ベスパなのにバイクじゃない!? イタリアブランドなのにフランス製!? ベスパ400をご存知ですか?【ホンダコレクションホールで見つけた珍しいクルマ】

「ツインリンクもてぎ」を擁する「モビリティリゾートもてぎ」内にある「ホンダコレクションホール」が2024年3月1日にリニューアルオープンした。ホンダが所蔵するクルマ、バイク、レーシングマシン、そしてそれだけに止まらない数々の収蔵品が展示されているのだが、中にはかなり珍しい車両もあった。皆さんはベスパのクルマはご存知だろうか?

常設展とは違った楽しみがある企画展

リニューアルされたホンダコレクションホールは、ホンダの歴史をその製品とともに追いかける博物館式展示方法となった。それだけに、以前の展示と異なり常設展の展示点数自体は少なくなっているが、逆に1台1台をそのヒストリーとともにじっくり見ることができるというわけだ。

【画像200枚】「ホンダコレクションホール」が3月1日リニューアルオープン!ココがスゴイ!! ホンダの歴史をその名車と製品で振り返る展示内容は?

「ツインリンクもてぎ」を擁する「モビリティリゾートもてぎ」内にある「ホンダコレクションホール…

とはいえ、以前のように多くの収蔵車両を一気に見ることができないのも残念な側面ではあるが、それを補完できるのが企画展だ。2階-3階南北棟の中間には、テーマに沿った企画展が行われており、リニューアルオープンの3月1日から6月30日までは、リニューアルオープン記念として4月に開催される「MFJ全日本ロードレース選手権シリーズ 第2戦
スーパーバイクレース in もてぎ」と絡めた「CBヒストリー Part1 スーパースポーツバイクの先駆車たち」が開催されている。

ホンダコレクションホール企画展「CBヒストリー Part1 スーパースポーツバイクの先駆車たち」

この企画展では、ホンダ「CB」シリーズを軸に1950年代〜1960年代の国内外スポーツバイクを多数展示されており、常設展では物足りなかった数的な面だけでなく、メーカーのバリエーションの豊富さ、CBのヒストリー、当時の広告などの時代性など、企画テーマと合わせて楽しむことができた。

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イタリアメーカーだけちょっと特別?
さらに、バイクの展示の中に2台のクルマが……

CBを中心にカワサキ、スズキ、ヤマハといった日本メーカーに加え、イギリス、ドイツ、イタリアといった当時のバイク先進国の車両がズラリと並ぶ。展示エリアは概ね、日本メーカー、英独メーカーで分けられているのだが、イタリアメーカーのみスペースの都合か独立した展示となっていた。

企画展時代のスポーツバイクは大排気量は英独メーカー、中小排気量はイタリアメーカーが得意としており、展示にはそういった棲み分けを感じないでもない。また、ホンダが挑戦したバイクレースの世界選手権でも、大排気量ではMVアグスタが、中小排気量ではやはり展示されているイタリアメーカーがライバルとなったことも展示に影響しているのかもしれない。

バイクの中にクルマが2台? クルマの正体はN360と……ベスパ!?

この企画展は「CB」がテーマだけに基本的にはバイクが展示されているのだが、その中に2台だけクルマも展示されている。

写真右手に展示されているのがホンダN360。
写真左手のイタリアメーカーの列にクルマの姿が……。

1台はホンダN360。これはバイクのCB450のエンジンを流用していることから、確かにCBの系譜に連なる。車体だけではなくエンジン単体も合わせて展示されていたのはつまりそういうことだ。
そしてもう1台はイタリアメーカーの展示エリアに配置されていた。

ベスパ400

そのクルマは360cc時代の軽自動車くらいのサイズで、ノッチバックのついた2ドアクーペ的なスタイル。フォルムで言えばマツダのR360クーペに似るが、デザインはより実用車的だ。

ベスパ400。このクラスでは珍しい3ボックススタイル。ドアは外装式後ろヒンジのスーサイドドア。
マツダR360クーペ(PHOTO:マツダ)

解説のプレートには「ベスパ400」とあった。
ベスパといえばイタリアのスクーターブランドとして有名だ。オードリー・ヘップバーン主演の『ローマの休日』、松田優作の『探偵物語』などのフィクション作品にも数多く登場しており、その知名度は群を抜く。もちろん現代でもイタリアのバイクメーカー・ピアッジオの有力なブランドとして最新モデルがリリースされ続けている。

ベスパ400の解説プレート。
リヤのエンジンフードのエンブレムはまさに「ベスパ」のロゴ。

ベスパ400は設計自体はピアッジオ社だが、生産はベスパのスクーターをライセンス生産していたフランスのACMA社で行われている。1957年から1961年まで約3万4000台が生産されたものの、フランスの小型車……シトロエン2CVやルノー4との競合に敗れ、1962年にはACMA社も倒産してしまった。

