発射試験を公開! 自衛隊初の長射程弾道ミサイル「島嶼防衛用高速滑空弾」とは何か?

今年3月23日に行なわれた発射試験の映像を、防衛装備庁がYouTubeチャンネルにて公開した。試験はアメリカ国内で行なわれたようだ。画像/防衛装備庁公開の動画より切り出し
7月4日、防衛装備庁は「島嶼防衛用高速滑空弾」の発射試験動画を公開した。これは、文字通り南西諸島の防衛を想定して自衛隊が開発中の新型ミサイルだが、その射程や速度など、従来の装備をはるかに凌駕する性能を持っている。
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

南西諸島をカバーする最大射程900km

防衛省・自衛隊が掲げる防衛力強化の「7つの重要項目」のひとつが「スタンドオフ防衛能力」である。「スタンドオフ(Stand off)」とは「相手との距離をとる」といった意味の言葉で、「スタンドオフ防衛能力」とは「相手の武器の射程外から対処するための能力」、すなわち長射程ミサイルと考えていいだろう。

「島嶼防衛用高速滑空弾」(以下、高速滑空弾)も、スタンドオフ防衛能力のひとつだ。自衛隊では「早期配備型」と「能力向上型」の2段階での開発を予定しており、今回公表された動画は早期配備型のものと思われる。

これまで自衛隊が保有していたミサイルでもっとも長射程のものは陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾(地上車両から発射し、海上の敵艦艇を攻撃するミサイル)だが、こちらの射程が最大200kmである。対して、高速滑空弾(早期配備型)は射程が900kmと言われており、離島に上陸した敵部隊を別の島から攻撃するという戦い方が想定されている。

地上に設置された起立式ランチャーから打ちあがる高速滑空弾。ランチャーは細長く、ミサイルの幅と比較しても単発(1本収納)のようだ。ミサイルの推定全長は9m程度と、これまでの自衛隊が装備するミサイルと比較して、かなり大きい。画像/防衛装備庁公開の動画より切り出し

迎撃困難の新兵器「極超音速滑空兵器」

高速滑空弾は「極超音速滑空兵器」に分類される。これは弾道ミサイルの亜種と言えるものだ。弾道ミサイルはブースターによって宇宙空間に打ち上げられ、ブースターを切り離したのち、弾頭が目標地点に向けて落下していく。簡単に言えば、「飛んで、落ちる」だけだ。弾頭には推進力や方向転換能力がないため落下軌道は単純で、落下地点の予想が容易なため、迎撃できる余地があった(なお、落下速度はマッハ6~20という極超音速のため、これに迎撃ミサイルを命中させることは決して簡単ではない)。

島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)のイメージ。ブースターは1段式で先端に滑空弾頭を搭載している。イラスト/ヒライユキオ

対して極超音速滑空兵器は、弾頭がそのまま落下せず、地球大気の表面を「石の水切り」のように滑空し、目標上空で急降下してくる。そのため軌道が予測しにくく、しかも急降下の落下速度は弾道ミサイル同様に極超音速であるため、既存の兵器では極めて迎撃が難しい。日本だけでなく各国で開発が進む、最先端兵器のひとつなのである。まさに島嶼防衛の「切り札」と言えるミサイルだ。

防衛装備庁の資料に描かれた島嶼防衛用高速滑空弾の攻撃の様子。打ち上げられた高速滑空弾は当初、弾道ミサイルのような軌道を描くが、地球大気の表面を超音速滑空し目標地点で一気に降下する。

早くも再来年には配備開始か?

高速滑空弾(早期配備型)は、一段式のブースターに滑空弾頭を載せたもので、最大速度はマッハ5~7。極超音速滑空体としては短射程の戦術級ミサイルと言える。車両発射式であり、陸上自衛隊に専門部隊が新編される予定だ。先週日曜日にアップした記事にて解説したMLRS部隊が、その受け皿となると思われる。

発表された資料によれば、すでに令和5年度(2023年度)より、早期量産に着手しており、2026~27年度の配備を見込んでいる。長射程かつ迎撃困難な高速滑空弾は、敵の侵攻意図を挫くに充分な能力を備えており、中国との緊張が高まるなかで、大きな抑止力となってくれることは間違いない。

こちらの映像からは弾頭部分と一段式ブースターの構造を確認できる。画像/防衛装備庁公開の動画より切り出し

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著者プロフィール

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綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…