マツダMX-30ロータリーEV開発者にいろいろ聞いてみた。横展開は、音は? どうしてMX-30なの?

マツダMX-30ロータリーEV開発者インタビュー:8C-PH型発電用1ローターエンジン+シリーズ式PHEVで目指した走り味とは? 他車種への展開は?

11年ぶりにロータリーエンジンを搭載する「MX-30ロータリーEV」が日本で2023年11月に発売された。横置き発電用1ローター「8C-PH」型とシリーズ式PHEVとの組み合わせで、マツダ開発陣が目指した走り味とは? そして今後の多車種への展開は?

パワートレインの実験を担当したマツダの岩田陽明(いわたきよあき)主幹と、設計を担当した緒方佳典(おがたよしのり)アシスタントマネージャーへ、本誌・鈴木慎一編集長と筆者が、試乗後の感想を交えながら前のめりに迫る!
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、マツダ、ヒョンデ

「せっかくロータリーが載っているのだから、もう少しそれを感じられるようにしてほしい」という意見の方が多かったですね

マツダパワートレイン開発本部エンジン性能開発部第1エンジン性能開発グループの岩田陽明主幹(左)と、同エンジン設計部第2エンジン設計グループの緒方佳典アシスタントマネージャー(右)

岩田さん:「ロータリーEV」に試乗していかがでしたか?
鈴木:想像していたよりもずっと良かったです。先日モーターファンフェスタで「EVモデル」をお借りしましたが、それ以上に良かったですね。「ロータリーEV」の方が出力は高いですよね? 重量は……?
岩田さん:出力は少し高い(「EVモデル」のモーターが107kW(145ps)と270Nm、「ロータリーEV」のモーターは125kW(170ps)と260Nm)ですね。車重はむしろ重い(「EVモデル」が1650kg、「ロータリーEV」が1780kg)んですが、乗り味は同じになるようにしています。

マツダMX-30ロータリーEV(欧州仕様)のメカニズム透視図

鈴木:ですが乗り味は「ロータリーEV」の方が良く感じました。……気のせいでしょうか?(笑)
岩田さん:恐らく前後重量バランス、パワートレーンの配置の関係でフロントが重いなど、ちょっとした違いで、フィーリングにマッチしたのかもしれませんね。開発上は、同じ特性を狙っていくのが基本方針でしたが。

マツダMX-30EVモデルのメカニズム透視図

鈴木:エンジンは、かかるとそれに気づきますが、全然不快ではありませんでした。
岩田さん:そこは私が心血注いで取り組んできたことですので、良かったです。
鈴木:ただ、彼(筆者)は以前、RX-8の長期レポートを1年ほど担当していたので、「ロータリーエンジンが欲しいという人が乗るとガッカリするだろう」と。
岩田さん:今回の8C型は1ローターということが、従来の13B型からの最も大きな変化点ですね。レシプロエンジンでも4気筒と6気筒とで音の雰囲気が全然違い、気筒数が増えるほど甲高さが増してきますよね。それはロータリーエンジンも同じで、1ローターがゆえに音色は低い周波数になります。最高回転数も4500rpmに留まる範囲で使っていますので、「高回転まで回したい」というロータリーファンの気持ちいい所は、その4500rpm付近しかないんですね。

MX-30ロータリーEVに搭載される8C型1ローターエンジン
RX-8に搭載されていた13B型2ローターエンジン

鈴木:私は何も感じない、エンジンがあることがわからないくらいの方が良いと思っているので、その観点ではもっと静かで振動もなく、「エンジンかかってたの!?」というくらいになってくれたらもっといいのに、と感じました。そのうえで、EVとして600km走れる方が嬉しいですね。ロータリーエンジンの甲高さが欲しいわけではなく、EVの方が走りは気持ちいいですし、静かな方がいいに決まっているので。
岩田さん:これは本当にいろいろなご意見がありますね……。
鈴木:みんな勝手なことを言うだけですから(笑)。

一堂:(笑)。

ロータリーサウンドをどうするか?

