オールシーズンタイヤってどうなの? 雪・凍結・シャーベット路面はグッドイヤー「ベクター4シーズンズ・ジェンスリー」で走れたのか?【後編】

オールシーズンタイヤ……普通のタイヤとして使えてちょっとした雪ならそのまま走れ、冬用タイヤ(スタッドレス)への履き替えをしなくて済むことから経済性や利便性からこの数年注目度が高まりつつある。しかし一方で、ドライ路面、ウェット路面、雪道……いずれも中途半端なのではないか?という疑問を抱かずにもいられない。そこで、オールシーズンタイヤの老舗・グッドイヤーの最新モデルである「VECTOR 4SEASONS GEN-3」で実際にさまざまな路面を走りその実力を確かめることになった。タイヤに一過言あり!の山田弘樹がレポートします。後編ではいよいよ氷雪路へアプローチ。雪、凍結、シャーベット、ヘビーウェットという千差万別の路面をチェック!
REPORT:山田弘樹(YAMADA Kouki)/PHOTO:MotorFan.jp

オールシーズンタイヤってどうなの? 高速道路や濡れた路面で確かめたグッドイヤー「ベクター4シーズンズ・ジェンスリー」の実力とは!?【前編】

オールシーズンタイヤ……普通のタイヤとして使えてちょっとした雪ならそのまま走れ、冬用タイヤ(…

気温は氷点下で路面凍結の可能性も?
雪も降り始めていきなりのハードコンディション

試乗は1泊2日のロングドライブだったため、雨の上信越道を後にしてこの日は佐久市内で宿泊。翌日は早朝から出発して八千穂方面を目指したが、相変わらずの空模様と低い気温で、路面状況はさらに厳しさを増していた。

佐久から八千穂まで開通した中部横断道は片側1車線。終点八千穂高原インターまで標高が上がっていき、路肩に白いものが目立つようになる。気温は氷点下で、電光掲示板には「事故」の表示が。

建設が進む中部横断自動車道へ入り一路南下。終点の八千穂高原インター手前から路肩に白いものが目立ち、路面も気温的に凍結が心配な雰囲気だ。

高速出口の誘導路。難しい路面状態の旧カーブといきなりハードな状況が到来。実際、先ほどの「事故表示」はこの誘導路で起きていた。

一般道に入り少し走ると、行き届いた除雪がアスファルトを露出しながらも、ところどころにシャーベット路面が残っている。そして空からの雨は、みぞれに変わっていた。オールシーズンタイヤにとって、いきなり厳しい状況がやってきたという感じだ。

雪は水分が多く路面はシャーベット状の雪とも氷ともつかないものに覆われている。

しかしこうした路面で「VECTOR 4SEASONS GEN-3(ベクター4シーズンズ・ジェンスリー)SUV」は、かなり優秀なグリップ性能を発揮した。気温にしてマイナス1~2度の領域でもゴムは柔らかさを失わず、排水性もきちんと保たれていた。

路面状況について注意喚起する看板も散見される。

前輪駆動ながらZR-Vの走破性にも助けられる

もちろんときおり(氷の路面が現れるのだろう)、ムズムズとした挙動は起きる。アクセルも無造作に踏もうものなら、ピカピカVSA(ビークルスタビリティアシスト)がメーター内で点滅する。

雪なのか氷なのか凍結なのか……八千穂高原の路面コンディションは極めてハードだった。

しかし試乗車が前輪駆動のZRーVであることを考えれば、その走破能力はなかなかだ。四輪駆動(4WD/AWD)と思わしきクルマたちに先を越されることもたまにあったが、地元の交通の流れに対しても遅れを取ることもなかった。

地元の4WD+スタッドレスタイヤと思しきクルマには及ばずとも、困難な路面状況相応のペースで走ることはできた。

そして標高を上げて行くほどに、路面には雪の量が増えていった。それは圧雪と言うほどではなく、しかし磨き上げられた轍(わだち)や日陰には、アイスバーンが目視できる路面だった。
こうした路面だと、スリップ率はさらに高まる。

崖から水が流れ出し凍結したカーブ。完全に凍結している部分、氷がやや溶けてその上に水が載っている部分、シャーベットの部分、路面が剥き出しになっている部分という複雑なミックスサーフェイス状態。
上の写真を車室内から見るとこのような状況。
クルマから降りて確認してみると、やはり路面のμは極めて低い。
上の写真の路面を走る様子を動画でチェック!

スタッドレスタイヤの中でもゴムの柔らかさに特化したタイヤと比べれば、ベクター4シーズンズ・ジェンスリーSUVのグリップ感は正直低いといえるだろう。
しかし速度レンジを高く取った、雪を掘ってトラクションを掛けて行くタイプのハードコンパウンド系スタッドレスタイヤと比べれば、雪上におけるそのグリップ感は、もしかしたら遜色ないのかな? とも思えた。

今回の試乗コースでは深雪や圧雪といった路面状況は確認できなかった。写真は新雪ではあるものの圧雪ではなく、また雪自体も水分を多く含んでおり、雪の層も薄い。

気温で言うと、マイナス5度くらい。
こうした状況ではスピードのマネージメントに注意しながら走れば、突然グリップに見放されるような危なっかしさはなかった。アクセルを踏んで駆動輪が滑ったとしても、その滑り方は穏やかで動きも読みやすい。

