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LOWRIDERから派生し独自の進化を遂げたVWベースのCallook
HOTRODやLOWRIDERとともにアメリカ西海岸から発祥した伝統的なモーターカルチャーがCallook(キャル・ルック)だ。
CallookとはCalifornia lookerの略であり、もともとはVWタイプI(ビートル)やタイプII、タイプIII,カルマンギアなどの空冷VWがベース車に選ばれていたが、ポルシェ356や初期の911、最近ではフィアット500やBMWミニ、日本国内では軽自動車などをベースにカスタマイズされることもある。
Callookが誕生したのは1970年代後半のことで、ギャングや犯罪のイメージと結びつけて語られがちだったLOWRIDERから離れたヒスパニック系の若者が、同様のカスタム技法を用いて空冷VW車をカスタムしたのが始まりとされる。そのため登場当初は「Chicano Style(チカーノスタイル)」と呼ばれていたのだが、中古車が豊富な上に安価で、構造が単純なことから素人でもチューンやカスタムが容易で、おまけにカスタムを施した車両はCOOLでFUNKYなスタイルに仕上がることから、流行に敏感な白人の若者たちにも受け入れられ、人種の垣根を超えて一大ブームを巻き起こした。
もっともポピュラーなCallookは、ローダウンした車両に5本スポークのEMPIやBRM、ポルシェ用のフックスアロイのホイールにワイドラジアルタイヤを組み合わせ、エクステリアはクロームトリムやバンパーなどを取り外して外観をスッキリさせ、インテリアは小径のステアリングホイールに付け替えた上で、レース用メーターパネルへの交換もしくはタコメーターを追加。心臓部は排気量をスープアップし、大径キャブレターやクロスミッション、レース用のエグゾーストに交換するというもの。また、ルーフをチョップし、低く精悍なルックスにした改造もしばしば行われた。
日本でも1980年代にCallookブームが到来するが、
ベース車の価格高騰とファンの先鋭化により新規ファンの獲得に失敗
西海岸から日本にCallookが伝わったのは1980年代中頃のことで、当時の人気は凄まじく、創生期の『Street Car Nationals』(以下、SCN)の会場はCallookの空冷VW車で埋め尽くされた。
しかし、近年ではベース車両の中古車相場高騰とカスタムスタイルの定番化、さらには先鋭化した一部マニアによるメキシコ製ビートル(通称:メキビー)やタイプIIマスクにスワップした軽バンをCallookとして認めるか・認めないかの論争などにより、空冷VW車ベースのCallookは結果的に新規のファンを遠ざけてしまったようで(専門ショップの中には軽バンべースのCallookから空冷VW車への乗り換えを検討している客に「お前には売るクルマはない」と言い放って追い返すケースもあったと聞く)、往時ほどの盛り上がりは見せていない。
『ヨコハマホットロッドカスタムショー2023』(以下、HCS)にエントリーした車両はレベルは総じて高かったが、エントリー自体は少なかった。
映画『ワイルド・スピード』の影響で日米で人気になった”スポコン”
2001年に映画『ワイルド・スピード』(原題:The Fast & Furious)の公開とともに日本でも一大ブームを起こしたのが“スポコン”ことSport compactだ。
前述した通り、アメリカのモーターカルチャーは人種や出自との結び付きが強く、例外はあるものの、白人のHOTROD、チカーノとアフリカン・アメリカン(黒人)のLOWRIDERとの色彩が濃い中で、日系や中国系、韓国系などのアジアン・アメリカンの中から1980年代後半に発生したのがスポコンであった。
スポコンのベース車は若者でも購入しやすい比較的安価な日本車や欧州車、アメリカ車の排気量1.6~ 2.0L前後のFWD車の人気がもっとも高く、ボディ形状はクーペあり、ハッチバックあり、セダンありとさまざまだ。金銭的にゆとりのあるファンは、トヨタ・スープラや日本から並行輸入したスカイラインGT-R、ロータリーエンジン搭載車のRX-7などの高性能なスポーツカーも支持を得ている。
