車いすユーザーの強い味方! ホンダN-BOX「スロープ」は福祉車両にとどまらないマルチな使い方ができる便利なクルマ!!

日本で一番売れているクルマはホンダの軽スーパーハイトワゴン「N-BOX」だ。2011年の初代デビュー以来、三世代に渡って人気を集めてきたN-BOXだが、「スロープ」の設定を見逃してはならない。「福祉車両」に一過言ある山田弘樹氏も注目する「N-BOX スロープ」は、特殊なモデルに思われがちだが福祉用途にとどまらないマルチなクルマなのだ!
REPORT:山田弘樹(YAMADA Kouki)/PHOTO:MotorFan.jp

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N-BOXとN-BOXカスタム(ターボ)の試乗を終えて、最後にぜひ紹介したいのが「N-BOX SLOPE」(N-BOX スロープ)だ。一般的に認知される呼び方だとそれは「N-BOXの福祉車両」となるわけだが、ホンダは先代からその名前を「N-BOX スロープ」としてカタログに記載している。

「スロープ」の名前のとおり、なだらかなスロープが車いすでの搭乗に力を発揮する。

その真意は、どこにあるのか?
それを知ることが、N-BOX スロープにおける最大の注目ポイントだと筆者は感じた。

何故「N-BOX(福祉車両)」ではなく「N-BOX SLOPE」なのか?

なぜ福祉車両開発チームはこのクルマをN-BOX スロープと名付け、「N-BOXにおけるひとつのバリエーションとしてラインナップしたい」と考えたのか?
それは多くの人が、「福祉車両」という名前が付くだけで「私には(まだ)関係ない」と、目を背けてしまう現実があるからだという。

ホンダのオフィシャルサイトの掲載ページでは「N-BOX 福祉車両」「N-BOX 車いす仕様」としながらも、メインの画像には大きく「N-BOX SLOPE(スロープ)」と記載される。

ちなみにホンダの資料によれば、2020年時点での被介護人口は681.9万人もいるという。そしてこれが、年々増加傾向にある。
対して福祉車両の市場販売台数は、過去7年間のピークを見てもわずかに3万7623台(2018年)でしかない。そしてこちらは、年々減少傾向にある。たとえば2020年で比べると、被介護者人口に対する介護車両の数は3万2378台と、たった4.8%ほどでしかないという数字が出ているのだ。

N-BOXスロープのコンセプト

ホンダはこの福祉車両市場において、スロープ車両で5年連続でナンバーワンのシェアを獲得している。他メーカーは介護施設など商業用デリバリーが中心であるのに対し、一般ユーザーへの販売も一番多い。しかしその分母(被介護者の人数)に対して介護車両の普及台数は、圧倒的に足りていないのだ。

一体どうすれば、この数を増やすことができるのだろうか?

もしユーザーが高齢者で、まだ運転のできる立場なら、「自分まだまだ元気だ」と考えるのは妥当だ。「福祉」という言葉そのものへの抵抗感があるのも、なんら不思議ではない。
また自分がくるま椅子を使う立場にあるとすれば、運転は誰かにしてもらわねばならないわけだから、家族やパートナーに「福祉車両を買って欲しい」とも言いづらいのではないか。

ホンダはステップワゴンとフリード+(プラス)にも「車いす仕様」を設定している。

家族側の視点としてはーー私がそうだったがーー仮に高齢者が家庭にいても、「福祉車両を買う」という意識は働きにくい。
私は3年前に他界した母(当時90歳)が病気になったとき、初めてその必要性を感じた。しかし現実には、すぐに介護車両を購入するまでは至らなかった。着座位置が低い私のクルマの助手席に乗せて通院していたことを考えると、本当に悪いことをしたと思う。

N-BOXの余裕のある室内高は、車いすのまま乗車しても窮屈ではない。開発者の井上さんが乗車。身長は175cm。
身長175cmの男性でも、乗車時の開口部で頭を下げる必要はない。

行き届いた使い勝手と車いすにとどまらない「スロープ」の可能性

そこで開発陣は、このスロープの可能性を広げようと考えた。
彼らが今回試乗会場に、クルマ椅子だけでなくキャンプ道具も展示していた理由はそこにある。道具を満載したキャリアカーを電動ウインチで引っ張りあげるデモを行うことで、N-BOX スロープの可能性をひとつ示したのだ。

キャンプ道具などを満載したカートを電動ウインチで引き上げるデモンストレーション。

ちなみにこのウインチにはスライドドアと同じモーターが使われており、その最大牽引重量は120kgとかなり力強い。またスロープの耐荷重も200kgまでOKだから、アイデア次第でもっと様々な使い方ができるだろう。アナタだったら、何に使うだろう?

