いすゞ・ミューに新型が登場!? 海外で人気のピックアップ「D-MAX」をベースにしたSUV「MU-X」をチェック! 日本で買えないのが残念すぎる

かつてはこだわり満載の個性的な乗用車を送り出し、コアなファンを抱えていたいすゞ自動車だが、2002年にSUVを含め日本での乗用車販売から撤退してしまったことは、皆さんもご存じの通り。現在は、日本を代表する商用車メーカーのひとつとして国内外で活躍しているが、海外市場においては、今もSUVを作り続けている。その名には、かつて日本では販売されていたモデルを彷彿させる名が与えられている。そのいすゞ最新SUV「MU-X」を、タイ・バンコクのモーターショー「モーターエキスポ2023」でチェックした。
REPORT&PHOTO:大音安弘(OHTO Yasuhiro)

ピックアップトラックベースのタフSUV

いすゞMU-Xは、同社のピックアップトラック「D-MAX」と基本を共有するラダーフレーム構造を持つ本格SUVだ。初代は2013年にデビュー。現行型は、2020年に発表された二代目で、2023年10月に改良を受けたばかりだ。

いすゞ・MU-X

その名の呼び方は、「ミューエックス」と、かつて日本でも活躍したコンパクトSUV「MU(ミュー)」の後継とも思えるもの。ただ、その名に込められた意味は若干異なる。日本でも販売されていた「MU」は、英語の「mysterious(ミステリアス)」と「Utility(ユーテリティ)」を組み合わせた造語であり、スペシャルティなSUVであることを予感させるものであった。

二代目いすゞ・ミューの2001年モデル。

それに対して、「MU-X」は、「Multi Utility」の頭文字を取ってものに、シートアレンジによりフレキシブルな乗車人数の対応可能な機能性に加え、早い(エキスプレス)や極限(エクストリーム)なクルマという意味が「X」に込められているという。
ちょっと現実的な名前となったようにも思えるが、響きやラダーフレーム構造のSUVという共通点があるのだから、MUの系譜といっても良いのではないだろうか。

いすゞ・MU-X

MU-XもSUVのひとつであることは間違いないのだが、厳密に言うとPPV(Passenger Pickup Vehicle)と呼ばれるカテゴリーになる。その意味するところは、ピックアップトラックベースの乗用モデルであり、他社ではトヨタがハイラックスベースの「フォーチュナー」、三菱がトライトンベースの「パジェロスポーツ」、日産がナバラベースの「テラ」を展開している。

トヨタ・フォーチュナー
三菱パジェロスポーツ
日産テラ

ただ乗用モデルとして展開されるため、高い悪路走破性を含めた基本性能はD-MAX譲りだが、快適性や高級感にも注力しているのが特徴のひとつ。このため、単なるSUV仕様ではなく、フロントマスクも変更するなど、明確な差別化も図られている。

いすゞ・D-MAX(V-CROSS)

まずサイズを比べてみよう。D-MAXの最上級仕様V-CROSS(ダブルキャブ)との比較だ。

車名D-MAXMU-X
 グレードV-CROSS 4×4 3.0Ddi M 4ドアAT4×4アルティメット ファントムコレクション AT
全長5280mm4850mm
全幅1870mm1870mm
全高1810mm1875mm
ホイールベース3125mm2855mm
最低地上高240mm235mm
乗車定員5人7人
D-MAXとMU-Xのボディサイズ比較

上記にあるように、ホイールベースを含め、ボディサイズが専用化されるほか、トランスミッションもATのみとなる。さらにリヤサスペンションも、D-MAXがリーフスプリングなのに対して、MU-Xでは5リンク式にアップデートされているので、はっきりとした乗り心地の違いも感じられそうだ。

乗用車らしい充実した装備にアップデート

今回の改良では、フロントグリル内フィンのクロームブラック化や新デザインのアルミホイール、新ボディカラーの採用など外観上の差別化は小変更に留められている。
新機能としては、オートマチックテールゲートの開閉をステップセンサーが検知し、歩み寄るだけで開閉できる「スマートテールゲートエンドキャップ」を採用。

