS(87kW)/6600rpm
最大トルク:142Nm/4300rpm
駆動方式:FF
トランスミッション:CVT(7速マニュアルモード付き)
WLTCモード燃費:16.2km/L
最小回転半径:5.2m
タイヤサイズ:215/55R17
乗車定員:5名
メーカー希望小売価格:248万9300円
上級感グレードには215/55R17サイズのタイヤを標準装備。

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…