フロント周りは氷が薄皮一枚張り付いている状態。LEDヘッドライトでは氷は溶けない。
溶けては固まりを繰り返し氷柱ができていた。
カメラ周りも完全に凍りついており、先進安全装備なども完全には機能しなくなった。

ZRーVのパワーマネージメントはそのほとんどがモーター駆動であることも含めて、滑りながらもトラクションを掛けて行くことが可能であり(VSAはアクティブ。点滅しながらでもアクセルをパーシャルスロットルで維持すれば適切な駆動力をかけ続けてくれる)、慣れてくるほどにジェンスリーSUVの運転しやすさは増して行った。
もちろんその“慣れ”こそが、一番の大敵なのだけれど。

下りS字コーナーでの走り。

こうした雪上グリップの高さには、Vシェイプのトレッドパターンを斜めに横切るに大型サイプの排出性が効いている。さらにはこれと、水平方向に走る細いサイプの交点が、グリップ時に押し広げられて排雪性能を高めるのだという。
ちなみにスノーブレーキ性能は「ハイブリッド」に対して5%向上しているという。

・雪上ブレーキテスト条件
テスト車:国産1.8Lセダン(FF)
タイヤサイズ:195/65R15 95V XL
空気圧(kPa):F250/R240
路面:雪上路面
試験速度:100km/hからの制動(ABS動作あり)
※日本グッドイヤーの資料より
ホイールハウスに雪が固まるほど走った後のタイヤ。
雪の排出性を高めた大型サイプ。
スノー性能に関する日本グッドイヤーの資料より。

オールシーズンタイヤにとって最大の難関となるアイスバーン路面では、確かに雪上とは比べものにならないほど、グリップが失われやすくなる。

「凍結スリップ注意」の看板。表面上はシャーベットだが、その下はアスファルトか、はたまたアイスバーンか……。

ただ意外だったのはこうした路面でも、まったくアンコントロールではなかったことだ。もちろん氷の上を通り過ぎるときは、車速は極めて低く(20km/h未満だろう)保たねばならない。そこがカーブなら手前で減速し、なるべく横Gを出さずにアクセルでジワジワ加速しながら曲がって行く。そうすることでソロソロとでも、アイスバーンを無事に通過することができた。

凍結したカーブの先にトンネルや橋など、刻一刻と変わる路面状況の中を走る。

オールシーズンタイヤでスキー場まで行けるのか?

そして、そうこうしているうちにスキー場までたどり着いてしまった。結果的にではあるが、オールシーズンタイヤでスキー場に行けてしまったわけである。

八千穂レイクスキー場。スキー場周辺は除雪されてはいたものの、ここまでのアプローチはここまで紹介したとおり。また、除雪されて一見普通に見えるこの路面も、決して良いコンディションではなかった。

ただ「ベクター4シーズンズ・ジェンスリーSUVで、スキーに行けるか?」と聞かれたら、筆者には簡単にはその答えは出せない。
クルマが4WDだったなら今回よりもっと楽に行けるだろうし、雪道に慣れたドライバーなら実際は楽勝かもしれない。

一方であなたがスノードライブに慣れていなければ、たとえたどり着いたとしてもスキー場に行くまでに疲れてしまうだろう。さらに雪深い状況では試せなかったので、そこでの結論は述べられない。

地域や季節、道路によって雪の状況は変わる。今回は圧雪、深雪はなかったが、逆に凍結、シャーベット、水たまりなど変化に富んでおり、それらが混じった状況もあった。

たとえばベクター4シーズンズ・ジェンスリーSUVの雪上性能の高さに気をよくして、そのままの勢いでカーブにエントリーするような走りはだめだ。
運転では路面をよく見て黒光りする部分を早めに発見する必要があるし、ブラインドのコーナーは手前ではきっちり減速する用心深さが必要である。それが普通に、できるだろうか?

八千穂高原の氷雪路を行く車載動画。

もちろん一般道には純粋な氷盤路面などほぼなく、そのほとんどが雪とのミックスだから、「思いのほか走れてしまった」という印象を持つ場合も多いはず。しかし100回走ったうちの1回でもクルマをぶつけてしまえば、ユーザーにとってそれは苦い思い出になる。

雪か、シャーベットか、凍結か……ブラインドコーナーの先はまた違った状況かもしれない。

ハイレベルにバランスされたオールラウンダーだが……

総じて「ベクター4シーズンズ・ジェンスリーSUV」は、タイヤに求められる性能の多くを標準的にカバーしたオールラウンダーだと感じた。逆を返せばどこかに特化した性能を持たないし、大きな弱点もないタイヤだと言える。

今回の試乗コースを走ったベクター4シーズンズ・ジェンスリーSUV。

ただしそのレベルは、全てが高いアベレージとなっている。またその中で筆者は、乗り心地のプレミアムさとドライ路面での走りの良さに感心した。サマー性能は今後確認する必要があるが、全ての季節をカバーするコンパウンドの柔軟性と、しっかりとしたタイヤ全体の剛性感のバランスが、それを感じさせたのだと思う。

使い方の提案としては実に平凡だが、非降雪地域のユーザーが突然の雪に対応できることがまずひとつ。そしてほとんど降らない雪と比べて圧倒的に多い、雨への対策も同時に出来る。また雪は降らずとも低い気温に対策できる。そしてスタッドレスタイヤのコストが節約可能になる。
降雪地域においては、ちょっと贅沢な使い方だがスタッドレスタイヤへの交換に対する繁忙期をずらしたり、季節外れの雪に対応できるだろう。

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…