陸上自衛隊:74式戦車の車体+2連装高射砲=「87式自走高射機関砲」、空を睨む大型高性能『2丁拳銃』

機関砲を高く立ち上げた姿。このアングルがかっこいいと思う。最上部にある横長箱型が捜索レーダーで、その前方下方にある円盤状のモノが目標追尾(追随)レーダーだ。
低空を侵入して来る敵航空機などを迎撃するのが「87式自走高射機関砲」だ。飛来する敵機を高性能な機関砲の連続射撃で撃ち落とす。装軌(キャタピラ)式なので走破性や機動性も高い。戦車などの機甲部隊に随伴し、部隊を航空攻撃から守る自走機関砲だ。
TEXT & PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
陸上自衛隊「87式自走高射機関砲」。写真/陸上自衛隊

87式自走高射機関砲はその名称どおり、自走式の対空機関砲だ。車体・脚周りには74式戦車のものを使い、その上に対空機関砲を載せている。牽引式の対空砲とは違い自走式というのが大きな特徴だ。自在に動き回り、戦車などの機甲部隊に随伴しながら、我が部隊を相手の航空攻撃から守ることができる。あるいは身を潜められる地形に自ら進入して隠れ、待ち伏せすることも可能だ。

本車は局地防空用の自走型・近距離対空火器というジャンルの装備になる。配備されるのは陸上自衛隊師団の高射連隊・大隊。機動運用される部隊、戦車部隊などの対空掩護用の強力な対空火器だ。戦車の車体を使った高機動性と、対空機関砲が発揮する高火力の組み合わせはとてもトンがっていると思う。

自衛隊観閲式で朝霞訓練場を走る「87式自走高射機関砲」。写真/陸上自衛隊

公式な愛称は「スカイシューター」だが、部隊内では「87AW」と呼ばれることが多い。

87AWの武器は35㎜・2連装高射機関砲だ。砲塔の左右に1丁ずつ装備されている。機関砲はスイス・エリコン社製品をライセンス生産したもので、基本的には89式装甲戦闘車(89FV)の主砲と同じだという。巨大ロボットの頭部を連想させるような独特の形状の砲塔は日本製鋼所が製造した。

公式な愛称は「スカイシューター」だが、部隊内では「87AW」と呼ばれることが多い。

87AWの武器は35㎜・2連装高射機関砲だ。砲塔の左右に1丁ずつ装備されている。機関砲はスイス・エリコン社製品をライセンス生産したもので、基本的には89式装甲戦闘車(89FV)の主砲と同じだという。巨大ロボットの頭部を連想させるような独特の形状の砲塔は日本製鋼所が製造した。

富士総合火力演習で35㎜・2連装高射機関砲を水平射撃する。ビール瓶サイズ(中瓶?)と思われる大きさの薬莢がバラバラと落下しているのも迫力だ。

砲塔後部には折り畳み式のレーダーが2種類装備されている。伸ばすと高く立ち上がり横長の箱型形状のモノが捜索レーダーで、その前方下方にある円盤状のモノが目標追尾(追随)レーダーだ。これらが集めた目標の情報は搭載した強力なコンピューターで処理する。レーダーと射撃統制装置(FCS)を一体でデジタルコンピューター制御し、目標の発見と補足、射撃までのプロセスは連動連続して行なわれる。車体の揺れによる射撃の修正(動揺修正)も自動化されているという。ちなみにFCSは三菱電機製で、車体は三菱重工製。

同じく総火演で、2両の87AWが同時・水平射撃する。35㎜機関砲弾の破壊力は凄まじいと思う。

つまり87AWは高性能な対空近接防御システムと言えて、そのシステムが1両に完結しているところが利点なのだと思う。自車のほかにレーダーや電源などの支援装備や支援車両の必要がないからだ。高速の航空機を相手にするなら、自在に身軽に動けた方が良い仕事ができるはず。

そもそも87AWのような装備が必要とされたのは、戦車というものの多くは航空攻撃に弱いという点にある。戦車の防御力を示す装甲は車体前面や砲塔部に集中し、車体上面の装甲は比較的薄いとされる。その弱い車体上面を、低空侵入した攻撃機や戦闘ヘリコプターの対戦車ミサイルで叩かれるわけだ。その敵機を直前で撃ち落とすのが87AWだ。空から攻撃する相手を機関砲で撃破するというコンセプトはかなり勇ましく、男前だ。

87AWの開発は従来の自走高射機関砲(M15やM42)の後継として、1982年から始まった。当初、車体は61式戦車を使ったが、上モノ(砲塔など)とのバランス等で塩梅が悪く、74式戦車の車体に変更されたという。開発当時、参考品として輸入された機関砲(エリコンKDA)と砲塔部、FCSの組み合わせに苦慮した経緯があったと資料(装備年鑑)にはある。

そして86年には出来上がり、87年にまず4両の調達が始まった。しかしその後も調達数は増えなかった。当時で1両約15億円とされ、これは戦車の約2倍の価格になる。高価で増やせなかった。戦車の多く置かれた北海道の部隊に少数が配備されて調達と配備計画は終わっている。

87AWと同様の、35㎜主砲と79式対舟艇対戦車誘導弾「重MAT(じゅうマット)」を装備した89式装甲戦闘車(89FV)。

局地的で近接防御用の対空装備は87AWが登場した当時には機関砲からミサイルへと移っていたように思う。35㎜・2連装高射機関砲は高性能だが、攻撃機や戦闘ヘリコプターが積む対戦車ミサイルやその他の誘導弾と比べて射程は短い。航空機の高速化とミサイルの長射程化・高速化の流れに対して機関砲のみでは分が悪い。当時から高速化していた戦闘様相にもそぐわない。しかも同時期に登場した89FVが、主砲の35㎜機関砲と79式対舟艇対戦車誘導弾「重MAT(じゅうマット)」を組み合わせていたのに対して、87AWが35㎜・2連装高射機関砲の『2丁拳銃』だけだったのも腑に落ちない。この『2丁拳銃』は皮肉ではなく、心意気の表現だと思って書いています。

諸外国軍にも87AWのような装備はあって(独陸軍ゲパルト自走対空砲など)、しかしどれも登場当初は『2丁拳銃』だけのようなのだ。しかし、その後に改修を受け、機関砲と地対空ミサイルの併載方式となった例も多いようだ。1両に長短の火力、特性の違う火力を備えた自走対空装備として理想的なマイナーチェンジを行なっていたようだ。

一方、87AWがそうできなかったのは、すでに生産終了し、改修予算も付かなかったからで、そもそも自衛隊には既存装備を改修する例が少ない。米海兵隊が古い装備を改修しながら使い続けることと対照的だと思う。これ、ひとつには、日本の防衛戦略や我が国の防衛産業が抱えるもの、大量生産によるコストダウンがハナから見込めない構造が関係していると思う。87AWはバブル期の一点豪華主義的に先鋭化したというかトンがったというか、我が国特有の作ったら終わっちゃった方式で改修もとくになく、結果的に『2丁拳銃』で今もいる。なにか、良くも悪くも日本的なのだと思う。

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著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…