ウインチのモーターは前席シート下に収まる。後席背面のベルトが当たる部分は金属製のバーで補強されており、シートとベルトを保護するとともに抵抗の減少にも効果を発揮する。

N-BOX スロープのウインチは、とても使い勝手がよかった。このウインチはベルト左右の長さを常に計測しながら巻き上げているので、たとえばわざとくるま椅子を斜めにしても、片側の長い方を先に巻き上げて長さを揃え、進路を真っ直ぐに補正してくれた。
またその巻き上げ速度も2段階で調整でき、固定位置近くになると減速してくれるきめ細やかさだった。

車いすを押していたら重さと傾斜で斜めなってしまった。右のベルトが少したるんでいる。
巻き上げが始まると自動的に左右のベルトの長さが調整され、車いすはまっすぐになった。

さらに開発陣は、敢えてウインチを使わずくるま椅子を押す体験もさせてくれたが、その差も歴然だった。介護者に扮した開発チームの井上さんが大柄だったこともあるが、重さでよじれるハンドルを安定させながらくるま椅子を押してスロープを上るのには、そこそこ以上のチカラと集中力が必要だ。もしこれが老老介護だったらと思うと、ウインチなしでは考えられない。

ウインチはリモコンで操作が可能。
リモコンは車いすの把手などに装着でき、押しながら手元で操作もできる。
裏面は把手に装着しやすいように凹面になっている。ホンダのロゴ入り。
左壁面に電源やロック、速度調整のスイッチを配置。DC12V/180Wの電源も用意。

スロープは通常リヤゲート前に、垂直に収納される。だから荷室容量は少し圧迫されるが、荷室長は1270~1510mmを確保できるというから、サイズにもよるが塾帰りのお子さんの自転車や、ミニバイクも積載可能だ。

またゲートはバンパー下まで一体成形になっているのだが、閉めれば標準車と変わらない見た目になっている。介護車両然とした後ろ姿にしないことで普段から気軽に使うことができるし、介護される人にも特別感を与えないで済むという配慮だ。

リヤゲートはバンパー下まで開くようになっており、N-BOXの低床とスロープ利用時の傾斜緩和に効果大。
標準車と異なり、ナンバープレート下にもドアハンドルを設置している。
標準より大きなリヤゲートを開ける際に、体に当たらないようにするための工夫だ。

軽福祉車両の4WDはN-BOXのみ! タフギアとしても期待……大!

そして畳んだスロープをフラットモードにすると、その上に荷物を積むことができる。もちろんスロープ下も、収納スペースになる。使い方次第では、標準車よりもタフギアとして活躍してくれそうな感じだ。

スロープの格納状態。もちろんこの状態でスロープの上は荷室として機能する。
格納時のスロープ下には空間があり、収納として利用することができる。写真のロープは車いす固定用のタイダウンベルト。
リヤシートは柱状脚で支えられているので空間がある。スロープ下から後席まで、長物の収納が可能である。

車体側としては、リアサスペンションをN-BOX スロープ専用にチューニングしたという。当然それは、車椅子に乗った状態で移動したときの乗り心地を確保するためである。

車いす用のシートベルトは肩と腰が別体になっている。
肩ベルトは床から引き出し天井のバックルに接続。
腰ベルトは左床から引き出し、右床のバックルに接続。

そして折りたたみ式リアシートには、クッションが薄くなっても座り心地を確保できるような素材を吟味して投入した。その場で座った限りだが、それは低反発ウレタンのような座り心地でなかなかだった。今回は展示車両を確認しただけだが、ぜひとも実際に運転してその操作性や乗り味を試してみたい。

リヤシートはスロープ専用の5対5分割可倒式。格納はワンタッチでダイブダウン。左右シート横にドリンクホルダーを用意する。
畳むのが前提とは思えないしっかりしたシート。やや硬めな印象だが、座り心地はなかなかのもの。

そんなN-BOX スロープは福祉車両として消費税が免除となるため、FWD車で車両価格が184万4000円と、標準車(164万8900円)に対して19万5100円高でしかない。そして外観としてはカスタム、駆動方式としては4WDを選ぶことが可能だ。
ターボを選ぶことができないのはとても残念だが、N-BOX スロープの認知度が上がればそれも可能になるはずだ。

グレード価格
N-BOXFF:164万8900円
4WD:178万2000円
N-BOX スロープFF:184万4000円
4WD:196万5000円
N-BOXカスタムFF:184万9100円
4WD:198万2200円
N-BOXカスタム スロープFF:206万7000円
4WD:218万8000円
標準車は税込価格。スロープは福祉車両として消費税非課税。

介護車両という枠を飛び越え「タフギア」としてのキャラクターが確率できれば、翻って介護される人たちにも移動の自由が、もっと身近なものになる。
まずは「N-BOX スロープ」という、その名前を覚えて欲しい。

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…