マツダはどこへ向かうのか?「ロータリー復活」と究極の内燃機関を目指す「SKYACTIV-X」

発電専用ユニットしてロータリーエンジンを復活させたマツダ。なぜ、いまロータリーを復活させたのか? マツダには世界最先端の革新的エンジン「SKYACTIV-X」もある。電動化時代を将来に見据えて、マツダはロータリーエンジンとSKYACTIV-Xをどうしていくのだろうか? パワートレイン開発・技術研究所担当の執行役員、中井英二氏に話を伺った。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

8C型1ローター・ロータリーエンジンの本質

マツダが発電用に新たに開発した8C型1ローターロータリーエンジン

電気自動車(BEV)としての機能を拡張するために発電専用のロータリーエンジンと発電機、それに50Lの容量を持つ燃料タンクを載せたのが、マツダMX-30ロータリーEVだ。エンジンは電欠後の航続距離を延ばすための黒子的な存在だ。しかし、ロータリーエンジンを積んでいることに心を躍らせる気持ちもわかる──。

果たして、この新種の乗り物をどう理解したらいいのだろうか。パワートレイン開発・技術研究所担当の執行役員、中井英二氏に話を伺った。

──MX-30ロータリーEVはあくまでBEVとして使ってほしいと。遠出をするときはバッテリー残量の心配をしないで乗ることができると。そういう商品紹介でした。
中井英二氏(以下敬称略):そうです。最初はレンジエクステンダーとして開発を進めたのですが、レンジエクステンダーはレンジ(航続距離)をエクステンド(延長)するだけです。決してそういうクルマを作りたいわけではなかったので、電池容量は(MX-30)EVモデルの半分(17.8kWh)なのですが、(WLTCモードEV走行換算距離で)107km走れるようにしました。急速充電もできるようにしているので、約25分で20%から80%まで充電できます。

──BEVとしての使い勝手を高めるためのエンジンという位置づけ?
中井:そうです。電池を積み、モーターを使って走るクルマです。その電池に外から充電するのか、中から充電するのか。両方あるのがロータリーEV。中からはロータリーエンジンで充電する。そういうクルマです。

8C型ロータリーを発電用に積むMX-30 RE-EV

──混乱を招くのは、このクルマがロータリーエンジンを積んでいるからだと思っています。
中井:
例えば3気筒のガソリンエンジンを載せようと思うと、(スペースの関係から)125kWのモーターは載りません。EVモデルは140km/hの最高速が出せるのですが、電欠してもそれに近い車速を出すためには、53kWの発電用エンジンが要る。ちょうど私たちの資産としてロータリーエンジンがあったものですから、それを載せてEVとして使っていただける。

──BEVとして使い勝手のいいクルマを買ったら、たまたまロータリーエンジンが発電用エンジンとしてついてきたと?
中井:そう捉えてほしいです。
──ロータリーエンジンを積んでいるからこのクルマが欲しいという人もいるでしょう?
中井:もちろん、おられるでしょう。そのことはまったく否定しませんが、将来の電動化に向けた一歩として、まずEVに乗ってみたい人のバリアを外す。その考え方がひとつあります。

──新開発した8C型のロータリーエンジンは発電専用。ノーマルモードを選択して走っているときにバッテリー残量が45%近辺になると、発電のためにエンジンがかかりはじめます。エンジン音は聞こえないようにする方向で開発したのでしょうか。それとも、聞こえてしまうんだったらいい音にしようと取り組んだのでしょうか?
中井:一所懸命消してはいます。だけど出てしまうので、運転の情報として聞かせようとしています。加速に合わせてエンジン音をシンクロさせるようにしています。

──高めのエンジン回転数を使っているように感じますが。
中井:そうですね。3000から4000rpmくらいで回っています。ロータリーエンジンはレシプロと違って高回転・高負荷になるほど(低回転域に比べて相対的に)燃費がいいので、どうしても高回転を使いたくなる。短い時間でパッと充電できるように、高い負荷をかけて運転しています。(ロータリーは)効率のいいエンジンとは言いにくいのですが、効率良く充電をしています。コンパクトなので、スペース効率は抜群にいい。

──マツダはもともとシングルローターから開発を始め、振動面がつらいので2ローターにした経緯があります。シングルを高負荷で使うとなると、トルク変動が課題になったりしないでしょうか。パルス的な振動が出たり。
中井:パルス的な振動に対して、2ローターならパルスとパルスをぶつけて打ち消すことができます。シングルはそれができないので、そこは気にして開発したところです。

──マツダが得意とするMBD(モデルベース開発)であたりをつけるのでしょうが、実際には実機でないと検証できない。
中井:モデルベースといっても、知らないものはモデルにできません。まずは知ることが大事。ガソリンやディーゼルはすでに知っていることをモデルにし、それを組み合わせて新しい価値を生み出す。何も知らないことは、まず知ることから始めなければなりません。だから、すごく時間がかかるし、難しい。ロータリーエンジンは本当に難しいです。

1ローターの8Cは13Bと比較してもコンパクト。レシプロ直3エンジンより遥かに軽量コンパクトだ。

──13Bは654cc×2だったのに対し、8Cは830ccと排気量が大きくなっているので、なおさらトルク変動による振動対策は難しい?
中井:エンジン自体は結構スポーティな動きをしているんですよ。なにしろ、高回転・高負荷をずっと使っていますから。発電用エンジンと言っていますが、ロータリーらしい使われ方はしています。

