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グッドイヤーの歴史はチャレンジの歴史
グッドイヤーと聞いて皆さん何を思い浮かべるであろうか。「自動車のタイヤメーカーじゃない?」と答えられればまずは合格。「NASCARとかF1とかレース用タイヤで有名だよね。」と答えられればきっとクルマ好き。「オールシーズンタイヤを開発した会社だよね。」と答えられれば積極的にリプレースタイヤを選ばれているクルママニアかもしれない。
グッドイヤーはイーグルF1に代表されるスポーツタイヤを作っている会社というイメージが強いが、その起源は1903年に自動車用のチューブレスタイヤの特許の取得と、1916年にトラック用の空気入りタイヤを世界で初めて開発したことに始まる。ロゴのGOODとYEARの間にある翼の付いた靴は、商人や旅人の守護神として知られるローマ神話のメルクリウスがモチーフになっており、このトラック用のタイヤの発明は商人だけでなく人類に革命的な進化をもたらした。その後、航空機のタイヤやアポロ14号の月面探査車のタイヤ、オールシーズンタイヤなども開発。アメリカ大統領の専用車「ビースト」にもグッドイヤー製のランフラットタイヤが採用されていることも公然の秘密として知られている。
それらはつまり、グッドイヤーの歴史はチャレンジの歴史だったと言える。例えば航空機の重量はおおよそ400トン。単に機体を支えるだけではなく交換までの約200回におよぶ離着陸の安全を保証しなければならない。
月面探査機は地球の重力の1/6、そして昼間110℃、夜は‐170℃と、280℃の温度差のある過酷な環境下での使用が求められた。
スパイクタイヤに代わる環境負荷低減への答えのひとつがオールシーズンタイヤの開発だった。
ビーストは総重量が8トン。ランフラットタイヤは銃撃を受けても約100kmの走行が可能だという。
F1でも通算368勝しており、このように過酷な環境下で使われるタイヤの開発はグッドイヤーの最も得意とする分野だ。そしてこれらの開発プロセスで得た経験と知識の積み重ねこそが現在のグッドイヤーの財産となっている。
最新のシミュレーターが活躍
日本には未導入だが、たまたま中国・アジアで販売されているグッドイヤーの最新EV専用タイヤを履かせてもらう機会を得た。まず、いつもの通勤路を数十分走行しただけで、このタイヤの静粛性、快適性の良さは体感できた。これまでの小さな段差で感じていた「ガツン」という安っぽいとも受け取れるショックが緩和され、驚くべきことにロードノイズもこれまでのスポンジ入りのタイヤより小さく、耳で感じる音質にも不快感はない。接地感はあるが軽快に感じられるハンドリングは正直に言って市街地と高速走行をメインとする私のライフスタイルに合うとても良いタイヤだと感じた。
日本グッドイヤー株式会社商品企画部の古谷さんにお話を聞くと、欧州では水ハケを重視して主溝が深く掘られたタイヤを標準採用することが多いが、このアジア向けタイヤでは「パターンノイズを外に出さない」ということをコンセプトに主溝はやや浅く、そしてサイピングがいろいろな方向や長さで細かく掘られたという。また、ブロックパターンについても独自の手法でノイズ軽減を図る。一般的にブロックのピッチが同じサイズで並ぶと音は助長されて大きくなるが、「ピッチ分散」を行なうことで音の周波数も分散される。こうした結果、可聴領域である200-400ヘルツ付近のノイズが抑制されるという。
乗り心地はどうであろうか。乗り心地を大きく左右するのはタイヤの構造と部材だという。特に影響が大きいのはサイドウォールとトレッドの剛性で、剛性が変わることで伝達係数が変わり乗り心地に影響するという。
EV用タイヤの開発は相反する条件を両立させる戦いでもある。主には耐荷重性、モーターによる高トルクへの対応、摩耗、転がり抵抗、静粛性、快適性などであろうか。一例を挙げればEVはそもそも重量があるためタイヤの内圧を上げて耐荷重性を高めるというのが常套手段だが、これは乗り心地にダイレクトに影響してしまう。また、剛性を高めるために多くの重い部材を使ってしまっては、市場の要求を満たすことはできない。そのため、耐摩耗性の高い素材開発や接地圧の均一化、内部構造とパターンデザイン、柔軟性のあるコンパウンドの採用など様々な要素と条件をバランスさせることが最も重要な仕事となる。
グッドイヤーではこのような構造や素材の研究開発やチューニングを100年以上続けてきた。そして現在、その一部は2020年にタイヤメーカーとしては初めて導入された「DiM250ダイナミックドライビングシミュレーター」を使って行なわれる。このシミュレーターの導入で、開発の早い段階でタイヤモデルの開発、テスト、検証を可能にし、最初のプロトタイプを作る前に最高のパフォーマンスを発揮するタイヤを特定できるという。つまり、自動車会社の求めるスペックやパフォーマンスに細かく対応できるだけではなく、他社との開発速度競争にも大きな優位性を発揮しているという。これならクルマに合ったタイヤのみならず、今回のアジア向けタイヤのような市場のニーズに合ったタイヤの開発もフレキシブルに行なえるのではないだろうか。
古谷さんによればタイヤは決して目を見張るような新しい素材や画期的な技術だけで品質を向上させてきたわけではなく、技術の蓄積によって進化しているという。圧倒的な研究量とトライアンドエラーの繰り返しが今のグッドイヤーの技術を支えている。そしてこれまでの知の蓄積と最新テクノロジーの融合こそが、現在世界中で新車装着タイヤとしてグッドイヤーが選ばれ続けられる信頼の源になっていると感じる。
EV対応タイヤ「アシメトリック6」
今回試してみたアジア向けEV専用タイヤは私のクルマ生活にはとても合っていた。しかし残念ながらこのタイヤの日本での発売は未定だと言う。EV専用タイヤに求められる条件やモデルが多種多様で、すべてのクルマのニーズをカバーできないというのが理由らしい。そこでグッドイヤーはこれまでのスポーツタイヤの延長線上にEVへの要件も満たすことのできる「アシメトリック6」という新しいタイヤを発表した。従来品のアシメトリック5と比較して、運動性能、快適性、ドライ性能、安全性の項目で性能が向上している。
この「アシメトリック6」では重量のあるEVの瞬発的な高負荷を分散するためにタイヤの接地面積を変化させる「ドライコンタクトプラステクノロジー」やタイヤ自体の軽量化、転がり抵抗を抑える新樹脂配合コンパウンドを採用している。
EV専用にすることでパフォーマンスの一部を妥協するのではなく、これまで同社で培われてきた運動性能、快適性、安全性に「EV対応」という新たな価値を加えた画期的なタイヤと言えよう。
グッドイヤー+EVというイメージはまだまだ薄いかもしれないが、例えばポルシェ、BMW、メルセデス、アウディ、ジャガー、フィアット、ボルボ、テスラなどのEVモデルにはグッドイヤーのタイヤが純正採用されており、欧州を中心にEVにはグッドイヤーという認知も確実に進んでいるという。
日本のオフィスを訪れると、航空機のタイヤと初代のオールシーズンタイヤ「ベクター」がお出迎えしてくれる。そこにはグッドイヤーのゆるぎない自信と製品に対するプライドが表現されているように感じた。
次のEVのリプレースタイヤにはそんな確かな技術力持ちフロンティアスピリットに溢れたグッドイヤーのタイヤを試してみてはいかがだろうか? 私のような新たな発見があるかもしれない。
日本グッドイヤー株式会社ホームページ:https://www.goodyear.co.jp/