レース中の乗り換えも今は昔……マシンの進化とともに振り返るフォーミュラEの歩み【MF的フォーミュラEひとくち解説 その6】

日本のレース史において、本格的な四輪のレーシングカーが公道を走る初めてのレースとなる東京E-Prixの開催まで10日を切っている。今回は、FIAフォーミュラE世界選手権の現行マシンである「Gen3」をそれ以前のマシンと比較し、どのくらいの進歩を遂げたのかを振り返る。

■現行世代は初代比で75%もパワーアップ

バッテリーEVによるサーキットレースシリーズの最高峰に位置するフォーミュラE。他の世界選手権とは異なり、フォーミュラEでは共通シャシーが使われているのは前回お届けした通りだが、これまでに3つのシャシーが導入されてきた。

Gen1

第1世代マシン「Gen1」はフォーミュラEが発足した2014/15年のシーズン1から、2017/18年のシーズン4まで使用された。
シーズン1は全チームがまったく同じマシンでレースを行ったが、シーズン2からはモーターやインバーター、ギアボックスなど、パワートレインの独自開発が可能に。また、レース中に使用できるパワーも150kWから170kWへと増加した。シーズン3にはマシンの外観が変更。フロントウィングが2段式とされるリフレッシュが図られた。

シーズン3にボディワークがアップデートされたGen1

Gen1時代のフォーミュラEは、レース中にマシンを乗り換えるのが特徴的なシーンだった。このシャシーに搭載されたバッテリーの容量は28kWhだったが、100km前後に設定されたレースを走り切ることができず、ドライバーはレース中にピットでマシンを乗り換える必要があった。

第2世代マシン「Gen2」が導入されたのは2018/19年のシーズン5。野暮ったい見た目の前世代から一転、“バットモービル風”に仕上げられ、今となってはフォーミュラレースにはおなじみとなったドライバー頭部保護デバイス、HALOも装着された。

Gen2

マシンの外観並に変わったのはバッテリー。バッテリーパックの重さはGen1から大きく変えず、容量は52kWhまで引き上げられた。これにより、同シーズンから45分+1周にフォーマット変更を受けた決勝レースを、マシンの乗り換えなしで走りきれるようになった。

Gen2

また、モーターのパワーも同様に引き上げられ、最高出力は250kW(約340PS)に。最高速も前世代の225km/hから280km/hへとスピードアップ。減速時の最大回生電力も250kWまで増加した。

Gen3

そして、現行の第3世代マシン「Gen3」は、2023年に行われたシーズン9から採用された。
Gen2からの一番の変更点は、パワートレインがマシンのフロントにも搭載されたこと。フロントモーターは加速のアシストは行わず、減速時の回生のみに使用されるが、モーターが2基搭載されたことで最大回生力はGen2の2倍以上の600kWに。これによりレース中に使用されるエネルギーの40%以上を回生できるようになった。
また、回生ブレーキの強化により、従来の油圧ブレーキの役割が減少。フロントブレーキが小型化され、リアでは従来のブレーキシステムは廃止された。

Gen3

また、モーターパワーは350kW(約460PS)まで上がり、最高速は320km/hと300km/hの大台超えを達成。Gen1と比較するとパワーは75%増し、最高速は95km/h増しており、この10年で大きく進化したと言える。

フォーミュラEマシンスペック一覧
Gen1Gen2Gen3
全長×全幅×全高5000mm×1780mm×1050mm5200mm×1800mm×1063.5mm5016.2mm×1700mm×1023.4mm
ホイールベース3100mm3100mm2970.5mm
最低重量(ドライバー含む)900kg900kg840kg
最高出力200kW250kW350kW
最大回生電力150kW250kW600kW
電力回生量約15%約25%40%以上
最高速225kmh280kmh320kmh
パワートレイン1基(リア)1基(リア)2基(フロント/リア)

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