新型スズキ・スペーシアの走りをワインディング、高速道路、都内一般道で確かめた! 軽量ボディのハンドリングは◎【新型スペーシア試乗・前編】

『ジャパンモビリティショー2023』でコンセプトモデルが発表され、11月22日に6年ぶりにフルモデルチェンジを果たして発売されたスズキ・スペーシア。大人気の軽スーパーハイトワゴンジャンルにおいて、スペーシアはどのような走りを見せてくれるのだろうか? 山田弘樹が富士山麓のワインディングや高速道路、そして都内一般道を走って確かめる。まずはNAエンジンを搭載した標準仕様からチェックだ。
REPORT:山田弘樹(YAMADA Kouki) PHOTO:MotorFan.jp/中野孝次(NAKANO Koji)

2013年の登場以来右肩上がりの販売台数を記録し、その累計生産台数は約130万台。いまや立派なスズキの主力機となった「スペーシア」が、6年ぶりに三代目へとモデルチェンジを果たした。

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そのラインナップは従来通りで、49PS/58Nm(5.9kgm)のNAエンジンを搭載する標準仕様とカスタム、64PS/98Nm(10.0kgm)のターボエンジンを搭載するカスタムターボ。それぞれに2.6PS/40Nm(4.1kgm)と、3.1PS/50Nm(5.1kgm)のモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドで、トランスミッションはCVTのみだ。
駆動方式は全グレードFWDと4WDの二本立てとなるが、今回はそれぞれのFWDモデルに試乗した。

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最初の試乗車は標準仕様……まずリヤシートの新機構に注目!

まず最初に試したのは、標準仕様の「HYBRID X」。
新型スペーシアで開発陣が掲げたテーマは大きく分けてふたつあり、ひとつはスーパーハイトワゴンボディで得られる広い室内空間の、さらなる使いこなし。そしてもうひとつは先進安全技術の拡充となるが、ここではまず前者の話から始めよう。

スペーシア「HYBRID X」

リアシートの居住性で最も目を引くのは、なんといっても「マルチユースフラップ」だ。シート先端部分を稼働させることでオットマン、レッグサポート、荷物ストッパーと3つのモードを使いこなせるアイデア装備が新設された。

スペーシアの後部座席。座面前端の可動部が「マルチユースフラップ」。

ただ実際にこれを使ってみた印象は、ちょっと期待とは違うものだった。ご存じの通りスペーシアのレッグスペースは広いから、オットマンがあればそのくつろぎ効果はかなり高まるはず。しかし肝心な使用感はフラップ部分のクッションが肉薄で、ふくらはぎ部分に硬さを感じた。クルマが停車しているときならまだしも、荒れた路面を走っているときなどはその乗り心地も含めて、あまり快適とは思えなかった。

オットマンモード

走行中に着座姿勢を安定させてくれるというレッグサポートモードも同様の理由で、姿勢は安定するけれどふくらはぎ上部にコツコツとした振動が伝わってくる。

レッグサポートモード

フラップを回転させる荷物ストッパーモードは、とてもよい装備だ。総じてクッション性能さえ上げてくれたら、一気に期待通りの装備になると思う。

ストッパーモード
ストッパーモード使用例

自然なハンドリングによる軽快な走りは魅力的!

のっけから厳しい出だしとなってしまったが、走りそのものは実にスズキらしさ溢れる、元気で若々しい仕上がりとなっていた。
まずそのエンジンは、3気筒サウンドを隠そうとしていない感じが却って潔かった。マイルドハイブリッドの助力も効いているのか、アクセル開度が少ない状態でのサウンドは、静かめ。しかしこれを踏み込むと、エンジンはバーン! となる。ただその音質は適度に野太く高周波がカットされており、嫌みがない。

標準仕様のエンジンは新型のR06D型657cc水冷直列3気筒DOHC12バルブ。先代のR06Aからボア×ストロークをよりロングストロークに変更(64.0×68.2mm→61.5×73.8mm)。圧縮比を高め(11.5→12.0)に高め、49ps/6500rpm、5.9kgm/5000rpmの出力を得る。出力のカタログスペックは下がったが、高効率化によりドライバリティと燃費は向上している。

