5年で「内燃機関より速くなる」? フォーミュラEのCEOが語ったEVレースの青写真

電動モータースポーツの最高峰選手権であるフォーミュラEは今年3月に初めて日本でレースを開催する。それに先駆けて実施されたPRイベントには選手権のCEOが出席。東京大会とEVモータースポーツの展望を語った。

TEXT●柴田久仁夫(SHIBATA Kunio) PHOTO●Formula E/日産/編集部


EVモータースポーツの最高峰、FIAフォーミュラE世界選手権が3月30日、ついに東京で開催される。これまで小規模なゴーカート大会などはあったが、一般道を使用しての本格的な四輪レースは日本初の試みだ。

開催まで2カ月強となった1月18日、チケットの先行販売がスタートした機会に、フォーミュラEオープニングセレモニーが東京都庁で実施された。
会場の中央には大スクリーンのレーシングシミュレーターが設置され、東京ビッグサイトを中心とした特設サーキットの映像が忠実に再現されている。そこに主催者である東京都の小池百合子知事と、フォーミュラEオペレーションズのジェフ・ドッズCEOが登場した。

Formula E Event

フォーミュラE東京大会のチケット先行抽選販売がスタート! 都庁のシミュレーターでは市街地サーキットも“体感”可能

日本で初めて四輪での市街地レースとなるフォーミュラE東京大会。開催まで2カ月強となった1月18日、東京都庁にて大会をPRするイベントが実施された。チケットの先行抽選販売がスタートしたのと同時に、東京大会のコースを体感できるシミュレーターが設置されたことが明らかになった。

東京都は排ガスゼロを目指す「Tokyo ZEV(Zero Emission Vehicle) Action」キャンペーンを推進しており、フォーミュラE東京大会の開催が、その起爆剤となることへの期待が大きい。小池都知事は「かなり長い準備期間を経て、ようやく今日を迎えることができました」と、感無量の表情だった。一方、フォーミュラE側も日本での開催を熱望していただけに、ドッズCEOによれば「完璧なタイミングで、両者の利害が一致した。交渉は非常にスムーズに進んだ」とのことだ。

2024 Formula E Tokyo E-Prix

オープンセレモニーでは小池都知事が自らシミュレーターに乗り込み、ステアリングを握った。反時計回りの特設コースは全長2.6km、18のコーナーと3本のストレートを有し、最高速は250~300km/hに達するという。
「自動車の運転自体久しぶりだったので、おっかなびっくりでした」と感想を語っていた小池都知事だが、クラッシュやコースオフもなく、無事に1周を走り切った。すかさずドッズCEOが「初めてのシミュレーターで、100km/hまで引っ張ったのは素晴らしい。都知事が出したこのラップタイムが、まずは東京大会の公式最速記録です」と、ユーモアたっぷりにコメントし、息の合ったところを見せていた。

ドッズCEOは東京という世界有数の大都市でフォーミュラEが開催されることは「非常に大きな意義がある」と語る。
「自動車産業、そしてモータスポーツにおける先進国であり、たくさんの熱いファンがいることでも有名な日本、その首都での開催だからね。しかも、これまで公道での自動車レースは、一度も開催されたことはなかった。フォーミュラEがその先陣を切れることに、興奮を抑えきれない。コース自体、他地域と差別化ができる素晴らしいレイアウトであり、世界最高レベルの22人のドライバーが素晴らしいレースを繰り広げてくれるだろう」

フォーミュラEには日産が早い時期から参戦し続け、ブリヂストンも将来的な参入を決めている。
「日産の貢献は、本当に大きい。同時に彼らはここで得たデータを、市販EV開発に活かしている。非常に幸福な、ウィン・ウィンの関係だね」と語るドッズCEO。
「他の多くの日本企業も、大きな興味を持ってくれている。ただ実際にレースを見たことのない企業も多い。なので今回の開催は、彼らが間近でフォーミュラEを体験できるという点でも、非常に意義深いと思っている」

実はドッズCEOは2000年代、ホンダF1チームでマーケティングディレクターを務めていた。電気エネルギーの比率が増えているとはいえ、今も内燃機関搭載マシンの頂点に立つF1に、かつてはどっぷり浸っていたことになる。

「今もF1関係者の中には、EVレースの将来に懐疑的な人々は少なくない」と、ドッズCEOは語る。
「ホンダにしても一時はフォーミュラEへの参戦を検討しながら、最終的に取りやめた経緯があるしね。おそらく当時のホンダはトヨタ同様、ハイブリッド戦略をより重視していたからだと思う。純粋な電気自動車への移行により慎重になっていることが、モータースポーツ活動にも反映しているのだろう」

かつてフォーミュラEに参戦していたメルセデスやアウディ、BMWも、次々に撤退を決めている。
「確かに。しかし、一方でフォーミュラEには、ポルシェ、ジャガー、日産、そしてDSマヒンドラがいる。さらにマクラーレン、マセラティ、アンドレッティやペンスキーといった著名なレーシングチームも参戦している。実に魅力的な顔ぶれが揃っていると言っていい」

ドッズCEOはEVレースの将来についても、「非常に楽観的に捉えている」という。

「レースの魅力は、「競争力」と「スピード」のふたつだと私は思う。EVの潜在的な速度能力は内燃機関よりはるかに高く、加速もはるかに力強い。なのでモータースポーツのファンは今後4~5年の間に、内燃機関よりはるかに速いEVレーシングカーを目にすることになるはずだ」
「競争力という点でも、たとえば2023年のF1はマックス・フェルスタッペンが22戦中19勝を挙げる展開だった。一方のフォーミュラEでは昨年だけでも、6人の異なるレース勝者がいた。どちらのほうが見ていてエキサイティングかは明らかだ。フォーミュラEはこれまでも進化を続けてきたが、第4世代マシンが導入されれば車はますます速くなり、バッテリー容量も大きくなり、より長くレースができるようになる。フォーミュラEの未来は、EV同様に明るいと私は信じているよ」

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