海上自衛隊の新造掃海艦「えたじま」が引き渡され、就役した。2021年3月16日、海自への引渡式・自衛艦旗授与式が造船所のジャパンマリンユナイテッド(JMU)株式会社横浜事業所鶴見工場で行なわれている。「えたじま」は同じ型の掃海艦「あわじ」の3番艦となる。
新造掃海艦「えたじま」が属する同型艦「あわじ」型は現代の機雷戦に対応する新鋭艦艇として海自が整備・更新中の装備体系だ。従来、掃海艦艇は木造だったが、FRP(繊維強化プラスチック)製なのが特徴だ。
掃海とは、機雷など海中の危険物を取り除いて航路を安全にする作業をいう。機雷とは「機械水雷」の略で、戦争映画・潜水艦映画などに登場するアレだ。鋼製の密閉容器に大量の爆薬を詰め、水中(海中)に漂わせ(浮流)たり水底に敷設するなどして使われる。艦船が接触、あるいは接近すると爆発し相手を破壊するものだ。
機雷というと、古臭いイメージがあるかもしれないが、決して侮れない。機雷は比較的安価な兵器でありながら、高価な艦船に一発で大きなダメージを与えられるものだ。機雷の敷設で港湾や沿海を封鎖されれば水上艦艇や潜水艦などは身動きが取れない。機雷原は致命的な障害、死活問題であり、そして費用対効果の高いのが機雷という兵器だ。
機雷はいくつもの種類がある。作動方法や敷設状態、機雷が行なう動きなどの種別があり、感知種別にも磁気・音響・水圧などがある。機雷は基本的にこれらの諸条件を満たすと起爆する。掃海艦艇が木造やFRP製であるのは航走することで発生してしまう磁気や音などを抑えるためなのだ。
機雷を撒くことを「敷設戦」と呼び、相手方を封鎖する目的の攻勢戦と、自らを守るための守勢戦に分かれる。機雷に対処する「対機雷戦」には、艦船を守る機雷防御、掃海・掃討で処分する機雷排除、機雷の性能や敷設箇所を特定する機雷情報と、内容により分かれている。機雷にまつわる攻守や、対応の局面で分かれるシーンのあるのが特徴で、各々は奥深い。
危険を除去して安全な航路を切り拓くのが掃海艦艇の役目だ。どこに潜んでいるかわからない機雷を捜索するのは無人機(UUV:Unmanned Underwater Vehicle)だ。自律制御の海中ロボットが航走し、装備したソナー装置やセンサー類などを使って見つけ出す。こうした掃海ロボットを運用することが近年の掃海の主流になってきているようだ。そして、捕獲した機雷は事後に爆破などの処理を行なう。
「えたじま」には「リーマス600」というロボットが積まれ、装備したサイドスキャンソナーが機雷を探知する。高速航行可能なUUVが海域を広くスキャンし、機雷の敷設箇所を探り出す。光学式の監視装置なども組み合わせる。その後は別の機材を投入してピンポイントで特定したり、処分用機材を投入して対処するなど、いくつかの方法で行まう。爆破処理などには掃海艦艇に積まれた機関砲で射撃し安全化作業を行なうこともある。こうした装備や資機材をコンパクトなボディに詰め込んでいるのが掃海艦艇というフネだ。
長大な海岸線を持つ島国・日本にとって掃海艦艇の勢力はことさら重要に思える。万一、機雷封鎖された場合の港湾や水路で、航路啓開などの危険な作業を行なえるのは海自の掃海部隊やEOD(Explosive Ordnance Disposal:水中処分隊)のダイバーたちなどだけだ。尖閣諸島での脅威の高まりや、関連する島嶼防衛を踏まえると、より重要性は増す。南の島の浅い海で自在に活動できるのは掃海艦艇なのだ。
防衛と同義の災害対応で見ても、東日本大震災の当時、陸上から流出した瓦礫などで障害物のスープとなった三陸沿岸部の各湾、奥深くまで進み、行方不明者捜索を続けたのは掃海部隊だった。そのうちの1隻、掃海艦「やえやま」では、スクリューが瓦礫を噛んでスタックしないよう舵機室(舵取り機構の置かれた船内設備)の機器類に聴診器をあてて異常音を聞き取り、監視しながら航行・捜索したという。
掃海という、そもそも「難事」を切り拓く掃海部隊の行動指針のひとつは「Wooden Ship, Iron Heart」(木製の船、鉄の心)だという。掃海任務に携わる人々の気構えをよく表した言葉だと思う。
最後に艦名「えたじま」の由来について、海自のプレスリリースから紹介すると。『掃海艦の名称は、島の名や海峡の名を付与することが標準とされ、「あわじ」型掃海艦の3番艦である本艦は引き続き「島の名」から選出することとなり、海自部隊等から募集した。「えたじま」(江田島)は、広島県に属する島に由来し、1888年(明治21年)に海軍兵学校が東京築地から移転して以来、海軍ゆかりの島として認知されるようになり、「江田島」は海軍兵学校の代名詞となった。旧帝国海軍解体後も引き続き海上自衛隊第1術科学校及び幹部候補生学校が置かれている。艦名は募集結果及び各種検討を踏まえ、防衛大臣が決定した』とある。海自伝統の根拠地名を冠したフネに込めた想いの強さが想像できる。