──中井さんご自身は、どのような方にMX-30ロータリーEVを買っていただきたいと思っていますか?
中井:EVに乗りたいと思っていながらも電欠を心配されている方に乗っていただきたい。

──一度モーターの走りを味わうと虜になる
中井:そう思います。モーターはなめらかに走ります。私たちはディーゼルもガソリンもX(SKYACTIV-X)もなめらかな走りを目指していますが、EVだとさらに緻密にできる。車両運動を緻密に制御できるのは間違いありません。4気筒から6気筒にしても緻密になりますが、モーターは無限気筒みたいなものですから。

──内燃機関はどこまでいってもインターバルがある。
中井:ま、それがいいんですけどね(笑)。MX-30ロータリーEVは、いま内燃機関に乗られている方も違和感なく乗り換えていただけるでしょうし、ハイブリッドに乗っている方も違和感なく乗り換えていただける。間口は広いと思っています。

──エンジンを発電専用に使うシリーズハイブリッドという意味では、日産のe-POWERと共通しています。
中井:MX-30ロータリーEVは電池がしっかり載っている(エクストレイルの1.8kWhに対し17.8kWh)のが大きな違いです。電池をしっかり載せて、あの重さ(車重1780kg)をしっかり走らせようと思うと(発電用エンジンに)50〜60kWないと厳しい。それはロータリーでないと難しい。そう考えると、ライバルは現れない可能性があります。なぜなら、マツダしか作れないはずだから。ひそかに独自の道を歩いていると思っています。

──ロータリーエンジンを待ち望んでいたファンに向けてはどのようなメッセージを送りますか?
中井:ロータリー復活しましたよと。
──発電用エンジンとして存在感を消している格好ですが、それでも復活だと?
中井:
復活したことに違いはありません。いまはBEVの時代ですから、そこは違う見方をしていただかないと。

パワートレーン:8C-PH型 エンジン形式:水冷1ローターロータリーエンジン 排気量:830cc 圧縮比:11.9 最高出力:72ps(53kW)/4500rpm 最大トルク:112Nm/4500rpm 燃料供給:筒内燃料直接噴射 燃料:レギュラー 燃料タンク容量:50L

SKYACTIV-Xはどうなっている?

革新的な燃料方法(SPCCI)を採用したSKYACTIV-X

──ロータリーから離れますが、マツダは究極の内燃機関を目指してガソリンエンジン、ディーゼルエンジンを両面から追求しています。理想状態をサード(3rd)ステップに位置づけ、ガソリンはセカンド(2nd)ステップのSKYACTIV-Xを2019年に出しました。ディーゼルはやはりセカンドステップのSKYACTIV-D 3.3を2022年に出しています。中井さんもX(CX-30)にお乗りだそうですが、当方も同じX乗り(MAZDA3)として、Xの進捗が気になるのですが。
中井:XはXの方向で進めていきます。ディーゼルは予混合燃焼の領域をだいぶ広げました。そこを広げるのがセカンドステップのひとつの使命でした。WLTCモードの全領域において予混合燃焼で走れるようにできています。

──ガソリンのXはリーンといってもA/Fリーンの領域は狭く、EGRを含んだG/Fリーンの領域が広いのが現状。A/Fリーンの領域を増やしていく方向でしょうか。
中井:A/Fリーンの領域を広げたいのですが、広げるといろいろありまして。

──NOxが出るので後処理装置が必要になる。
中井:技術としては正しい方向なのですが、エミッション規制が厳しくなってきているので、少し難しくなってきています。だけど、G/Fリーンは狙えます。G/Fリーンでも比熱比は充分上げることができます。既燃ガスなので空気を燃やすより難しいのですが、圧縮着火なら火が強いので燃えます。λ=1のむちゃくちゃ(G/F)リーンバーンをやるとさらに燃費が良くなり、三元触媒が使える。

──その方向で進んでいると?
中井:それが進化の方向ですね。あとは遮熱です。遮熱し、熱に換えないで仕事に換えてあげる。そういうことをやってどんどん効率を上げていく。遮熱はガソリン、ディーゼルともに進めています。で、そのうちカーボンニュートラル燃料(CNF)になります。軽油タイプとガソリンタイプ、どちらのCNFが入手しやすくなるかわかりませんが、流行ったほうにアジャストすればいい。そうすれば、最後まで内燃機関が使えます。

──マツダはガソリンとディーゼルを両方持っているので、どっちのタイプのCNFでも対応できる。
中井:そうです。それに、ロータリーが復活しましたからね。あれはH₂(水素)でもCNG(天然ガス)でも、何でも食べる。その意味でCNFに向いています。熱効率には向いていませんが、きれいに燃やすことはできる。ガソリン、ディーゼル、ロータリーと性格の違うエンジンで、電動化とセットのカーボンニュートラルに向かっていくことができる。こんなことができるのは、地球上探してもマツダしかいません。

──世の中、状況がどんどん変化していくので、対応するのが大変。
中井:ぶれずに理想を追い求めて真っ直ぐ進めば大丈夫だと思っています。

──ちょっと横道にそれましたが、貴重なお話を伺うことができました。ありがとうございました。

キーワードで検索する

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…