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■トヨタのイメージリーダーを担ったMRスポーツ
1984(昭和59)年6月8日、トヨタから日本初の量産ミッドシップスポーツ「MR2」がデビュー。当時本格スポーツカーを持たなかったトヨタが果敢にチャレンジしたMRスポーツは、販売台数は少なくてもトヨタのイメージリーダーとしての役割を担ったのだ。
●高性能スポーツカーの証であるミッドシップ
MR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)は、車体中央付近にエンジンを搭載し、後輪を駆動するレイアウト。前後輪の重量配分を等分設定し、さらに重量の重いエンジンやトランスミッションなどを旋回軸の近傍に搭載できるので、クルマの重心が中央に集中する。
これにより、ステアリング操作に対してレスポンスの良いクイックなコーナリング性能、優れた運動性能が実現できる。また、フロントにエンジンがないのでフロントボンネットを低くでき、スタイリッシュなデザインができるメリットもある。
一方で、エンジンを通常のクルマの後席付近に搭載するため、車室や荷室に十分なスペースが確保できず、基本的には2シーターとなるので日常的な用途には向いていない。そのため、室内空間の狭さが問題とならず、走行性能を追求するF1やレーシングカー、スーパーカーで採用されるのが、一般的である。
●手頃な価格でデビューしたMRスポーツの人気は限定的
1970年代の排ガス規制やオイルショックを乗り越え、1980年代は高性能・高機能時代が到来。各メーカーは競って、個性的な高性能モデルを投入した。そのような中、トヨタはスポーツモデルのイメージリーダーとして、アッと驚くミッドシップカーを市場に送り出したのだ。
MR2は、スラントノーズにリトラクタブルヘッドライト、リアはハイデッキという典型的なスポーティなスタイリングを纏ったライトウェイトスポーツ。パワートレインは、1.5L直4 SOHC&1.6L直4 DOHCエンジンと5速MTおよび4速ATの組み合わせが用意された。
一方でコスト低減のため、パワートレインや足回りなどはカローラの流用品が多く、スポーツモデルとしては性能不足という声も散見された。
車両価格は、標準仕様(1.5L)で139.5万円、上級仕様(1.6L)が164.2万円。当時の大卒初任給は13.5万円程度(現在は約23万円)なので、現在の価値では標準仕様が約238万円に相当する。これは、MRのスポーツカーとしては破格ともいえる安価な設定だった。
MRスポーツカーを手頃な価格で入手できることから、一部のスポーツカーファンからは歓迎されたが、アンダーステアの傾向が強く“曲がらないクルマ、危ないクルマ”との評価もあり、販売は限定的となった。
●その後MRモデルが続いたが、現在MRモデルは国内に存在せず
その後、ホンダのスーパースポーツ「NSX(1990年~)」、ホンダの軽2シーターオープン「ビート(1991年~)」、1992年には軽初のガルウィングを装備したマツダ「オートザムAZ-1(1992年~)」、軽のスペシャリティカー「2代目ホンダZ(1999年~)」、MR-2の後を継いだ「MR-S(1999年~)」、斬新なデザインの軽乗用車の三菱自動車「i(2006年~)」、本格的な軽スポーツ「S660(2015年~)」と、ミッドシップモデルが続いた。
ちなみにミッドシップだが、最近増えているのが、フロントミッドシップ(FMR)である。エンジンをフロントアクスルより後方になるようにエンジンを搭載するミッドシップレイアウトで、車室空間や収納スペースも確保でき、重量バランスをクルマの中心に近づけて最適化できるのだ。
代表的なクルマとして、マツダ「ロードスター」、日産自動車「R35型GT-R」がある。高い走行性能と引き換えに居住性を犠牲にするMRの弱点を解消できるのだ。
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MR-2がデビューした頃は、バブル景気に向かっていた日本中が浮かれていた時代なので、もっとパワーフルなエンジンを搭載して、ハイステータスの高性能MRにするという選択もあったかもしれない。最近、MR2復活の噂もあるが、期待したいところだ。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。