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外見は渋いが中身は時代分の進化を遂げているランクル70
かつてパートタイム4WDは、「旧態依然とした時代遅れのクルマ」と揶揄された時代があった。乾燥したオンロードでも臆することなく走れる、フルタイム4WDのSUVが市場の本流となったからだ。
車重を重くするラダーフレームの存在や操作がドライバーに任されるパートタイム4WDというシステムがデメリットのように言われ、すべてオートマチックなフルタイム4WDのSUVこそが時代の寵児として扱われたのである。そんな風潮に微力で抗ってきた筆者だが、昨今ではポジションが逆転して質実剛健なオフロード4WDに改めてスポットライトが当たっている。
しかし、濡れた道や雪道での安全性は、やはりフルタイム4WDには及ばないという明白な事実はある。特に電子制御の技術は日進月歩で、それを有したフルタイム4WDの進化は目を見張るものがあろう。走行状況や路面状態を瞬時に判断し、エンジン出力、制動力、駆動トルク配分をシームレスにコントロールする4WDシステムは、クルマの最終的な進化形であると言っても過言ではない。
そこにHVやBEVの電動化技術が組み合わさることで、もはや走れぬ道はないのではないだろうかと思えるほど、優秀な4WDシステムに昇華しているのである。
では、パートタイム4WDの存在意義は何なのかというと、まぎれもなく「信頼性」だ。いまや多くのSUVは電子デバイスの塊であり、ボディやシャシーの堅牢性も含めて考えると、僻地での使用には限界がある。電気系にトラブルが発生した場合、すべてが止まる事態に発展しうるからだ。
加えて、駆動系にアクシデントが発生した場合でも、パートタイム4WDであれば駆動系を一時的にいじることで、FFで走行を続けることもできる。
電子制御の充実で誰にでも扱いやすいクルマに
アジアやアフリカ大陸、オーストラリア大陸を知っている人なら分かると思うが、郊外部で発生するクルマのトラブルは死に繋がりかねない。それゆえ、ランドクルーザーの歴代主査は「地球で最後に生き残るクルマ、生きて帰ってこられるクルマ」を開発モットーにしてきた。
90年代に入ると、ランドクルーザーも時代の流れやユーザーニーズを鑑み、80系で4WDシステムのフルタイム化に踏み切った。以降、フラッグシップモデルと傍流のプラドはフルタイム4WD+電子制御という技術革新を進め、現在の300系、そしてこれから登場する250系という昇華形に至った。
日本では販売中止期間もあったが、世界の僻地での使用を主眼とした70系だけが、トラブルに強く、現場での修理対応が可能なパートタイム4WDを使ってきたのである。
スズキのジムニーがパートタイム4WDを採用しているのも同様な理由で、旧型のスイッチ式トランスファー切り替えを止め、オーセンティックなレバー式を現行型に採用したのも、ひとえに信頼性のためである。
都市部と僻地という、根本的に違う使用シーンを想定したSUVとオフロード4WDなのだが、それを同列に考える批評界の風潮は未だ止まず、ジムニーやランクル70を時代遅れと取る向きも少なくない。
だが2012年に施行された横滑り防止装置の義務化によって、風向きはかなり変わった。ジムニーは現行型によって「ESP(スズキの名称)」を標準化する共に、そのデバイスに内包される機能「ブレーキLSDトラクションコントロール」を装備してきたのである。
これにより、従来独特のドライブテクニックや知識が必要だったパートタイム4WDは、それらを必要としないユーザーフレンドリーなクルマに大きく変貌したのである。ジムニーのESPについては、オフロード愛好家から否定的な意見もあるが、悪路走破性の向上という点では確かに美点と言えるだろう。
そして、最後のアナログ4WDだったランクル70も、ついにこの12月のビッグマイナーチェンジによって、電子デバイスを採用。「VSC」と「アクティブトラクションコントロール」の採用によって、雪道での走行安定性とスタック脱出性を大幅に向上させている。その上、6速ATを採用したことで、スリッピーな路面状況の中で四輪の空走の瞬間があるギアチェンジも廃し、イージーなスノードライブを高めている。
こうした電子制御化、イージードライブ化の波を良しとしないランクリストもいると思う。だがこれも時代の要望であるし、おそらく電子デバイスがトラブルに見舞われた時でも走行を継続できる逃げ道が用意されていることだろう。
オフロードの走破性だけでなく、オンロードでの乗り心地も向上
都市部で生活をしていると、しかも日本に住んでいると、なかなかインフラが整備されていない道路状況というのを想像しにくい。だが発展途上国の郊外部ではデフォルトとも言えるもので、前述した通り、まだまだオフロードタイプの4WDは世界に必要なカテゴリーだ。
だがそのオフロード4WDも、ランクル70の劇的な進化によって新たな世代に入った。80年代におこった「四駆ブーム」はわずか数年で収束してしまったが、その要因となったのがオフロード4WD独特の運転のしづらさや燃費の悪さであり、普通のクルマのように乗れないことだった。
未だ新型70に乗る機会は得ていないが、前時代的と評されるリアリーフスプリングサスペンションも大幅なチューニングを施しているようなので、もはやこれまでの乗り味とまったく違うクルマになっているに違いない。3ナンバーワゴン化というトピックスも、ユーザーには嬉しいポイントだ。
アナログ4WD最後の牙城だったランクル70が大規模な化粧直しをしたことで、もはやこの地球上には乗りにくい四輪駆動車は皆無になったのではないだろうか。