CVTとの連携は、まず微低速時の追従性が優秀だ。街中で最も多いパーシャルスロットル領域での滑り感も巧みに抑えられており、ちょっとした加速でもストレスがない。
対してアクセルを力強く踏み込んで回転が上昇したときは、これを緩めても加速感が若干残ってしまう場面が見受けられた。
総じて若々しいフィーリングであり、これでWLTC総合燃費23.9km/ℓを出せるなら実用性は十分だろう。

ハンドリングは、スペーシアのセリングポイントだ。
操舵応答性はとても自然で、カーブを曲がるのが実に気持ち良い。
装着タイヤは14インチだったが足周りには適度なシッカリ感があり、切り始めから少しずつロールを発生させて、舵角が増えるほどきれいに旋回姿勢を作り上げ、安定してカーブを曲がってくれる。

標準車は14インチのスチールホイールに155/65R14を装着。新車装着タイヤはダンロップの「エナセーブEC350+」になる。

またスーパーハイトワゴン特有の重心移動も巧みに抑えられているから、レーンチェンジやダブルレーンチェンジでも揺り返しが来ない。そしてこの自然な回頭性や収まりの良さには、足周りのセッティングと並んでボディの軽さ(880kg)が効いてる。

惜しいのはステアリングの位置が相変わらず遠いこと。これはスペーシアに限ったことではないが、ハイトワゴン系はアップライトな着座姿勢になるからハンドルを切って行く際に、カーブで切り込む手の肩がどうしてもシートから離れがちになる。すると体を支えるために踏ん張る必要も出てくるし、緊急回避時におけるとっさのアクションが一歩遅れてしまう。

これだけ素直に曲がれるスーパーハイトワゴンなのだから、コストは掛かるが他メーカーに先んじて、いちはやくテレスコピック機能を付けて欲しい。また踏み間違え防止の観点も込めて、リアレッグスペースを多少犠牲にしてでも、シートポジションを下げて右足の脛(すね)部分の動きを楽にして欲しい。

スペーシアの運転席

気になる乗り心地は……

ユーザーの声を拾い上げて大きく改善したという乗り心地は、良い面と悪い面があった。まず良い面は、トーションバーという簡素な形式でも大きなロールはもちろん小刻みな横揺れまでが、きちんと抑えられているところ。またフロアからブルブルとした低級振動が伝わってこないところだ。シャシーは先代からのキャリーオーバーだから、その煮詰めや足周り、そしてブッシュ系のチューニングがよく出来ているのだろう。

フロントにマクファーソンストラット、リヤにトーションバー(4WDはITLリンク)というサスペンション形式は先代から変わらず。

かたや垂直方向の突き上げに関しては、少し厳しいものがあった。乗り心地を考えて改良したというバンプラバーはややタッチが早めなのか、特に後部座席に鋭い入力を与えていた。
まだ試乗車がまっさらな新車(ODOメーターは590km)であったこと、今回の試乗地である富士吉田市の山道側がとても荒れていたことを考えると致し方ないとも言えるが、こうした地域にもユーザーはいるわけで、より高みを目指して欲しい。

今回は富士吉田から東富士五湖道路を越えて須走まで行き、須走から国道138号で籠坂峠を越えるルートで試乗した。

というわけで筆者は都内で再びこれを試乗し直してみたが、通常路面ではその突き上げ感も、かなり和らいでいた。
とはいえその芯にはまだ少し硬さが感じられ、個人的にはもう少しだけバンプ側のハイスピード領域(急激に入力が入った時の減衰力)か、バンプタッチに柔軟性を持たせたいと感じた。

ご存じの通り軽自動車のディメンジョンはサスペンションストロークに余裕が少なく、コストを考えればダンパー容量も増やしづらい。その中でスペーシアは今回、走安性を高める方向性を選んだのだろう。この点は、先代から確実に進化している。
とはいえスズキとしては、よりプレミアムな上級移行を求めるユーザーにはソリオというステップをきちんと用意している。そう考えるとスペーシアは、ランニングコストに優れる軽自動車枠のなかで堅実に正常進化を遂げたと言えるだろう。

後半ではターボ車であるカスタムを題材に、その走りと先進安全技術に触れてみたい。

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…