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真下すら見ることができる
パイロットに広い視界を与えることは戦闘機が誕生して以来、大きな課題のひとつだ。これまでパイロットの視界を広げるため、コックピット設計にさまざまな工夫が凝らされてきた。たとえば、「バブルキャノピー」と呼ばれる、機体から飛び出した「泡」のような半球形のキャノピーなどがある。
こうした戦闘機と比べると、F-35のコックピットは、どうにも視界が悪そうだ。ステルス設計の都合上、キャノピーが飛び出るような設計は難しいとしても、コックピットの背後に短距離離陸・垂直着陸用の大型リフトファンが置かれているため、後方視界を阻害しているように見える。
だが、F-35は別の手段で、過去の戦闘機になかった全周・球状の視界を実現した。それが「EO-DAS(電子光学分散開口システム)」だ。「イーオー・ダス」または略して「ダス」と呼ばれる。
EO-DASとは何か
EO-DASとは、ざっくり言えば自動車のアラウンド・ビュー・モニターの超ハイスペック版だ。自動車のアラウンド・ビュー・モニターは前後左右4方向に設置されたカメラの映像をコンピューター上で統合して、真上から見下ろしているかのような映像を作り出している。
EO-DASも、機体6カ所(機首の両側面、コックピットの前後、胴体下に前後方向)の赤外線センサーから得られた画像を繋ぎ合わせて球状・全周の視界を合成。その映像はパイロットが被っているヘルメットのバイザー部分に投影される。「ヘルメット・マウント・ディスプレイ(HMD)」と呼ばれるもので、パイロットが首を動かすと、映像もその方向に向けられる。つまり、後ろを向けば後ろの景色が、真下を向けば地上を見ることができるのだ。さらに赤外線センサーであるため昼夜に関係なく、また雲や霧など気象の影響も受けない。
これまでの戦闘機とは次元が異なる
これだけでも驚くべき能力だが、EO-DASは全周をカバーするセンサーによって、あらゆる方向からの自機や僚機への脅威(対空ミサイルの発射や、敵戦闘機の接近)を、いちはやく探知・追跡し、ターゲッティングする能力を持っている。そして、この能力はオフボアサイト能力を持った空対空ミサイルと組み合わせることで、圧倒的な戦闘能力を発揮する。オフボアサイト能力とは、正面方向から大きく外れた目標を攻撃する能力だ。EO-DASの開発元であるノースロップ・グラマン社が公開した動画では、背後から接近する敵戦闘機をEO-DOSにより探知したF-35が、前方に向けて空対空ミサイルを発射。その後にミサイルが180°旋回して真後ろの敵機を攻撃する様子が描かれている。
F-35について、ステルス性や機動性が劣るとして批判する声もある。しかし、同機はEO-DASなどの優れたセンサーを有し、それらセンサー情報や武器システムを統合する「頭脳」を備えている点で従来の戦闘機とは強さの次元が異なると言えるだろう。まさに次世代を担うにふさわしい高性能機なのである。