岩田さん:「せっかくロータリーエンジンが載っているのだから、もう少しそれを感じられるようにしてほしい」という意見の方が多かったですね。本来の開発の意図としては、黒子に徹するということでしたが。低い周波数への対策をやり切るには、振動の遮断を含めて質量が増えます。また人間の感覚からすると、操作したら音でのフィードバックがあった方が寛容になれる、理解できますし、同乗者も「何か変わった」と感じることで無意識ながらも身構えられるので、車酔いしにくくなることが研究でわかっているので、かすかに残した方が良いということになりました。あまり静かすぎると、次に何が起こるかがわかりにくく、無意識的に不安になり、緊張しますので。

鈴木:でも、EV走行時はエンジンがかかっていないわけですから……。
岩田さん:EV走行時もうっすらとEVサウンドを作って入れているんですね。恐らくは心地良い音をきっちり体感させるのが理想ですが、現時点では100点満点の出来にはなっていないのだろうと、ご意見を伺って感じました。

鈴木:先日ヒョンデさんの「IONIQ5 N」にサーキットで試乗しましたが、それはBEVながら完全にスポーツサウンドを作り込んでいて、パドルシフトを使うとシフトアップし、レブリミットに当たるとフューエルカットされるような演出が入っているんですね。最初に説明を聞いた時は、疑似音なんておかしいと感じましたが、いざ乗ってみるとすごく楽しかったです(笑)。
岩田さん:そういったものをすぐに商品化できるかはわかりませんが、技術的には可能だと思います。
鈴木:ロータリーエンジンの音を聴きたい人には聴かせてあげればいいと思います(笑)。2ローターや3ローターの綺麗なサウンドを、室内にいる人だけ聴けるとか、車外にも聞こえる音量を5段階で調節できるとか。
岩田さん:お客さんが好みで選べるというのも、ひとつの価値提供の方向性かもしれないですね。ただ、極力多くの方に喜んでいただけるようにということを主眼に開発してきましたので、頑張ってはきたんですが、進化の余地があると受け止めれば、次なるモチベーションになります。まずはクルマとして気に入っていただけるかということが出発点なので、この新しい動力源がひとつのポジションを築けたら……。

ヒョンデIONIQ5 N

遠藤:ロータリーエンジンを体感したことがなく、先入観も持っていなければ、本当に何も言うことはないと思います。ただ、「ロータリーエンジンは甲高くてウルトラスムーズで……」という先入観を持っていると、「あ、違うな」と感じてしまうのではないかと。
岩田さん:期待されたロータリーエンジンの雰囲気とは違う、と感じるわけですね。
遠藤:ただ、行きは運転し、帰りは後席に乗りましたが、運転席にいる方が、エンジンの始動に気づきにくかったですね。高速道路ではドライブモードを「チャージ」にしなければわからないくらいでした。後席ではエキゾーストノートが後ろから回り込んでくるように感じましたが、これは実際の排気音ではなく、エンハンサーで作った音でしょうか?
岩田さん:恐らく、後方のエキゾーストパイプからの振動が入ってきているのを感じ取っているのではないかと思います。
遠藤:それも意識しないとわからないくらいのレベルでしたので、普通の人はBEVと思ってしまうのでは……。
岩田さん:もっと静寂な環境ではもっとわかりやすい場面もあると思いますが、関東は交通量が多く、周辺の音もありますので、本当に気づきにくいと思います。
遠藤:舗装が真新しい所ではエンジンの始動がわかりますが、それがなければ本当にわからないですね。音が入ったとしても気にならないレベルでした。
岩田さん:「これくらいなら気にならない」というレベルがどのくらいなのかが、開発の中でも期待値を探っていたところですが、いかがですか?
遠藤:これ以上静粛性を高めることで車重が重くなるのなら、対策しない方が良い気がします。振動が全然ありませんから。音質的にはフィアットの2気筒エンジン「ツインエア」のような雰囲気を感じましたが(笑)。
岩田さん:どうしてもそれはそうならざるを得ませんし、打ち消しもありませんので……。
遠藤:音よりも振動がないことが良いのではないかと感じました。
岩田さん:落ち着いているということですね。

MX-30ロータリーEVにおけるサウンド開発の考え方

遠藤:郊外のカーブが多い道を走っていても、ノーズが重い感覚はなく、かといって「EVモデル」のようにフロントがスカスカな雰囲気もなく、駆動輪のフロントタイヤへ適度に荷重がかかっていると感じました。前後重量配分もある程度前側にあるので、前輪駆動としてはちょうどいいバランスになっているのではないかと。
岩田さん:エンジンがかかっている状態でアクセルペダルを踏むと、少し発電量を上げて、エンジン回転が上昇するような演出を入れるなど、そういう味付けにもこだわって、フィードバックを感じてもらえるようにしました。