電動パーキングブレーキを採用(シフトレバー後方)。

さらにインフォメーションシステムのアップデートやマキアートブラウンの内装色の新設、さらにシートにCOOLMAXテクノロジーを取り入れたシートなどが挙げられる。このCOOLMAX機能は、シート表皮の熱の蓄積を軽減させることができるもので、乗車中の快適性を高めることができる。

COOLMAXを採用したシート。
中央に液晶ディスプレイを備えるが、メーターはオーソドックスな丸型二眼タイプ。
フロントウインドウに設置されたステレオカメラ

装備も充実しており、ステレオカメラやミリ波レーダーなどのセンシング機能による先進安全運転支援機能を始め、オートエアコン、7インチもしくは9インチタッチスクリーン式インフォメーションシステム、USBソケット、最大150Wの220Vコンセント、電動パーキングブレーキ、3列7人乗り仕様のレザーシート(合成皮革)などを備える。

マキアートブラウンカラーの内装を新たに設定。
タッチスクリーン式インフォメーションシステムを採用。
センターコンソール後端の電源はAC220V/150WとUSB2つを用意。

ディーゼルターボエンジンは1.9Lと3.0Lを用意

MU-Xのエンジンルーム。写真の展示車両はパワフルな3.0L直4クリーンディーゼルターボを搭載したモデルだ。

パワーユニットは、全車直列4気筒クリーンディーゼルターボを搭載し、パドルシフト付の6速ATを組み合わせる。
RWD専用となる1.9Lエンジンは、最高出力150ps・最大トルク350Nm、RWDと4WDのいずれも選択可能な3.0Lエンジンは、最高出力190ps・最大トルク450Nmをそれぞれ発揮する。因みに、渡河水深は800mmという本格派らしい一面もある。

トランスミッションは6速AT。ステアリングの裏側にパドルシフトを備える。

より豪華になったディティール&ユーティリティ

それでは詳細を見ていこう。兄弟車であるため、内外装デザインは、ピックアップトラックD-MAXと共通となる部分もあるが、基本的にはより豪華仕様だ。このため、形状が同じダッシュボードパネルも加飾パネルなどで上級化が図られている。

D-MAXと同形状ながら加飾パネルで上級化されたダッシュボードまわり。

特にシートデザインは専用化されており、最大7人乗りを可能とし、ラゲッジスペースの拡大が可能な自在なシートアレンジを可能としている。
室内空間も広く、フロントとセカンドは足元にもゆとりがある。正直、3列目は足元空間こそタイトだが、実用的なシートに仕上げられている。

合成皮革ながら全席レザーシートを採用。写真は二列目。
三列目シートもレザーを採用。

ラゲッジスペースは、3列目使用時こそ小ぶりだが、3列目を格納すると十分な広さが確保できる。5名乗車仕様ならば、アウトドアに必要な荷物もしっかりと収まりそうだ。後席の中央席前には、USBソケットに加え、ACコンセントも確保されているので、特に現場でノートPCを使うビジネスマンなどに重宝されるだろう。

三列目使用時のラゲッジルーム。
三列目を格納すると広くフラットなスペースが生まれる。

ピックアップトラックベースSUVの日本導入はあるのか?

D-MAX譲りのタフなデザインは、素直にカッコイイ。日本の街乗りSUVや豪華な本格SUVとも異なる魅力がある。日本車でいえば、ランドクルーザープラド的だが、それよりも若々しくスポーティに仕上げられている点に好感が持てる。かつての日産ハイラックスサーフやニッサンテラノなどを思い起こさせてくれる雰囲気なのだ。日本で購入できれば喜ばれそうなのだが、国産他社を含め、現時点でのPPV系SUVの導入がないのが非常に残念だ。

いすゞ・MU-X

タイでの標準車価格だが、117万4000バーツ(4×2 1.9 アクティブ)~165万9000バーツ(4×4 3.0アルティメット)となっており、日本円だと約486万円~約687万円となり、意外と高価。もちろん、D-MAXシリーズ中では最も高いレンジに位置している。装備が充実しているのも納得だ。

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著者プロフィール

大音安弘 近影

大音安弘

1980年生まれ、埼玉県出身。幼き頃からのクルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後…