すでに旧聞となってしまったが、東京オートサロン2024には行かれただろうか。そしてこのクルマの貴重さに気がついた人はいただろうか。スバル・インプレッサの初代モデルであるGC8型は、世界ラリー選手権であるWRCで数度のチャンピオンに輝いた偉大な名車。それゆえ今でもネオクラモデルとしての人気が高く、ラリーイメージでカスタムされるケースも多い。ところが東京オートサロン2024の会場に展示されていたのはカスタムされた市販車ではなく、ホンモノのWRC参戦車両だったのだ!
GC8インプレッサWRXは1995年にマニュファクチャラーズ・ドライバーズの両タイトルを獲得。翌年にもマニュファクチャラーズチャンピオンをもたらしスバル最強時代を飾る。ところが97年からは参戦車両の規定がグループAマシンからWRカーと呼ばれる改造範囲の広いマシンへと切り替わる。インプレッサは2ドアのリトナをベースにWRC97を開発して、この年もマニュファクチャラーズタイトルを獲得している。
その後はチャンピオンの座から退き、次世代モデルであるGD系に切り替わることで返り咲く。GD系でも快進撃は続くもののWRCでの活躍で印象に残るのは、やはり初代GC8の姿ではないだろうか。とはいえ、一般人が手に入れられるものではないから、誰しもレプリカ風にカスタムすることはあっても実物に乗ろうとは思わない。ところが東京オートサロン2024のWISESQUAREブースには、貴重なWRカーが3台も展示されていて度肝を抜かれた。
ドリフト車両の製作などを得意とするWISESQUAREだが、今回の展示車両は3台とも個人オーナーが所有しているもの。会場にいたオーナーに話を聞けば、やはりとんでもないスバルマニア。オーナーの前田さんはノーマルのGC8のほかに価格高騰が激しい限定車の22Bも所有されている。だが、実際にWRカーと22Bを見比べると「まるで別物」と、本物だけが備える迫力に圧倒されてしまう。そこで探し出したのがGC8参戦最終年になる2000年に参戦した個体だった。
このインプレッサWRC2000(S6)はW24 SRTというレジストレーションナンバーが与えられた個体で、イギリスのプロドライブで製作されたもの。S6はクリスチャン・ロリオーによるデザインで2000年にWRCヘ参戦。この個体はシモン・ジャン・ジョセフ、ユハ・カンクネンがドライブしたもので、ラリー参戦後はニュージーランド出身のラリードライバー、ポッサム・ボーンの手に渡り右ハンドル仕様に組み替えられてオーストラリア選手権などに参戦していた。その後、2001年に左ハンドルに再度戻されたものを現オーナーが手に入れ日本へ渡ってきた。
そのためかシートはWRC参戦時のものではなくなっているが、メーター類やペダルなどはWRカーのものを再移植されている。購入してから10年近くなるそうだが歴史的に価値ある1台とはいえ、当時は手の届かない価格ではなかったというから驚き。もちろんオーナーの前田さんは会社経営者なので一般のサラリーマンとは自由になるお小遣いのケタが違うが、それでも本物のWRカーを個人が買えた時代があることに驚いてしまう。
3台展示されたWRカーのうち2台を所有する前田さんだが、下写真のインプレッサWRC98(S5)は何とナンバープレートを取得して公道を走行することを可能としている。というのも購入前はイタリアのプライベートチームが所有していて放出する際にパワーユニットなどが外された状態だったのだ。そこで前田さんはGDB用のエンジンなどを移植することで、公道でも普通に走れるようショップを通じて製作してもらうことにした。外観を見る限り本物のS5にしか見えないが、街乗りのアシとしても使えるという。
今回は東京オートサロン2024に展示されたうちの2台を紹介したが、来たる4月21日に富士スピードウェイで開催される「モーターファンフェスタ2024」にも展示されることが決定した! 今回もWISESQUAREの協力により積載車で運ばれ、本コースのホームストレートにさまざまな名車が展示されるスーパーグリッドウォークに展示される予定だ。フォーミュラマシンたちにも目移りしそうだが、本物のWRカーを間近に見られるチャンスはそうそうない。ぜひ当日、足を運ばれることをオススメする!