遠藤:現状の8C型ロータリーエンジンは完全にレンジエクステンダーとして合わせ込んでいるんでしょうか?
緒方さん:そういう面もあります。最高回転数は4500rpmですが、多少余裕はあるにしても、13Bのように9000rpmまで回す余力がない部品もあります。今回は小さく軽く作るために、強度よりもコンパクトさを優先しましたので、従来よりも範囲が狭い、発電用に特化したところもあります。
岩田さん:普通のPHEVよりはレンジエクステンダー的ですね。あくまで充電をして、電気で走る。他社……日産さんのe-POWERは早い段階からエンジンに頼りがちで、籠もり音や高周波の煩わしい部分が、静かになってきているとはいえエンジンらしい雰囲気ですね。
鈴木:エンジンがかかったらすぐにわかりますよね。
岩田さん:そこで、エンジンで聴きたい部分だけをちゃんと残しながら、煩わしい籠もり音は抑えるという点を、今回のMX-30では頑張っていますが、「ここで終わりではないぞ」という気持ちをエンジニアとしては持っています。

「e-スカイアクティブR-EV」の作動イメージ

8Cロータリーのもっとも効率の良い回転数は?

鈴木:8Cの場合、最も効率の良い回転数はどの辺りになるんですか?
岩田さん:3000〜4000rpmの高負荷領域ですね。逆にロータリーエンジンは昔から低負荷領域が苦手です。空気を入れる部屋があって、それを違う部屋に連れていきながら燃料を燃やすというのは、普通のエンジンとは違う所が多すぎますね。
鈴木:エンジンがかかった場合は、その3000rpmを維持した方が、本当は燃費が良くなるんですか?
岩田さん:そうですね。効率の良い回転と負荷の領域を使い続けるのが、良くなります。ですがそれよりも、アクセルペダルを踏んだ時の運転感覚を自然なものにしたいということですね。
鈴木:ロータリーエンジンといえば燃費が悪いと言われがちなので、最も効率が良い回転域を維持した方がモード燃費も上がりますし、普段は音を消しておいて、本当に聴きたい音だけ聴かせればいいのでは……?
岩田さん:本当の、元々の理想はそういう考え方でしたね。乗員にはエンジン音が本当に聞こえない、伝わらないようにして。
鈴木:エンジンの美味しい領域だけ使って、乗員に伝えるのは音や振動を作って聴かせ「ああ、気持ちいいなあ」と感じさせて、ペダルにも伝わるものがある……というのが理想ですよね。
岩田さん:ある意味では。お客様が、車両自体は本当に静かにして、擬似的な音を聴かせるのがいいのか、作り手側の事情もありますが、ちゃんと機械の音を存在感として聴かせたらいいじゃないかというご意見もあるなかで、質量をかけてでも静かにした方がいいのか、そこも難しいですよね。

MX-30ロータリーEVと他社製シリーズハイブリッド車との速度域ごとに異なる燃費性能の比較イメージグラフ

MX-30じゃなかった欲しかったのに……って声がありますよ

鈴木:MX-30というクルマがよくわからないですよね。高級車ではないし、大衆車でもない。「ロータリーEV」は423万5000円からですが、このクラスのBEVは600万円以上するのに対し、全然安いですが、でも安っぽいクルマではない。どこまでお金をかけて音を消し、重くして、乗り心地を良くするのか、MX-30は他のモデルとは違うヒエラルキーにあるので、余計難しいと思います。
岩田さん:我々としても初挑戦なので、経験を積み重ねながらポジショニングを探っていきたいと思っています。
鈴木:日産さんの先代ノートe-POWERがそうでしたが、マツダさんもCX-30やCX-5など王道のクルマに最初から搭載して、「マツダとして売りのパワートレーンのひとつです」と言った方が、受け取るお客さん側としては納得しやすいと思います。試乗中もふたりで話しましたが、パワートレーンはすごく気に入ったのに、それがMX-30では、乗り降りしにくいので買えない人がたくさんいるんですね。
岩田さん:そうですよね。そういうご意見はたくさんいただいています。
遠藤:MX-30はパッケージにどうしても難があります。
岩田さん:ロードスターを買ってもいいという人が、「いざとなったら4人乗れるのがいい」という特殊な状態にならなければ、「これからの一台をどうしよう?」という人には、MX-30のパッケージは難しい部分があると思います。
鈴木:後ろに乗ったら、何かあった時にすぐ出られるのと、他の人に開けてもらわないと出られないのとでは大きな差があると思います。
遠藤:特に女性はその点をすごく気にするので、その時点でかなり厳しいと正直思います。
鈴木:私はこれを応援したいから買おうかと思い、購入シミュレーションもたくさんしました。補助金がいくら出るのかも調べましたが、結局買えなかった。「マツダ3やCX-30ならすぐ買ったよ」という人は多かったのでは?
緒方さん:そういうご意見は多いですね。
鈴木:今後の展開を考えていらっしゃると思いますので、早く次の車種を発売してほしいですね。