カスタムスタイルはほぼ日本のチューニングカーに準じているが、より“魅せる”要素を重視してオレンジやパープル、ライムグリーンなどの人目を引く派手な色にオールペイントされ、カウルフードやボディサイドにフレイムスやトライバルパターン、キャラクターなどのバイナルグラフィックを施し、エアロパーツで完全武装するのが定番のスタイルとなっている。
オイルショック以後に台頭した日本製FWDコンパクトカーを
アジア系の若者がカスタムしたことで人気に火がつく
もともとアメリカでは大排気量のマッスルカーの人気が高く、FWDコンパクトカーは日本の軽自動車のような「通勤や通学に使う安価なアシ」程度にしか思われておらず、カスタムのベース車に選ばれるようなものではなかった。
ところが、オイルショックと排気ガス規制の影響で巨大なV8エンジンを搭載したFR車の人気が低迷すると、日本製の小型車の支持が急速に高まり、アメリカの自動車メーカーもこれに追随してFWDコンパクトカーを相次いで登場させたことから、大型のFR車に偏っていた北米市場における乗用車の勢力図は大きく変化することになる。
そんな中、ホンダ・シビックやCR-Xのように実用車でありながらスポーツカーにも匹敵する高性能なコンパクトカーが登場すると若者たちの心をたちまち掴んだ。とくにHOTRODやLOWRIDERに馴染みが薄かったアジア系の若者たちがこれに飛びつき、改造を施すことで深夜のイリーガルなストリートレースや、週末のドラッグレースやジムカーナを楽しむようになった。これがスポコンの期限とされている。
日本では前述した映画の影響もあって2000年代に人気を博し、スポコンを対象にしたカーイベントや専門誌なども発行されたが、現在ではブームは収束し、チューニングカーのカテゴリーにほぼ取り込まれてしまった。
MOONEYES主催のイベントでは SCNでその姿を見かけることが多いものの、HCSではもともと参加台数は少なく、今回はインテグラが2台エントリーするにとどまった。
北米市場最大のボリュームゾーン
ピックアップトラックをカスタムしたTRUCKIN’
北米市場でもっとも身近な自動車のカテゴリーであり、最多販売台数を誇るのがピックアップトラックだ。州によっても異なるが商用車であるピックアップトラックは、自動車税が無税か割安になり、自動車保険も安く設定され、さらには燃費規制が乗用車に比べて緩やかで大排気量のV8エンジンが依然として選択できることなどが人気の秘訣となっている。
そんな事情からアメリカでは若者が最初の愛車にピックアップトラック選ぶことが多く、アシとして活用するだけでなくカスタムベースとして用いられることも多い。
そんなカスタムされたピックアップトラックのことをTRUCKIN'(トラッキン)と呼ぶ。TRUCKIN’は人種を問わず人気が高く、HOTRODやLOWRIDER、あるいはオフロードを走るCCV(Cross Country Vehicle)などのカスタム手法を用いてオーナーは思い思いに愛車をドレスアップして楽しんでいる。
TRUCKIN’のベース車として人気があるのは王道のフルサイズとコンパクトなミニトラックで、前者はシボレー・C/Kシリーズやシルバラード、フォードFシリーズ、ダッジ・ラム、トヨタ・タンドラなどで、後者はトヨタ・ハイラックスやタコマ、ダットサン・トラック、フォード・レンジャー、ダッジ・ダコタなど。
日本ではキャブオーバートラックが主流となっており、ピックアップトラックは2000年代初頭に国内メーカーのラインナップから一時姿を消したが、最近になってトヨタ・ハイラックスや三菱トライトンが登場。
裕福な若者を中心に人気を博している。ただし、これらは4WDのみの設定であるためオフロードカーとの色彩が濃く、スタイリングがもっさりとした2列シート仕様のダブルキャブ仕様で、装備が充実した満艦飾仕様ということで高価なこともあり、車高をリフトアップした「アゲトラ」以外のベースに選ばれることは少ない。
カスタムシーンの主役は相変わらずアメ車か、中古車相場が低めのちょっと古い国産のシングルキャブトラックだ。HCSの会場ではそれらをベースにした魅力的なTRUCKIN’が数多くエントリーしていた。