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先代より3倍売れてる新型プリウス
今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーの栄冠に輝いたトヨタ・プリウス。販売も好調で、2023年1-11月の国内販売台数は9万1927台。これに12月の台数が上乗せされるから、10万台/年は超えそうだ。前年2022年の年間販売台数は3万2675台だから、ざっと3倍の売れ行きだ。5代目プリウス、ヒット作と言えそうだ。
ヒットの理由のひとつは、デザインにある。歴代プリウスでもっともスタイリッシュなエクステリアは、いつの間にか単なるエコカー、ハイブリッド車の代表モデルとなっていたプリウスのイメージを一新させた。カッコいいプリウス。それが成功の秘密だ。
もちろん、格好だけではない。二周目に入ったTNGA GA-Cプラットフォームを使ったシャシー性能は、格段に進化している……というのは、サーキットで開催された試乗会で体験済みだった。イヤーカーを獲ったタイミングで、数日間借り出してその素の実力を試してみることにした。
試すなら、PHEVモデルである。なぜなら、試乗会のときの印象が圧倒的に良かったから。そして、価格だ。
ハイブリッドモデルのZ(FF):370万円
PHEVのZ(FF):460万円
差額の90万円は、補助金で賄える。
国のCEV補助金55万円
東京都の補助金(個人)45万円
再生可能エネルギー電力導入による上乗せ補助額15万円
最大115万円だから、補助金受給後の価格は逆転するのだ。
EV走行距離は87km。自宅に充電設備があれば、ほとんどBEVのように運用ができ、ロングドライブになれば、世界一のハイブリッドシステム、THSⅡ(いまはシリーズパラレルハイブリッドと呼ぶ)がある。
簡単に言えば、自分でプリウスを買うならPHEVを選ぶだろうということで、PHEVを借り出したわけだ。
EV走行、実際は何km走れる?
東京・九段下で借り出したプリウスPHEVは、(おそらく)フル充電でEV走行距離は82kmと出ていた。ドライブモードは「NORMAL」。首都高に乗り大黒PAを回って自宅まで走って、72.1km走行してバッテリー残量がゼロになりエンジンが始動した。
エンジンがかかると、「あ、エンジンかかったな」とはっきりわかる。エンジンがかかっているときは、エンジンの存在感は小さくない(つまり、けっこううるさい)。
ただし、EV走行時のフィールは素晴らしい。静かで滑らか。そしてパワフル。BEVが備える美点をすべてある。
自宅に戻って200V(15A)で普通充電した。バッテリー容量は13.6kWhだから、もし本当に空(ということはないのだが)だったとしても、5時間もあれば満充電になる。
翌朝、メーターを見ると満充電でEV走行距離は「89km」と出ていた(モード電費のEV走行距離が「87km」)。この日もエアコンを普通に使って走って73kmがEV走行できた。だいたい72-74km程度EV走行できると思えばよさそうだ。
新型プリウスと聞くと、「前方視界が良くないらしいですね、Aピラーが寝ているから」という声を複数聞いた。が、前方視界は悪くない。確かにクルマの最先端がどこにあるかは、ドライバーからは見えない。が、ボディサイズはCセグ(全長×全幅×全高:4600mm×1780mm×1430mm)だから、持て余すことはないし、駐車や狭い道ではセンサーとカメラがある。特段、気になることはなかった。
Aピラーの角度が極端に寝ていることと全高が低めなことで、乗り降りするときに頭をぶつけそうという懸念はあるけれど……。
ハイブリッドからBEVへの移行期間を支えるのがPHEV、と言われてきたが、PHEVの存在は今後、もっと大きくなっていくのではないか、と思う。BEVより圧倒的に電池容量が少ない(プリウスPHEVが13.6kWh、bZ4Xが71.4kWh)からプライスタグも重量も軽くできる。車重が軽ければ当然走りも良くなる。長距離は、エンジンがあるから安心。プリウスPHEVに乗ると、その良さがよくわかる。
2017年にデビューした先代のプリウスPHVは、8.8kWhの電池容量でEV走行距離は68.2km、価格は422万2800円(最上級グレードのAプレミアム)だった。このときの月販目標台数は、2500台だった。
新型は450台/月と控え目だ。PHEVの普及に対して慎重な見方をしているのかもしれない。が、繰り返すが、次の条件をクリアする人はプリウスを買うならPHEVをお勧めする。
・自宅に200V普通充電の設備がある
・降雪地域に住んでいない(プリウスPHEVには4WDの設定がないから)
今回、3日間で277.5km走行した。そのうちの約200kmはEV走行だった。EV走行の平均電費は7.5km/kWh。残りはハイブリッド走行(WLTCモード26.0km/L)だ。
200km分のEV走行時の電気代は?
では、電気代はいくらになるのか? 現在、東京電力のプレミアムLプランだと1kWh=39.7円だ。1kWhで7.5km走れるということは、5.3円/km(1km走るのに5.3円かかる)。
これはどう考えればいいのか? 資源エネルギー庁の2023年12月27日発表のデータでは
レギュラーガソリン:175円/L
軽油:154.5円/Lだからレギュラーガソリン車なら33km/L ディーゼル車だったら29.2km/Lの燃費と同等だ。
プリウスのサイズのクルマでこの燃費で走れるクルマはおそらくないだろうから、経済性という点でもプリウスPHEVは高い性能を持っているわけだ。
プリウスPHEVを選ぶ理由は、もちろん経済性だけではない。というより、ハイブリッドモデルよりもパワフルでスポーティな走りだ(フロントモーターはPHEVが163ps/208Nmなのに対してHEVは113ps/206Nm)。
トヨタは、PHEVにハイブリッドより明らかにスポーティでプレミアムな味付けを施している。新型クラウンスポーツでも同様だ。なぜか? 前述したように、補助金を受ければハイブリッドモデルとPHEVの価格差は縮まる。しかし、補助金はいつかなくなる。補助金なしでもPHEVを選ぶ理由がなければいけない。ハイブリッドとBEVの”谷”に掛ける橋としてPHEVの魅力が経済性やテールパイプエミッションゼロ(で毎日のルーティンがこなせる)だけでは、物足りない。ハイブリッドにもBEVにもない、PHEVならではの美点を磨き強調しなくてはいけない。プリウスPHEVは、その意味でも意欲作だ。選ぶ価値があるプリウスである。
ただし、エンジンがかかったときは、もう少し静かで振動がないとうれしい。なにせ、エンジンがかかったら、バッテリー分重い(プリウスの場合は150kg)ハイブリッド車になってしまうのだから。
プリウスPHEV Z 全長×全幅×全高:4600mm×1780mm×1430mm ホイールベース:2750mm 車両重量:1590kg サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rダブルウィッシュボーン式 駆動方式:FF エンジン 2.0L直4DOHC(M20A-FXS) 最高出力:152ps(112kW)/6000rpm 最大トルク:188Nm/4400-5200rpm フロントモーター:1VM型交流同期モーター 最高出力:163ps(120kW) 最大トルク:208Nm 燃料タンク容量:40L 電池容量:13.6kWh EV走行換算距離:87km WLTCモード燃費:26.0km/L 市街地モード23.7km/L 郊外路モード28.7km/L 高速道路モード25.5km/L 車両価格:460万円 オプション:ソーラー充電システム28万6000円、ITS Connect2万7500円、デジタルインナーミラー/デジタルインナーミラー用カメラ洗浄機能/周辺車両接近時サポート(録画機能)ドライブレコーダー8万9100円、デジタルキー3万3000円、フロアマット(ラグジュアリータイプ販売店オプション)3万4100円 オプション込み価格506万9700円