MX-30の観音開きドア「フリースタイルドア」

遠藤:もっと言えば、MAZDA2のような小さいクルマにも、もし現状のパッケージで可能であれば搭載してほしいですね。8CはMAZDA2くらいのエンジンルームにも入るんですか? バッテリーは容量を小さくするなどの変更が必要だと思いますが……。
緒方さん:おっしゃる通り調整は必要ですが、全高の制約はBEVと一緒で、MAZDA2になると最低地上高の問題が出てきます。特にロータリーエンジンはレシプロエンジンと違い、出力軸がエンジンの真ん中にあるので、重心を低くできるメリットはあるんですが、オイルパンが下に出てしまうんですね。そこで最低地上高が下がると、オイルパンを薄くしていかなければならないので、そういった点が悩ましいですね。企画としては当然アリだと思います。
岩田さん:他社が3気筒エンジンを用意しなければならないのに対しては、ロータリーエンジンはコンパクトで必要充分な出力が得られることを考えると、そういう可能性に関しては、自由度や制約に対してはある程度強いユニットだと思います。
遠藤:そこは単純にレシプロより小さいから万々歳というわけではないんですね。
緒方さん:パワートレーンのユニットとしての価値は、PHEVだけど小さいということですね。普通に作ってしまうと、BEVと内燃機関の両方を持っているので、大きいクルマにしか載らないのですが、それが小さなクルマもスコープに入るのが、やはりこのユニットの一番の特徴ですね。そこをどんどん尖らせていくというのは、方向性としてはアリだと思います。

最高速140km/h、欧州で不満は出てませんか?


遠藤:ロータリーエンジンは高負荷領域の効率が良いとのことですが、MX-30ロータリーEVの最高速度を140km/hとしたのは、単純にモーターの問題ですか?
岩田さん:回転限界などを考え、そのように設定しました。
遠藤:それ以上速度を出そうとすると、ロータリーエンジンの方も効率は悪くなる?
岩田さん:ロータリーエンジンももっと高回転まで回すなど、出力を上げる方向で考えなければならないと思います。これも「あともう10km/hくらいは……」という声が多いですね。
遠藤:ヨーロッパで最高速度140km/hというのはどうなんでしょうか?
岩田さん:先行したヨーロッパでの試乗会では、好意的な意見が多かったですね。私もパワートレーン開発の人間なので、このユニットをもっといろんな車種に搭載してほしいと思いますが、マツダとしてはまずは際立たせて、そのうえで順序立てて進めなければならない……という考えだと思います。でも、メディアの方からも、「どんどん普通のクルマに載せるべきだ」という声を盛り上げていただけると……それはそれで新しい悩みが出てくるかもしれませんが(笑)。

8C-PH型1ローターエンジンとMH型モーターを搭載する「ロータリーEV」のエンジンルーム

遠藤:だからこそこのユニットは、MX-30のような特殊なクルマではなく、普通のクルマに載せてほしかったですね。MX-30ロータリーEVは、ロータリーエンジンに何の先入観も持っていない人が普通に乗って、普通にすごくいいクルマだと思います。そのチグハグ感があるのはもったいないですね。
緒方さん:MX-30がマツダの電動化の入口のモデルであり、MHEVとBEVと今回のロータリーPHEV、3種類のパワートレーンでそれを体現するのが、このプロジェクトのミッションですね。
岩田さん:「それはわかるんだけど、普通のクルマに載せてくれれば良かったのに」ということですよね。
鈴木:マツダさんのロジカルな考え方は、私にはよくわかりますが、でも買う人にとっては関係ないことですから。
遠藤:もっとマーケットインで考えてほしかったですね。
岩田さん:考えた末に、選択できるものを選んだ結果、こうなったのだとは思いますが、それは本当に貴重なご意見だと思います。「マツダはいつもおかしなことをやっているけど、もうちょっと考えろよ」と、「せっかく面白いものを作っているんだから、もっとたくさんの人に乗ってもらえるようにした方がいいよ」と書いて、それぐらい激励していただけるといいと思います。

MX-30ロータリーEVの商品コンセプト

ロータリーEVパワートレーンの横展開は?