ベスパ400。394cc空冷2ストローク2気筒エンジンを納めるエンジンルームは意外に大きい。

メカニズムは394cc空冷2ストローク並列2気筒エンジンをリヤに搭載し後輪を駆動するRR方式。サスペンションは油圧ショックアブソーバー+コイルスプリング四輪独立懸架で、フロントにはスタビライザー(アンチロールバー)も備わる。
3速MT(4速MTも設定)を組みわせ14ps(当初13ps)の最高出力で、約90km/hの最高速度を誇った(0-90km/h加速は25秒)。

ベスパ400
サイズ:全長2850mm×全幅1270mm×全高1300mm
ホイールベース:1693mm
車重:360kg
エンジン:空冷2ストローク並列2気筒
排気量:394cc
最高出力:14ps/4350rpm
レイアウト/駆動方式:リヤエンジン/リヤ駆動
設計:ピアッジオ(イタリア)
生産:ACMA(フランス)

ちなみに、2ストロークエンジンのオイルはバイクのベスパ同様混合給油式(当時はそれが当たり前だった)だが、1958年には半自動装置を搭載。1960年には自動混合に進化している。これは1964年に分離給油自動混合としたスバル360より早かった。

モータリゼーション隆盛の間

1950年代はモータリゼーションの盛り上がりとともに、商用以外のパーソナルモビリティとしてバイク以上クルマ未満のモビリティが盛り上がった時代でもある。1950年代半ばのメッサーシュミットKR200やイソ/BMWイセッタ、富士キャビンといったバブルカーがその嚆矢と言えるだろう。

スズキ・スズライトは1955年に軽自動車規格に応えた日本初の4人乗り軽乗用車として発売された。(PHOTO:スズキ)

日本でも軽自動車規格が定められ、1955年にはスズキ・スズライト、1958年にはスバル360が登場。1950年代末以降はクルマの大衆化も徐々に進み始め、バブルカーやマイクロカーは性能、利便性、価格競争力で急速に居場所を失っていった。

キャンバストップのルーフは同時代のフィアット500(ヌォーバ・チンク)にも通じる。乗車定員は2名。

1957年に登場したベスパ400はまさにその間の時代に生まれたマイクロカーの1台だった。前述のバブルカーに比べればそのフォーマットは完全にクルマだが、同年に登場したフィアット500(ヌォーバ・チンクチェント)に比べても小さく乗車定員も少ない。サイズ的には360cc規格の軽自動車よりもやや小さいくらいだ。参考までに、ほぼ同時期のフィアット500、スバル360との比較をお見せしよう。

発売1957年1957年1958年
車名ベスパ400フィアット500スバル360
メーカー(国)設計:ピアッジオ(イタリア)
生産:ACMA(フランス)
フィアット(イタリア)富士重工(現スバル/日本)
全長2850mm2970mm2990mm
全幅1270mm1320mm1300mm
全高1300mm1325mm1380mm
ホイールベース1693mm1840mm1800mm
車重360kg470kg385kg
エンジン空冷2ストローク並列2気筒空冷4ストローク直列2気筒OHV空冷2ストローク直列2気筒
排気量394cc479cc 356cc
最高出力14ps/4350rpm15ps/4000rpm 16ps/4500rpm
最大トルク3.0kgm/3000rpm
レイアウトリヤエンジン/リヤ駆動リヤエンジン/リヤ駆動リヤエンジン/リヤ駆動
トランスミッション3速MT/4速MT4速MT3速MT
サスペンション前:トレーリングアーム式独立懸架
後:ウィッシュボーンスイングアクスル式独立懸架
前:ウイッシュボーン式独立懸架
後:ダイアゴナルスイングアクスル式独立懸架
前:トレーリングアーム式独立懸架
後:スイングアクスル式独立懸架
最高速度90km/h90km/h83km/h(4名乗車)
乗車定員2名4名4名
生産終了1961年1975年1970年
生産台数約3万4000台約367万8000台約39万台
フィアット500/1957(PHOTO:Fiat)
スバル360/1958(PHOTO:スバル)

ベスパ400は同じくバイクを母体とするメーカーが設計したクルマとして、おそらくホンダが自動車に参入するにあたって参考にしたクルマの1台として手に入れたものではないだろうか?
ベスパ400は日本ではなかなか見ることができないレア車。この企画展が終われば一度お蔵入りになるだろうことから、もし実車を見るのであれば6月30日までの企画展会期内にホンダコレクションホールを訪れるのが良いだろう。

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