軽初ミッドシップ・オープン、ホンダ「ビート」は価格138.8万円。Sが付いていないからスポーツカーじゃないって?【今日は何の日?5月16日】

ホンダ・ビート
ホンダ・ビート
一年365日。毎日が何かの記念日である。本日5月16日は、軽自動車初のミッドシップ(MR)の2シーター・オープンスポーツ「ビート」が誕生した日だ。走りの楽しさを追求した本格オープンスポーツは、高速型・高性能NAエンジンを搭載し、軽快な走りと俊敏なハンドリング性能が自慢だった。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)

■MRレイアウトで軽快な走りを実現したオープンスポーツ

1991年(平成3)年5月16日、ホンダが軽自動車の2シーター・オープンスポーツ「ビート」を発売。1980年代後半に迎えたバブル景気は、軽にも高性能・高機能化をもたらした。その象徴的なクルマが、レスポンスに優れた高性能NA(無過給)エンジンを搭載したミッドシップスポーツのビートである。

ホンダ・ビート
1991年にデビューした2シーターMRオープンカー「ビート」

●バブルの申し子“ABCトリオ”の先陣を切って登場

ホンダ・ビート
ホンダ・ビート

1980年代後半に空前のバブル景気を迎え、「ソアラ」や「マークII」3兄弟のような“ハイソカー”と呼ばれたスポーティな高級セダンが飛ぶように売れ、軽自動車についても高性能、高機能を備えたクルマが人気となった。そのような中、1990年代初頭にバブル絶頂期に開発された3台の軽スポーツカー“ABCトリオ”がデビューした。

オートザム「AZ-1」
1992年にデビューしたオートザム「AZ-1」。ガルウイングのMRスポーツ

・“A”:軽唯一のガルウィングを備えたマツダ・オートザム「AZ-1(1992年~)」
・“B”:高性能NAエンジンを搭載したMRスポーツ「ビート(1991年~)」
・“C”:軽乗用車唯一のFRスポーツカーのスズキ「カプチーノ(1991年~)」

スズキ「カプチーノ」
1991年にデビューしたスズキ「カプチーノ」。軽量ボディのFRスポーツ

衝撃的なデビューを果たしたABCトリオだったが、開発時期はバブル期。しかし市場に登場したのはバブル崩壊時期(1991年~1993年)と重なったため、その影響は大きく短期間で生産を終了した。

ホンダ・ビート
ホンダ・ビート

●高回転型NAエンジンを搭載したMRスポーツ誕生

ホンダ・ビート
「ビート」の車体構造。ミッドシップにエンジンを搭載した後輪駆動のMRレイアウト

ビートは、MR用プラットフォームとオープンモノコックボディを組み合わせ、低重心の理想的な前後重量配分43:57を実現した、2シーターMRの本格的スポーツカーだ。
コンパクトなオープンボディにサイドの大型インテークや手動開閉のソフトトップ、低いフロントノーズなどで、軽ながらオープンスポーツらしさをアピール。パワートレインは、NAらしいレスポンスに優れた新開発の高回転型の3気筒660ccエンジン(最高出力64ps/8100rom、最大トルク6.1kgm/7000rpm)と5速MTの組み合わせ。MRらしい俊敏なハンドリング性と伸びやかな走りを実現し、スポーツカーファンから熱い視線を集めた。

ホンダ・ビート
「ビート」のリアビュー。狭いがトランクルームがある
ホンダ・ビート
ホンダ・ビートのインテリア

車両価格は138.8万円で、ABCトリオの中では最も安価だった。ちなみに、オートザムAZ-1は149.8万円、カプチーノは145.8万円。当時の大卒初任給は17.3万円程度(現在は約23万円)だったので、単純計算ではビートは現在の価値で約185万円に相当する。
ただし、発売直後にバブルが崩壊したため、1996年をもって1世代限りで生産を終えた。

ホンダ・ビート
1991年にデビューした2シーターMRオープンカー「ビート」、幌を閉めたバージョン

●ビートは、オープンカーを楽しむクルマでスポーツカーではない?

ビートの生産終了から19年後の2015年、ビートのコンセプトであるMRレイアウトと低重心を継承した「ホンダS660」がデビューした。エンジンは、ビートがNAであったのに対し、ターボを装着してトルクを太くし中高速域の走りに磨きをかけた。

S660
2015年にデビューしたS660。ビートのコンセプトを継承した軽オープン

ここで疑問に思うのは、なぜビートには車名にSが付けられなかったのか? ホンダのスポーツカーSシリーズは、1963年の「S500」に始まり、「S600」、「S800」、「S2000」、そしてS660と“S”の冠が付けられている。これについて、ホンダは“ビートはスポーツカーでなく、オープンカーを楽しむためのMRアミューズメントである”として、スポーツカーではないと明言したという話がある。
チョット釈然としない部分があるが、作ったホンダが言うのだから…そうなんだろう。

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ビートは、生産が終了してすでに30年近く経つが、今でも根強い人気を誇り、街中で時々見かけることがある。ビートの生産台数3万3892万台のうち、生産終了から26年も経った2021年12時点の残存台数は1万7072台という報告がある。半数以上がまだ市場に残っているとは驚きだ。未だに人気がある、ユーザーが愛着を持って大事に乗っているということだろう。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…