遠藤:今回のロータリーエンジンは車種の横展開もさることながら、エンジン自体のバリエーション展開も期待してしまいます。ジャパンモビリティショーに出品された「アイコニックSP」が示唆するようにパラレルハイブリッド、あるいは直接動力源とする純粋な内燃機関としてのロータリーエンジン、また燃料もガソリンだけではなく水素や灯油なども考えられるのでしょうか?
緒方さん:回そうと思えば回せますが、信頼性や耐久性の問題がありますね。
遠藤:クルマ以外の用途も考えられそうな気がします。
緒方さん:もう終わってしまいましたが、コジェネレーションシステムの発電用として使ったりしていました。
岩田さん:以前はプレマシーに水素ロータリーエンジンを搭載して研究していましたね。
遠藤:以前RX-8の水素エンジン車に試乗させていただきましたが、ああいったものも市販化されるといいですね。今回のロータリーエンジンは、ある程度汎用性を持たせて作られているのでしょうか?
緒方さん:今回の8C型エンジンについてはガソリン用ですが、ロータリーエンジンという技術に関しては燃料の雑食性が高いので、使用燃料に合わせて準備すれば広く展開はできると思います。もちろん変更しなければならない点はたくさんあるんですが。

マツダ・プレマシーハイドロジェンREハイブリッド(左)、RX-8ハイドロジェンRE(右))

鈴木:MX-30はマルチソリューション戦略で、MHEVとBEV、そして今回のロータリーEVが設定されていますが、これでMX-30のBEVを買う人はいなくなりますよね?
岩田さん:このシステムが好評を博すと、そうなりますね。
鈴木:BEVも好きなんですが、実質190kmくらいしか走れないとなると、600km走れるロータリーEVの方が良いということになりますよね。値段も補助金もほとんど変わらないとなれば、あえてBEVを選ぶ人はいないと思います。
岩田さん:営業の現場では、電欠の不安を抱えるBEVのお客さんがロータリーEVを試乗しに来ることが多いようですね。そうした心配事のソリューションになると。
遠藤:200km走れるBEVとなると、他に選択肢がたくさんあるのもまた厳しいですよね。具体的には日産サクラが圧倒的に強いでしょうが、そちらに流れそうなお客さんをロータリーEVで引き戻せるかもしれません。

フル充電フルタンクで横浜〜広島まで走れる?

鈴木:ロータリーEVは17.8kWhのバッテリー満充電・50Lのガソリンタンク満タンの状態で、ここ(マツダR&Dセンター横浜)から広島の本社まで行けますか?
岩田さん:ノーマルモードでしたら600〜700km走れますから、大阪くらいまでは行けると思います。
鈴木:WLTCモードハイブリッド燃費は15.4km/Lだから……。
岩田さん:これはエンジンがかかっている状態だけの燃費ですので、EV走行込みならもっと航続距離は伸びる方向に行くと思いますが。
鈴木:15.4km/Lで燃料タンク50Lなら770km、プラスEVモードで107km走れるので、広島にも行けそうですね(*Googleマップで調べたら、約800kmだった)。
岩田さん:これからの寒い時期は厳しそうですが(笑)。
鈴木:それだけ走るのは、このクルマでなければできないと思います。
岩田さん:ありがとうございます。

鈴木:100km以上EV走行できるとなれば、普通の人はほとんどガソリンを使わずに走れると思いますが、ガソリンタンクには何Lくらい入れておけばいいんでしょうか?
岩田さん:EV走行ばかりの人は、ガソリンはタンクの半分くらいでいいでしょうね。1年間で25L使わないとメンテナンスモードで強制的にエンジンをかけざるを得ない仕様になっています。でなければ腐食してしまうので。ノーマルモードで使っていただいて、時々エンジンをかけながら乗っていただくのが良いと思います。

「e-スカイアクティブR-EV」のシステム構成図

鈴木:このロータリーエンジンをSKYACTIV-Xのようにしてはいけないと思います。だんだん設定車種が少なくなってきましたが……。
岩田さん:世の中の内燃機関に対する逆風がすごいですが、技術屋としてはもっといいところ、高められる余地はいっぱいあると思っているので、盛り上げていきたいですね。
遠藤:このMX-30ロータリーEVは、マツダさんが初代CX-5以来目指してきたクセのない走りの、ひとつの到達点だと思います。ありがとうございました!

マツダMX-30ロータリーEV

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…